○「本のページ」第10部 −ナマジの読書日記2016−

 

 2016年もダラダラと更新していきます。

 

<2016.12.17>

○室井大資「秋津」全2巻 ダメな漫画家とその息子を中心としたホームコメディーなんだが、サブカル野郎が喜びそうな小ネタもちりばめつつ笑かしてくれる。息子のいらか君が困るのをみて喜ぶガールフレンドのコトコちゃんとか、マンガの才能あるけど人との距離感はじめいろいろおかしいショタコンの瀬戸さんとか脇役陣も良い味でてます。ずいぶん前に話題になってた作品なので今更だけど読んだらハマる面白さ。

 

<2016.12.16>

 体力落ちていて、活字の本を長時間かけて読む集中力が湧かないので、マンガを読み散らかしている。新連載始まったばかりので、面白そうなのがいくつかあったのでメモっておく。遠藤浩輝「ソフトメタルヴァンパイア」は元素を操る超能力バトルモノ、のっけのパン咥えた少女が「遅刻遅刻ー」からの大虐殺とかテンポ良く引き込まれる。桑原太矩「空挺ドラゴンズ」は、空を飛ぶ竜?を捕鯨船のように狩る空挺団の話で、獲れたての竜でつくるメシが美味そう。「堕天作戦」は高度な科学を築いたAIだかなんだかが残していった化け物やら機械やらで戦争している話だが、なかなかに独特な世界観がSFチックで楽しめる。

 

<2016.12.08>

○六道紳士「Holy Brownie」全6巻 エログロナンセンスに皮肉めいたパンチが効いてて面白い。神様の使いらしい2人組の妖精?がいろんな時空の人間の行き過ぎをいさめたり、滅びそうになるのを助けたりというのが基本的な話の筋なんだけど、童話風からSF、日常系といろいろなパターンで楽しませてくれる。

○つくみず「少女終末旅行」1〜4 人類が巨大な階層状の構造物を建築した後に戦争かなんかで文明が崩壊して、その荒廃した構造物を少女2人が軍用荷台付きバイクに乗ってさすらうという、弐瓶先生のブラムとか年始に読んだザ・ロードとかも思い出させる終末モノなんだけど、何というかほのぼのとした日常系で淡々とした味わいが深く心を揺らす。良いマンガです。

 

<2016.11.30>

○奥田英朗「どちらとも言えません」 この人のスポーツエッセイはだいたい読んだと思っていたら残ってたので読む。言いたい放題の辛口の突っ込みが相変わらず心地よく、ちょっと不調で集中して活字が読みにくくあれこれ読み散らかしている中でこれだけ読み通せた。

○木尾士目「げんしけん」〜21巻 オタクな大学生の群像劇もここに完結。細かいパロディーネタとか分かるとクスッとさせられていた。なにげに今年は楽しみにしていたマンガが完結ラッシュで、遠藤浩輝先生の新連載がサクッと始まっていて、てっきりプロ篇に続くのかと思っていた「オールラウンダー廻」が完結だったと気付かされたりしている。新連載ではシドニアの騎士の弐瓶勉先生のも始まるようで期待大だ。

 

<2016.11.13>

○施川ユウキ「ヨルとネル」 どうしちまったんだ施川ユウキ。最近書くマンガすべてが面白い。実験室から逃げ出した小人2人のロードムービーみたいなマンガ。ちょっと感動する。

 

<2016.11.13>

○角幡唯介「探検家、40歳の事情」 最近は活字の本は今一ピンとくるのがなくて、マンガとラノベの新刊中心にダラダラ読んでいたが、これは面白かった。地理的不到達点とかのわかりやすい探検が無くなった時代の、悩みがちな探検家の哲学的思考が良い感じである。早速次に「探検家の日々本本」も読み始めている。

 

