○釣りで一番大事な道具のチューンUP −筋トレ−

  

 プロレスの神様カール・ゴッチは、ダンベルやバーベルを使ってウェイトトレーニングする若手を叱りとばしたそうです。

「人間の体にダンベルやバーベルのような持ち手が付いているのか?そんな都合良く握りやすい対戦相手はいないぞ!」

 そういって、自身は重さ別に揃えた自然石を用いてトレーニングに励んでいたそうです。(註1)

 

 見せかけの分厚い胸よりも、実戦で役に立つパワーを求めるところは、道場破りにきた格闘家を叩きのめす役目も務めていたといわれる神様ゴッチ氏らしいエピソードです。

 

 さて、それでは釣りにおいて実戦で役に立つパワーとはどんなものでしょう?そのために必要なトレーニング方法はどういったものがあるのでしょうか?

 

 通常の釣りでは、ポイント求めて歩き続けられる脚力とか、あきらめずに投げ続けられる持久力とかが必要ですが、パワーという言葉からイメージされるような力強い筋力はあまり必要とはされないように思います。

 多分必要なトレーニングとしてはジョギングとかの持久力を向上させるものが合っているのかもしれませんが、わざわざ鍛える必要があるか疑問です。

 ようするに、数キロまでの魚、例えばなじみ深いスズキなんかであれば特段パワーが無くても充分釣り上げることは可能だと思うのです。多少暴れるにしても通常のタックルのパワー内でカタがついてじきに寄ってきます。

 

 ところが、遠征で10キロを超えるような回遊魚を狙おうなんていうことになると、そもそもタックルが一日振り回すには限界近いような重さのものになり、かつ、魚がかかった後もきちんとしたフォームやテクニック、ある程度の習熟が必要になるのはもちろん、魚の引きに負けないパワーも必要になってきます。

 

 ということで、遠征前何ヶ月間か「筋トレ」に精を出すことになるのですが、ここでどういうトレーニングが必要なのかをいろいろと考えることになります。

 

 トレーニングジムに通って体全体のパワーをバランス良く向上させるのが怪我の防止などの観点からも理想かもしれませんが、なかなかそんな暇もありませんし、実戦を想定しないトレーニングをいさめる先ほどのゴッチ氏の言葉も頭によみがえってきます。

 

 実戦で必要な部分だけを特に重点的に鍛えようとすると、釣りにおけるキャスティング、フッキング、ファイトなどそれぞれのシーン毎の体の使い方を思い出しつつ、それを再現するような動きを含んだトレーニングを考える必要が出てくると思います。

 

 とある、海のフライフィッシングのエキスパートは口が硬くフッキングが難しいターポンを想定して、古タイヤを相手にフッキングの練習を重ねたそうです。フッキングで古タイヤがズッズッと動くぐらいのパワーが必要なんだそうです。その人がターポンを釣るビデオを見たことがありますが、ラインを引きつつ思いっきり竿もあおるフッキングを鬼のようにしつこく連発して見事に針がかりさせていました。

 

 長時間のファイトを前提とするマグロとのスタンドアップファイトの方法を解説した文章では、実際に使うドラグテンションの重さのオモリを20分、使用するタックルにぶら下げて持ちこたえるというトレーニング方法が紹介されていました。

 

 持久力というよりもパワーが必要な釣りの代表的なものとしてロウニンアジのキャスティングでの釣りがあると思いますが、とある兄弟釣り師は片方が運転する原付の後ろにラインを結びつけて実際に使うタックルを持ってその「引き」に耐える練習をしたそうです。もちろん原付が止められるわけはありませんが、止められない状態で持ちこたえつつ可能な限りのプレッシャーを与えることを想定してのトレーニングだと思います。

 俳優の大鶴某氏は、ロウニンアジを想定して当時の嫁さんと愛犬のゴールデンレトリバーにラインを結んで走ってもらったそうです。嫁さんには逃げられたようですが、ロウニンアジはきっと仕留めたことでしょう。(註2)

