○ガイドの案内

 

ガイド

  竿に付いてる糸通す輪っかであるいわゆる「ガイド」については90年代くらいの、バスロッドへのSIC(シリコンカーバイト、炭化ケイ素)ガイドの標準装備以降、最良の選択は「Fuji社製SICガイド」で答えは既に出ているとずっと思っていた。

 ハードガイド(ハードリング、ハードロイ、アルミニウムオキサイト、アルミナ、酸化アルミニウム)の時点で、既に実用充分な硬度と滑りを有していたFuji社のガイドが、更に滑りも良く硬度も高いことがスペック上あきらかなSIC製に主力を移すにいたり、当時のロッドがグラスからカーボンという素材の劇的な変化と共に遠投性能などの向上がはかられたのと併せて「FujiのSICガイド最強!!」というイメージが我々釣り人、特にルアーマンにすり込まれていったのだと思う。

 その後、フットのデザインが変更されたり、フットの素材にチタン合金が使われたりといった変化はあったモノの、今現在でも「ガイドはFujiのSIC」という状況にはかわりがない。

 しかし、それが最終的に正しい答えなのか、たまに不安になる事実に出くわすことがある。

 

 一番端的な話がSIC製ガイドが割れるという事実。

 釣り竿用ガイドの歴史で最も堅いとされるSICが割れるというと意外に思うかもしれないが、実はモース硬度的に堅い素材はゆがみに弱い場合もあり、必ずしも力がかかった場合の対破壊強度と堅さは正比例しない。

 硬度イコール対破壊強度ではないという事実を端的に表す例は、堅くて有名なダイヤモンド(ダイヤモンドより硬い物質もロンズデーナイトなどいくつか知られているが)を、硬度的にはダイヤモンドほどではない金属の台の上に置いて、金属の槌でぶっ叩くと割れるのである。

 「ダイヤモンド・イズ・ノット・クラッシュ(ダイヤモンドは砕けない)」は極めて中二でクールなジョジョ4部のタイトルだが、実際にはダイヤモンドは砕けるのである。

 モース硬度的な堅さと対破壊強度は正比例しない。この事実が意図的に隠されたり、堅さが強調されることがあるので、単に堅いだけで割れるおそれがある「カーボン+樹脂系」のリールなどを丈夫なリールと盲信して買ってしまうことになるのである。

 SICのガイドが割れた事例は、3例ほど実際に目にしている。いずれもトップガイドで、割れたガイドを使っているとPEラインがささくれて切れるという独特の不具合が生じるので、3度目はターポン釣りに行ったときのマコちゃんのロッドだったが、肉眼でもツメでひっかいても割れているのが分からなかったけど「このラインの切れ方はガイドが割れてるときの切れ方なんだけどなァ」と首をひねっていたら、ケン一がナイフ出してきて、トップガイドに刃先を突っ込んでくるっと回して「割れてるわ」と判定してくれた。確かに尖った刃先を滑らせるようにすると「コツッ」と引っかかるところがありトップガイドに割れが入っていることが確認できた。っていうぐらいにSICのガイドは割れることがあるというイメージがながいこと釣りしている人間なら頭にあって、ナイフ使った確認の方法を知ってる人間なら知っているぐらいにSICは割れやすい素材なのである。

 その昔、というぐらい時がたってしまっていることに愕然とするが、「ザウルス」という則さんが趣味の延長線上で釣り具を作っていたメーカーがあって、そのザウルスがロッドにチタンフレームのゴールドサーメット製ガイドをセットして推奨していた時期があった。その後メーカーつぶれて他の会社でゴールドサーメット積極的に使う会社があまりなかった(あとはウエダくらいだったけどこれも今は無い)ので最近ではあまりゴールドサーメットガイドは見なくなっている。

 正直、スペック上で堅さ、軽さなんかでSICに勝る部分がないゴールドサーメットについては、単なる竿を高く売る金儲けのための戦略でわざわざSICの代わりに選択する必要性など感じず「ゆがみに強く割れない素材なので、遠征時等のロッドケース内でのガイドの破損が少ない、破損も枠から外れるくらいで割れないので接着剤を持っていれば現地で修復可能」とか書いてあるのを見ても「今さら釣り具業界の甘言には騙されんぞ!」と思っていた。