<2016.10.30>

○宮城公博「外道クライマー」 那智のご神体の滝を登って逮捕されたりしている「外道」な沢登り野郎の書いたものということで読んでみた。
 ご神体の話はちょっと反省もしているようでそれほど外道ってほどでもない感じだったが、タイ遠征で後半余裕がなくなって追い詰められてきたときに一緒に行動するカメラマンの行動逐一について小姑のように文句を付けてイラついている様が、まあ極限でのリアルな心理模様なのかもかもしれないが、「普通は思っても書かんだろ〜」という感じで良い塩梅に外道っぽかった。
 どうにも許しがたかったのは先鋭的なクライマーが自分を鼓舞するために聞く音楽に「ふわふわタイム」なんていうぬるいアニソンを選択しているところだ。興味がある人はyoutubeででも探して聞いて欲しいが、女の子4人組(後に5人)のゆるい軽音部での学園生活を描いた日常モノ「けいおん!」の劇中歌でっせ。ズコココココッとずっこける。まさに外道。
 いろんな意味で欲望に忠実な感じで不快な部分ももちろんあるけど賞賛したくもなる。すごいんだか妙なんだかよく分からん感じで読み物としては楽しめました。

○施川ユウキ「バーナード嬢曰く」3巻 アニメも始まった「ド嬢」の最新3巻も楽しく読んだ。1、2巻の本読みあるある的な面白さは引き続きで、くわえて図書室に4人が集まってのやりとりに所々胸を締め付けるような「青春」感が出てきた。この人のマンガはチャンピオンに連載してた酢飯疑獄の頃から読んでいたが、当時のシュールに振った芸風よりも最近の本作や「12月生まれの少年」のようなやや内省的な誰の心にもふとよぎるようなコトを描き出す感じが一皮むけたように思い好ましい。

 

<2016.10.8>

○菅原正志「釣り場からONAIR」 ケン一からおすすめされて読んだ。たまに釣り番組でもお目にかかる釣り人である菅原氏の釣り雑誌掲載のエッセイをまとめたもので、ルアー中心にいろんな釣りを楽しんでいる。なんといってもすばらしいのがメーカーお抱えのテスターとかじゃないので出てくるルアーとかが渋くて良い。想い出のGTルアーにアーボガストのスカッダーとかシーバスマル秘ルアーとして鉛張ったロングAとかオッサンホイホイである。釣り場からオンエアーのタイトルどおり、釣り場の雰囲気が感じられる語り口でなかなかに楽しめた。

○石田衣良「IWGPシリーズ憎悪のパレード」 胸のすくエンタメ。池袋のトラブルシューターであるマコトが街で起こっている問題に対峙する。その時々の社会問題を取り上げていて、実際にはこんなに上手くいくわけがないとも思うのだが、エンタメなのでキッチリ水戸黄門的に収めてみせて楽しめる。今回は脱法ドラッグ、ノマドワーカー、ヘイトスピーチあたりがテーマ。シリーズ次作も刊行されているようで楽しみである。

○石塚真一「ブルージャイアント」 音は絵では描けないけどそれでも音楽マンガも胸に熱く突き刺さってくる。若きジャズマンの挑戦の日々と青春群像。「岳」の作者の今連載しているマンガだけどこの人の書くマンガは熱量がある。今後も期待。

 

<2016.9.19>

○山田穣「がらくたストリート」全3巻 楽しみにしてた連載マンガが次々終了して新しい作品とか作者とか発掘する作業を雨の連休中やってたけど、これは面白かった。客観的にモノが見えるオタクが書いたマンガという感じ。少年主人公のちょっとSF入った日常モノだけどオタクな方向に突っ込むのをうまく読ませる感じが面白い。若い漫画家先生のようで、まだこの作品しか長編書いてないみたいだけど次の作品も楽しみにしたい。

 

<2016.9.13>

 仕事の行き帰り、行き小説、帰りマンガのいつものパターン。マンガ、「NEO寄生獣」は「寄生獣」のトリビュート企画でいろんなマンガ家が書いていてそれぞれ面白かったが、萩尾望都先生が書いた田宮の娘の話が出色だった。ほかにも、島原天草の乱を描いた「サンチャゴ」とか面白かった。若い頃、歴史に全く興味が無かったけど、年食って多少興味出てきてエンタメ作品では楽しむことがデキるようになった。連合赤軍の話とかもいま「レッド」で読んでる。

 