 

 私が、釣りで筋トレの必要性を感じたのもロウニンアジを釣りに行くことになって、道具を入手してセットしてみたときが始めてのことでした。

 ファイトが大変そうだとは思っていたけれど、その前にそもそもこんな重いタックルを1日中振り回してキャスティングを続けることができるのか?と不安になりともかくキャスティング練習もかねて、浜辺で投げ込みをすることにしました。

 最初はともかく力一杯投げようとしてよけいな力が入っているためか、すぐに疲れるし素手でやっていたので手の平の皮も豆が潰れて剥けました。

 手袋も買って、しばらく投げ込みを続けて何とか投げるための筋肉が付いたのかそれともフォームがスムーズになってきたのか、遠征までにはそこそこ疲れずに投げられるようになりました。

 今でも遠征前には可能であれば投げ込みをし、少なくともグリップだけの竿にリールを付けたもので素振りをしておきます。

キャスティングプラグ(自作キャスティング練習用プラグ(註3))

 

 次にルアーを投げたらそれを動かさなければいけません。今でこそロウニンアジ狙いのポッパーはボコンと大きなポッピングのアクションをさせてからしばらく間をおいてまたアクションさせるという体の負担の少ない方法が主流になりましたが、私がロウニンアジの釣りを覚えた頃には、まだルアーを引くスピードは速ければ速いほど良いとされていて、息を止めて泡引きポッパーやペンシルをファーストリトリーブしたものです。

 リーリングスピードを上げるためには、グリップに装着したリールのドラグを適当にゆるめてラインの先をラインローラーのところに結びつけて、テンションのある程度かかった状態でそのままリールを早巻きするというトレーニングをよくやりました。

 おかげで今でもリーリングスピードには自信があります。海の魚を狙うときにジギングでもキャスティングでもとにかく早く巻くだけという方法が効くときも結構あるので早く巻けることは有利になることがあります。

巻き取り練習アップ(リールをこの状態で巻く)

 

 ルアーをアクションさせて、ドカンと魚がくってくれたら次はフッキングです。ロウニンアジも口が硬くフッキングがゆるいとかかりが浅くなり、バレたりハリが延びたりすることになります。

 これは、某エキスパートに習って古タイヤで練習しかないでしょう。古タイヤを使うとフッキングの練習だけでなく、タイヤを引っ張って寄せてくるトレーニングで寄せの練習もできます。タイヤが軽く感じるようになったら大きいのに換えるなり、坂道を利用して負荷を大きくしたりしましょう。

 外でタイヤを引っ張っていると通行人に奇異な目で見られたりしますが、かまうもんですか!デカイの釣るためには多少の恥ずかしさは我慢しましょう。

 

 さて、魚がかかれば次は一番パワーが必要な魚とのファイトです。

 ロウニンアジの場合最初のダッシュは普通の人には止めるもクソも無く、竿を支えて必死でこらえるだけでしょう。異常なエキスパートは最初からかなりのテンションで止めに入るようですが、素人が無理して真似しても体壊すだけです。

 そのこらえる状態を想定して、自分が想定するドラグテンションに相当する重さのオモリを実際のタックルでぶら下げて、5分なり10分なり耐えてみましょう。

 このとき、いかに正しいフォームが大事になってくるかを身をもって知ることができます。

 よく素人のタレントがテレビでトローリングなんかに挑戦するときに、魚の強い引きに耐えるため、一生懸命竿を腕の力で引き寄せてしがみつくようにしているのを目にしますが、そういうフォームではすぐに腕が疲れて力が入らなくなってしまいます。強い引きに耐えるときには腕の力は使わず、つまり曲げないで腕を伸ばし、竿に指を引っかけるぐらいのつもりであまり力まずにグリップし、重心を後ろ気味に背を伸ばしつつ、ギンバルのある下腹部から伸びる竿と伸ばした腕と背骨が3角形になるようなイメージでフォームを作ります。スタンディングファイトで「黄金の三角形」と呼ばれているフォームです。