 しかしながら、実際に遠征先でトップガイドが割れるのをみると、まあスペアロッドは当然持って行っているので釣りができなくなったりはしてなかったが、後述するようにぶっちゃけガイドにそんなにシビアに堅さや滑りの良さやらは気にするほどことはないので、割れにくいガイドという選択肢は有りといえば有りなのかなと今にして思う。

 何というかFuji社の、スペックを数値で表示してのSICを売り出した上手さが強烈で、ガイドの選択基準が逆にその数値化されたスペックで判別できるとまですり込まれていたのではないかと思う。Fuji社にしてみれば、自社の過去の宣伝が上手すぎて新しい商売のネタを阻害してしまった形なのかもしれない。

 ガイドの素材は正直、SICほど高性能でなくても良いと最近思っている。スペック上の数値が高いことが必ずしも適切な製品であることを示していないのではないかとも思う。常々、竿やリールのスペックなどについては、思いっきり無視して、実釣での使いやすさをこそ評価するべきだとは思っているが、単純に素材の善し悪しが優劣決めそうなガイドというパーツ単体でみた時はスペックみとけば間違いないぐらいに思い込んでいた。

 SICガイドの売りは結局、「堅くてラインで擦ってもガイドが傷つかない」という点と「熱伝導率が高く、滑りが良く、摩擦熱でラインを劣化させない」という2点に尽きると思うが、実態上、今普通に使われているナイロンライン、PEラインいずれでもSICじゃないハードガイドと呼ばれる酸化アルミニウムのガイドでも問題は生じない。

 トローリングなどガイドが削れるほどの、あるいはラインが痛むほどの高負荷を長時間かけることが想定される釣りでは、ガイドはそもそもローラーガイドにしてしまっている。ラインの性能も上がっていることもあり普通のルアーロッドなどでラインが切れるようなギリギリの細いラインを使うシーンはあまりなく、余裕のある切れない太めのラインを使っているのが今時の釣りである。多少滑りが悪いぐらいで切れるようなラインは今時売ってない。そういう「普通じゃない場合」の細いラインで記録狙いの時などは誰でも言われなくてもSICのガイドを使うだろうが、そうでなければハードガイドでも実質問題は生じない。

 ガイドが削られる事例は見たことがあるが、ほぼ条件が限られていて、それはサーフでPEやフライラインを使った場合である。要するに砂を拾ってくるとラインがサンドペーパーのようにヤスリと化してフライの金属素材のガイドなどは削られることがあるということで、そういうときはSICの堅いガイドが有効なのかもしれないしSICでも削られるときは削られるような気もする。

 トローリングの長時間ファイトやサーフの砂対策以外では、実用充分な堅さや滑りが確保出来るガイドなら、金属系の割れにくいモノにもメリットあるんじゃないかと考える。

 ハードガイドは「酸化アルミニウム」ということで、金属素材で割れには強いのかと思っていたが、調べるとそうでもなくて、むしろハードガイドはセラミック(陶器)の一種扱いで、最初Fuji社も割れやすい酸化アルミニウムの輪っかとガイドフットのリングの間に樹脂製の緩衝素材をかませて、割れないように製品化したようだ。

緩衝材付き

 たぶん写真のがその時代のガイド。上がダイワで下がシマノだが、どちらも竿がシルバー系でグリップがグレーで誰か止めなかったのかというぐらいに似たようなデザインである。

 ルビーやサファイヤも酸化アルミニウムの一種だそうだ。そういえば高級ガイドに「ルビーガイド」というのがあったように記憶している。

 金属系のガイドって、じゃあどんなのがあるの?と考えてみると、まずはフライロッドに付いているスネークガイドがもろに針金みたいな金属である。素材は詳しくは知らないが、金属に表面コーティングした様な感じだと思う。あんまり調べる気もないのはフライロッドでは高負荷をかけるファイトがあまり生じないので、ルアーロッドにはちょっと転用できないような気がするからである。フライロッドはIGFAの一番上のクラスが20LBティペットクラスなので、まあそんなに高負荷を掛けるファイトはしない。8本縒りPE10号でドラグ10キロまであげてゴリ巻きとかは生じないのでスネークガイドでも持つだろうと思うし、それでも心配ならフライロッドでも高番手のはSICガイドが付いてる竿もある。

フライのガイド

 下が一般的なスネークガイドで、上のカベラスの竿についているのはシングルフットのまあ見た目ただの針金の輪っかである。糸で足を巻いて固定する部分が1カ所ですむので軽いとか何とか。そんな微妙な重量関係あんのかね?