<2016.9.3>

○村上龍「愛と幻想のファシズム」 多数決が嫌いというネタをブログに書いたときにケン一が独裁的なリーダーの例として本作のトージを出していたので読んでみた。当たりの方の村上龍作品である。村上龍作品には当たりとハズレがあって、架空の近未来とかを描いたのがだいたい「当たり」で、妙に変態的な性描写がつづくのが「はずれ」だと感じている。「当たり」は「5分後の世界」「半島をでよ」「コインロッカーベイビーズ」、外れは「フィジーの小人」「限りなく透明に近いブルー」とかだと思っている。芥川賞取った出世作をハズレ呼ばわりして申し訳ないがオレにはあわん。本作も当たりだったけど、政治経済的な駆け引きの部分は自分が興味ない世界なのでやや退屈だったが、テロやらクーデターやらのシーンはなかなかに説得力のある面白さで「当たり」の村上龍先生節を堪能した。90年代に書かれた作品だが、今読んでも、というかますますトージのような停滞を打破する英雄が求められているように思う。思うんだけど海の向こうのトランプのオッサンとかはチョット違うようにも感じる。なかなか現実には英雄は現れないということか。

 

<2016.8.18>

 アマゾンが電子書籍で、月額定額1000円弱で読み放題のキンドルアンリミテッドというサービスを開始した。読み放題と聞いて、まず気になったのが、キンドルで売り出しているすべての電子書籍が読み放題なのか、そうでないのか?そうでないならどういったモノが読み放題の対象なのか?といったところである。1ヶ月間無料体験版があったので早速申し込んでみたが、すべてが読み放題というのは、新刊の紙の本の売り上げにも影響してくるだろうからさすがになくて、活字の本も漫画も、電子書籍が主戦場の作家の作品やら古い名作やらがメインであった。 

 漫画は「バーナード嬢曰く」が本読みあるあるで面白かったのと、名作SF「地球へ」の原作が読めたのがよかったが、活字の本は正直読みたいのがなかった。

 個人的には、今連載しているような漫画と好きな作家の小説など新刊本が購入のメインなので、アンリミテッドは月あたり2冊も読めば元が取れるけど、正直魅力を感じないのでとりあえず体験版だけで終わりそう。ちゃんと好きな作家が儲かるように新刊本は買いたいと思っているので、読み放題に今以上の充実も求めるつもりはない。楽しんだ分だけきっちり金を払うというのが、現代の芸術のパトロンたるサブカル野郎としてのおつとめでもあろう。金を払う気はあるので、面白い作品をどんどん書いて欲しいモノだ。

 

<2016.8.6>

○夏の読書

 暑が夏い!梅雨も明けて夏本番だが、カラッとくそ暑い。週の前半は、大気の状態が不安定でゲリラ豪雨が来たりして蒸し暑かった。先日は未明にものすごい雷を伴う豪雨で目が覚めたりした。最近の雨はよくあんなに降るなと思うぐらいにドシャメシャに降る。寝苦しい夜に、扇風機かけながら布団に寝転がって眠気が来るまで本を読むというのはなかなかに乙な楽しみだが、暑くて脳みそがトロけそうなのであんまり難しい内容のものは読みたくない。

 こういうときにはサクサク読める面白エッセイなんてのが良い勝負をしてくれる。眠くなったところで区切りをつけてそのまま寝てしまってもいいけんね。私の中で面白エッセイといえばオーケン先生とシーナ先生の両先生が双璧である。しかしながらオーケン先生は本業がバンドマンなのでそれほど冊数が多くなくて、すでに飽きるぐらい繰り返し読んでしまっているんだな。

 その点シーナ先生は頼もしいぐらいの多産な作家である。何しろ月刊やら書き下ろしやらも書きつつ週刊連載のエッセイを一時期2本抱えていたという生産性の高さを誇る。このエッセイが面白くて読みやすい。旅の多いシーナ先生の日常をダラダラと書いているだけのようでいて、なぜか面白くて飽きがこない。これってなにげにすごいコトですな。週刊エッセイの片方「新宿赤マント」シリーズが終了して、こちらは全部読んでいたが、もう一方の「ナマコのからえばり」シリーズの方はまだ連載中で途中までしか読んでいなかった。ここに来てシーナ先生、著書の電子書籍化が進んでいて、ナマコシリーズもキンドル版がドドンと出ていたのでガシガシと読みあさった。やっぱり面白いんだなあ。深く考えさせられるような本や、興奮して夢中になってしまうような本ももちろん良いものだが、あんまり深く考えずにサクサク読んで面白いというのも実にありがたいものなんですねえ。

 シーナ先生、エッセイの中で今まで書いてきた書籍が200冊以上と書いていて、半分ぐらい読んだかなという感じだが、残りまだ100冊ぐらいあるかと思うと頼もしい限りである。エッセイの他にもシーナワールドと呼ばれるSF作品とかも好きだし、もちろん紀行文も大好きなのだ。これだけ冊数があると、電子化されたタイトルとか見てもどれが既読だかおぼつかない。まあ、でも2回読んでも悪いわけじゃないので読んだことなさそうなのは片っ端から読んでいこうとキッパリと思ったところなのだ。