 これだと、腕も手首もそれほど力を入れずに済み、人間の体で最も力強い足腰を使って魚の引きに耐えることができます。

余裕片手でも(黄金の三角形)

 さて、最初のダッシュを障害物にもぐり込まれたりラインを切られたりせずに耐えきることができれば、魚もラインのプレッシャーで頭の向きが変わったり、多少引きが弱くなってラインの出がゆるくなってきたりします。

 そうなってくると今度は、ポンピングして魚を寄せる段階です。

 まだまだ魚のパワーも残っている状態では、黄金の三角形を保ったまま膝を落としつつ上半身を反らして引き上げた分を巻き取るという、連続してやると腰を前後にヘコヘコしているようなちょっとカッチョワルイポンピングが精一杯だと思います。

 トレーニングとしては先ほどぶら下げた想定するドラグテンションのオモリを腰をヘコヘコすることにより上下させてみましょう。

 さらに魚の頭がだいぶ上を向き始めるなどこちらにどんどん寄せることができるようになったら、この時点で腕と膝の屈伸も使ったポンピングで大きく巻き取り距離を稼ぎます。

 そのとき気をつけた方がよいのは、普通スポーツで腕の力を使うときには脇を締めることが基本ですが、どうもエキスパートたちのファイトシーンを見るとファイト中は脇を開けた方がよいようです。(註4)

 おそらく、脇を締めた状態では竿を握っている手首の部分が曲がってしまうので、そこに大きな負担がきてしまい長くファイトするには向かないのではないかと思っています。

 脇を開けた場合には、竿に対して手首はまっすぐで素直に握っているかたちになっています。

 トレーニングとしては、オモリを若干軽くして、実際のタックルとフォームで大きくオモリを上下させてみましょう。

 

 さて、こうして魚をゲットしたら、最後には魚を抱えての記念写真が待っています。

 トレーニングとしては、奥さんなり恋人なりを横抱きにして持ち上げてみて「これが○○キロの重さか!」と実感してみてください。くれぐれも○○に入れる数字は問題のないように十分吟味したものとしておくことを忘れずに。魚役の方のお気に召さない数字を口にしてしまい問題が生じたとしても当方は一切責任は負いません。

私は魚(釣友の結婚式にて魚役の私!)

 

 以上、私のトレーニング方法の一部を紹介しましたが、特定の筋肉だけに負荷をかけることは怪我等の問題を起こすかもしれないので、真似する際にはあくまでも自己責任でお願いします。

 できれば、トレーニングの専門家の意見も取り入れてメニューを組むといいと思いますし、最低でも背筋に負荷のくるトレーニングには腹筋を鍛えるメニューを組み合わせることや、トレーニング前後のストレッチを充分にすることなどに気をつけて、怪我の無いようにパワーアップに挑戦してみてください。

 

 

(註1)人間の体には持ち手はついてませんが、幸いなことに竿とリールにはグリップがついてます。ダンベルなどを使ったトレーニングも充分意味があると思います。

 

(註2)だいぶ前の話ですが、某氏が釣り番組でジギングしているシーンを見ました。素人ではなかったです。シャクリのスピードもリズムもそれなりにやりこんでいる釣り人のものでした。かなりの好き者と見ました。

 

(註3)本物のルアーでキャスティング練習してもかまいませんが、たまにライントラブルでラインが切れてルアーが飛んでいくことがあります。実際に5000円からするポッパーを釣りに行く前に海の藻屑にしてしまった友人がいます。練習用に木の棒に適当におもりをかましたものを用意した方がよいと思います。

 

(註4)「GTフィッシングがわかる本」エイ出版の鈴木文雄氏、「海のルアーandフライ講座」のテツ西山氏を見ると力のかかるファイトでは脇を大きく開けたフォームになってます。

 

(2008.8) 

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