 

 では、金属ガイドがルアーロッドで無いかと考えると、昔のグラスロッドにはフライロッドのスネークガイドに近いような針金ぐるぐる巻いた感じのガイドが付いていた。さすがに今日あれは無いような気がする。

 ゴールドサーメットはモロ金属かどうか微妙だが今でも探せばある。Fuji社のカタログにもまだ載っている。調べてみるとゴールドサーメットは金属のチタンとセラミックの合成素材の一種でまあ金属系といって良いようで、ゆがみにも強く割れにくいらしい。

 今日日金属系のガイドが付いたルアーロッドなどゴールドサーメットを除けば無いだろうと思うかもしれないけど、これがあったりするんである。

 日本じゃなくてアメリカ産。

 1つは2ピースのマスキーロッド、バスプロショップスのプライベートブランドモノのペイトマイナシリーズというのを2本持っているんだけど、2本ともトップガイドは日本の高級なロッドを見慣れていると、なんともいい加減に感じる金属製のガイドが付いている。トップガイド以外の他のガイドはハードガイド。買ったときは「硬い竿のトップガイドこそ滑りの良いSICじゃないの?交換しちゃおうか?」と思ったけど、換えてたらアメリカ人に笑われていただろう。要するに2ピースの竿というのは遠征などの携行性を考慮しているはずで、そういう遠征ロッドの運搬中にロッドケースの中で割れるのが「トップガイド」ということを分かった上でのアメリカ人らしい実用的、合理的なガイドセッティングなのである。まあ運搬中に限らず、ぶつけて割ったりスナップ巻き込んで割ったりするのはトップガイドが多いだろう。どのみちクソ太いラインを使うマスキー釣りでラインの方はガイドによる強度劣化だのは気にしなくて良いのでこういう男らしい金属ガイドで良いんである。削れた分には交換するンだろうな。ちなみに当方はライギョ釣りに8号PEで使っていたが不都合生じていない。実用的な良い竿であると思って愛用していた。

マスキーロッド

 もう一丁が、ナマジ大好きアグリースティックのちょっとコジャレタ感のある「Lite」というシリーズの1本。

アグリースティックライト

 買ったときに「何じゃこのウッスいガイドは?」と思ったぐらいに、薄っぺらいアルミ缶のような素材のガイドである。たぶん金属だと思うんだけど、なんだか良くわかんない。見た目も薄っぺらいが、明らかに軽くてこれで良ければ、ガイドなんてこんなもんでいいんじゃ無かろうかと思って、実際どうなんだろうとやや不安を抱えて使ってみたが、別に飛距離も普通に出るし、ワカシ掛けてギュンギュン走り回られても特に問題生じていない。ライトなクラスの竿にはこのガイドでいいんじゃ無かろうかと感じている。この素材がなんなのかは調べてみたいところだが、今のところ分かっていない。

SIC対謎のリング

 上が普通のSICで下がライトについている謎のガイド。薄っぺらさがわかるでしょうか。

 こういう結構いい加減っぽいけど大丈夫な実例を見ると、「ガイドはFujiのSIC」という思いが揺らぐのである。

 

 ガイドの素材については、まあSICは優秀な素材だと思うし、困るシーンは割れたときだけだけど、選択肢としては金属系ガイドというのも、あって良いのかなと思う。

 それは、昔メガバスの竿にそんなのがあった気がするけど、割れやすいトップガイドだけゴールドサーメットという高級路線でももちろん良いんだけど、やっすい竿にはアメリカさんを見習って、安パッチいアグリースティックライトについてるようなガイドという選択肢も用意してくれると、気安くて良いんじゃないかと思うんだけど、どうでしょうFuji工業さん。なんか新しく「TORZITE」とかいうのも出てるみたいですけど、高級ロッド用じゃないいい加減な竿用の良い加減のガイドも是非お願いします。

(2014.6) 

 

○アルコナイト

 日本のメーカーは使っていないけど、アメリカではFujiのアルコナイトというハードロイ系のガイドがよく使われているらしい。SICにちょっと届かないぐらいのスペックで値段は半額ぐらいとのこと。アグリースティックライトについてるのはこれかも。Fuji工業さん色々用意してくれているようだが、日本市場が猫も杓子もハイスペック礼賛でアホだということか。

(2015.11)

 

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