 

<2016.7.3>

○いしいしんじ「ある1日」 頼まれてもまっぴらごめんなことの一つにお産の立ち会いというのがあって、まあ子供持たんかった自分にはそんな機会は幸いなのか不幸なのかなかったが、そんなお産立ち会いの私小説なんだが、なかなかに感動的だった。

○大海原琉葵「遙かなる銀狼」 なかなか面白い釣り小説。釣り師の生態やら釣り業界のグジャグジャやらも適度にリアルで適度に風刺的であるあると頷きながら読み進んだ。突っ込みどころもちょくちょくあるが、作者は電子書籍だけ自分で売っているという素人に毛が生えたような方のようで、そう考えると充分以上に良く書けている面白さ。別作品では誤字の多さをレビューで指摘されていた。まあ、ゲラチェックとか他人の目が入らないとそういうもんだろう。99円という値段の安さに惹かれて試しに読んでみたが損はなかった。

 

<2016.7.3>

 活字の本は電子版で買って放置していた「積ん読」本を3冊ぐらいずつ並行して読み進んでいる。なんぼか在庫が片付いたなかで面白かったのを1冊。

○三浦雄一郎・敬三・豪太「三浦家のDNA」 はスキーで富士山やらエベレスト滑降、最近は80でエベレスト登頂の冒険野郎三浦雄一郎氏とその父と息子がそれぞれの著書からの引用もしつつ、3代にわたるスキー一家の歴史とエピソードを語るというかたちとなっているが、まあ面白い。父の100歳を超えてもスキーの求道者たる気骨も素晴らしいし、100年生きてつらいことやらも沢山あったけど、楽しいこと幸せなことは日々更新されて「今が一番」で「長生きも悪くないですよ」という人生の大先輩からのアドバイスも説得力をもって響いてくる。息子はスキーのモーグル競技でオリンピック出場したぐらいで、技術的には父にも祖父にも負けないという自負を持ちつつも、冒険家としての父には到底かなわないという、単なる技術上の問題じゃない「冒険とはなんぞや」というところに関わる精神の部分に関して考えさせられるエピソードもあって、3者3様の物語が重なって非常に楽しめた。

 マンガは最近楽しみにしていた連載の終了が続く。地味に面白かった「野田ともうします。」も終了。でも新しいマンガも始まっていて、五十嵐大介「ディザインズ」は動物の能力を取り込んだ人間のバトルモノ、というとテラフォーマーを思い浮かべるカモだが、ああいうバトルマンガのりじゃなくて、キッチリしたSF臭漂うマンガで1巻からゾクゾクする感じで期待大だ。

 

<2016.6.20>

山田胡瓜「バイナリ畑でつかまえて」「AIの遺電子」 まだ出てきたばかりのマンガ家っぽいけど、人工知能とか人造人間とかの技術が実用化された近未来を描いていて、ちょっと前にブログで書いた、そのあたりの間近に迫る技術革新の際のありそうな話とか、いろんなパターンで想定して描かれていて興味深い。記憶とかのバックアップ取ってあっても、オリジナルが消えるときにはオリジナル本人には「死」と近いような感覚があるというのはオレも同意見。今後も要注目。

 

<2016.6.19>

 さくさく読める珠キングとか相変わらずオーケン先生再読モノとかを読みつつ桜庭一樹とか。マンガは久しぶりに「バリバリ伝説」再読。学生時代に読んでた作品で当時のモータースポーツの盛り上がりぶりとか思い出して懐かしかった。

○桜庭一樹「少女七竈とかわいそうな7人の大人」 普段読んでるものとは傾向が違うけどそれでも不思議に面白い。最近どうも桜庭一樹は合う気がしてきた。

 

<2016.6.2>

 活字は頭に負担のかからない、オーケン先生、らも先生ものの再読が多いが、他にもいくつか頭に負担の少ないサクサク系の旅行記など見つけたので読んでみた。
○宮田珠己「ウはウミウシのウ シュノーケル偏愛旅行記」 タイトルは「ウは宇宙船のウ」のパロディーでタマキングとSFって意外な組み合わせ。内容は独特の力の抜けた文体で書くシュノーケルの旅。なんというか我が道を行くいい加減な塩梅がサクサク読めてよろしい。
○吉田正仁「リヤカー引いて世界の果てまで地球1周4万キロ、時速5キロのひとり旅」はテレビでみたリアカーマンの話かと思ったら、別の人だった。リアカーマンは砂漠地帯で「オラオラオラオラー」とか鬼気迫るリアカーの引きっぷりでビビらされたが、吉田氏はもう少しマイルドでいい塩梅にぼやきつつ現地の人々や自転車乗りたちと交流なんかしつつ、ゆっくりと旅をしていく様がなかなかに味わい深かった。

○マンガは18巻で完結した「極黒のブリュンヒルデ」がクッソ面白かった。ベタベタな展開っちゃそうかもだが、それでもこの作者独特の味わいがあってオレ的には超楽しめた。岡本倫先生次回作も期待してます。

 

<2016.5.26>

○中島敦「山月記」 今深夜にやってるアニメに「文豪スットレイドックス」という超能力バトルものがあって、太宰治の能力が超能力を無効化する「人間失格」とか、文豪を素材にしているキャラクターと超能力設定が出てくる作品なんだけど、主人公が中島敦で能力が獣人化で虎になるのとかみて、高校の頃教科書で「山月記」読んだなあと思い出して、中島敦あたりの古い文学作品は著作権切れて無料で読めたはずだしということで、見つけてきて読んでみた。「尊大な羞恥心」あたりの主人公の心がまさに高校生ぐらいなら感応できただろうなという感じだが今読んでも十分面白い。他にも「名人伝」「弟子」とか短編いくつかポチって読んでいる。昔読んだサゴジョウの話とかも面白かった。中島敦は太宰と並んで古めの作家ではお気に入りである。

 

<2016.5.18>

 アイヌとかウミンチュ、ウミアッチャーとかの狩猟民族が活躍する物語が読みたいという想いがいつの頃からか自分の中にあって、アイヌ方面については「ゴールデンカムイ」のヒロインであるアシリパさんの胸のすく活躍でだいぶ心が満たされているところであるが、ウミンチュ方面は海洋の狩猟民族関連のルポまで範囲を広げると「コンティキ号」とか「鯨人」とかのド級の傑作があるけど、物語としてはなかなかど真ん中にはヒットしてこない。ので、沖縄関係、南の島関係は読書のテーマとして据えてちょこちょこ気になったものを読んでいる。その中で面白かったのを2冊。
○岡本太郎「沖縄文化論 忘れられた日本」 電子書籍の良いところの一つにこういった古いけど重要な書物が「再版」という在庫を抱えるリスクの大きい手続き抜きで売りに出せることもあると考える。太郎先生の著書で文庫化されたものはほぼすべて読んでいるはずだが、文庫化されなかった大判の書籍や再版かからず入手が難しかったものも、こうやって電子化されればクリック一発で入手できる。つくづく便利な世の中になったものだ。本書は本土復帰がせまる占領下の沖縄に太郎先生が日本の生活・信仰文化の源流を見いだすような旅で、最後に「増補」として12年に1度の沖縄でももっとも象徴的な神事「イザイホー」の取材報告もある。沖縄の社もない信仰の場「ウタキ」に原始の日本人にもあったはずの神と人とのつながりを見いだし、日本の大陸に影響を受けた仏教文化も欧米に影響を受けた鹿鳴館的西洋文化礼賛も特権階級の世界の話で、庶民の生活や信仰的には日本は昔も今も根本的には、太平洋の島嶼国国に近いのではないかという指摘が鋭い。のを始め、さすがは太郎先生という視点が随所に光る、当時ぎりぎり残っていて今では失われた沖縄的なものを伝える証人にもなっている良書であった。
○恒川光太郎「南の子供が夜いくところ」 底本が角川ホラー文庫となっていて、南の島を舞台にヤニューという魔物が出てきたりする連作形式だけど、ホラーというより幻想小説っぽい味わい。以前読んだ同作者の「夜市」もそんな味だった。南の島の呪術師とか出てきて何というか雰囲気のある文章でなかなかに読ませる。ちょっとほかの作品も読みたい作家。

 

<2016.5.16>

○山上たつひこ「喜劇新思想体系」上下 らも先生が良く引用してネタにしていたが、もうものすごいレベルが高かったりしょうもなかったりするギャグマンガ。40年も前にこんなモン書いてたのかよという感じで、いかにらも先生が好みそうなはちゃめちゃで下品で卑猥なネタから、どうやったらその発想がというようなすざまじいセンスの塊のような展開や台詞回し。例えばオレも良くやる題名パロディーで「時計仕掛けのオレンジ」を「ゼンマイ仕掛けのまくわうり」とやっちゃうセンス。なんかしらんけど振り切れてます。山上先生画業50周年だかでほぼ初版時のまま、こんなん載せたらまずいだろうという発禁もののネタまで完全収録、これまで読みたいと思っても読めなかったのはそのエログロ方面でも差別表現方面でも過激な描写から再版かからなかったのだろう。よく電子版出してくれた。「がきデカ」全巻も初版ベースで電子化されたので楽しんで読みたい。

 

<2016.5.10>

○桐野夏生「優しいおとな」 マンガ読みすぎた反動で小説読みたくなって読了。日本の経済が悪化して街にストリートチルドレンが溢れたディストピアな近未来モノ。なんというか、この作家は「家族」なんていうまさに文学が扱うべき主題にガッチリ向き合いつつも、ちょっと謎めいた後を引く設定や書きぶりで読者を引き込み読ませる力量が素晴らしい。要チェックな作家である。

 

<2016.5.8>

 ここしばらく活字が読みにくい状態でラノベとエッセイをパラパラする以外はマンガ読みの日々。
○森恒二「ホーリーランド」全18巻 以前読んで面白かった記憶があるが、ストーリーだいたい忘れてるのでまた読んでみた。福満先生も名指しでほめちぎっていたが、この作品は福満先生やオレのような格闘技やっていない格闘技好きにドストライクなマンガである。路上格闘もので格闘技うんちくがなかなか楽しめる。ジェッツコミックというマイナー誌だが同時期にセスタスも連載していて格闘技好きにはたまらん雑誌だったのかもしれない。
○細野不二彦「ギャラリーフェイク」全32巻 は美術蘊蓄マンガ。これも再読だがやっぱり面白かった。何というか話の作り立ては美術版ブラックジャックという感じで、元メトロポリタンミュージアムの腕利き学芸員だった怪しい美術商フジタの人情ありミステリーありの活躍。
○柴田ヨクサル「ハチワンダイバー」全35巻 は将棋指さない人間でも楽しめる将棋マンガ。将棋マンガというよりはバトルマンガののりで35巻飽きさせない。つり目で大食いのヒロインが魅力的。バチダンバチダン。

 

<2016.4.4>

○「女子攻兵」以降、最近長らく楽しんできた作品が完結ラッシュである。ラノベの「フルメタルパニックアナザー」は、本家の終了後新人が書き初めて期待もせずに読み始めたが、一巻時点でおもしろくなることを期待させるに十分だった。12巻で完結。期待に違わず楽しく読めた。内容はロボットものの王道をいく感じでひょんなことから戦闘用ロボに乗る羽目になった主人公の活躍を描いている。「魔女の心臓」はオレにしてはリリカルなマンガ読むなあという絵柄とストーリー、死ねない魔女が自分の故郷を求めて旅する話だが、なぜ故郷に500年も辿り着けんかったんかあたりの設定もよく練られている良作。8巻で堂々完結。「ナンバーガール」はクローン姉妹16人の学園生活日常4コマものだが、シュールでとぼけた姉妹たちの日常と成長に伴う個性の確立がなかなかに面白かった。掲載誌の関係か刊行ペースがおそくずいぶんまちわびて3巻まで読んだ気がするが、後書き読むと掲載誌が変わったりして6年かかっている。お疲れさまでした。堪能しました。好きな作品が完結するのは嬉しいような寂しいようなである。でもまあ面白い作品はどんどん書かれ続けているので楽しんでいきたい。

 

<2016.3.29>

 祝!「ゴールデンカムイ」マンガ大賞受賞。だから言ってたでしょ面白いって、みんな楽しめるって。大ブレイクの序章という感じか。コレは原作きりの良いところまで進んだらアニメ化も来るで〜。後は「ヒナまつり」がブレイクしてくれれば3連勝なんだけどな。 

 

<2016.3.26>

○松本次郎「女子攻兵」〜7巻 完結!傑作!という感じです。見た目まんま女子高生の身長18mの次元兵器「女子攻兵」に乗って異次元での戦争を戦うという頭悪そな俗悪なぱっと見なんだけど、これが「自分は何者だ」「自分は存在しているのか」というような自己同一性の危機を描きまくった読み応え十分のハードSFなのである。現実とごちゃ混ぜになった妄想と妄想とごちゃ混ぜになった現実がSF的にどちらが正しい可能性なのか危うくなるなか、オレとおんなじコート着てたりする主人公は愛機ラブフォックスの自我と自分のどちらの自我が本物かについて自分の自我を信じて敵機であるスワンプビーナスを狩る。俗悪とハードボイルドと不条理のごった煮。万人が喜ぶ作品では無いかも知れないが、オレが喜ぶ最高にわけのわからん鬼才の快作。どうでもいいけどスワンプフォックスはどっかの独立戦争の英雄のあだ名だったと思うが、我々釣り人はフィリプソンのバスロッドを思い出す。

 

<2016.3.22>

 ここのところ活字はアニメが面白かった「この素晴らしい世界に祝福を!」シリーズをスラズラと読んでいるが原作ラノベも笑えて面白い。10冊ぐらいあるのでしばらくかかって読む。合間に自炊した本もちらほら読んでいる。

○梨木香歩「不思議な羅針盤」 身近なネタから生物ネタからとってもオレ好みな梨木先生のエッセイ。時に共感し時に考えさせられるが、3割ぐらいの確率で遠回りさせてくるカーナビとのやりとりは笑えた。椎名誠先生も女性の声で案内されるのでユウコとか名付けて「裏切り」に衝撃を受けたりしていたが、なんで作家って自分の車のカーナビがポンコツであるという程度のネタで、こんなにおかしくかつ示唆に富んだ話をでっち上げることがデキるのか、ほとほと感心する。梨木先生ちょっと体調崩されてた話も書いていたがお体気をつけて。

 

<2016.3.14>

 体調悪くてしんどいときに、そういう集中力の欠けた時でも楽しめるようなとっておきの2作品の新刊を読んだ。期待を裏切らぬ面白さよ。

○幸村誠「ヴィンランドサガ」17巻 最初の方の血湧き肉躍る戦乱篇が終わって、地味で辛気くさい農奴篇スタートしてしばらく、いまいちつまらなくなったなと思ったが、農奴篇のクライマックスあたりから今やってるギリシャへの道篇の、復讐の連鎖にグッチャリ巻き込まれている主人公がそれを断ち切るためにもがいていくあたりの、心揺さぶられまくるストーリー!ゴメンナサイ最高面白いです!ストーリーも男の友情あり女の挑戦あり面白すぎるぐらいだが、幸村先生絵も上手くて細密な書き込みがすごい。好きなマンガ家の中では森薫先生と双璧だろうか。戦闘シーンとか格好いいし、日常描写も飯とか旨そうでいい塩梅。ギリシャ行って、アメリカ大陸渡って最後どうなるのか長い物語になりそうだが、楽しみに読んでいきたい。

○大武政夫「ヒナまつり」10巻 10巻ぐらいまで行ったらアニメ化して国民的マンガになるに違いないと予想したのだが、まだアニメ化もしてないしこのマンガがすごいとかでも5位とかその辺うろうろしている。知る人ぞ知るとかそんなレベルじゃ無いと思うんだが早く気づいてやってくれ。10巻高校生篇突入だが相変わらずのギャグの切れ味。なんというか今時のギャグマンガはもっとシュールじゃないとダメなのか?ここまで腹抱えて笑えるマンガはそう無いと思うのだが。

 

<2016.2.29>

○都留泰作「ナチュン」全6巻 沖縄のユタとか呪術的な世界とハードSFの融合は諸星大二郎大先生をちょっと中二チックに寄せた感じ。なかなかに期待のマンガ家がでてきよった。面白い。長編2作目の「ムシユヌン」を連載中でこちらも要チェックだな。

 

<2016.2.27>

○沙村広明「波よ聞いてくれ」マンガも種々読んでいるが、久しぶりに電車の中で声出して笑うのを止められなかった。この作者代表作の長編「無限の住人」以外(ゴメンナサイ)なに読んでもツボにはまるが、今作は中でも最高に笑える。エログロ、パロディーが多い作風を反省して恋愛モノをと書いたらしいが、テンポの良いちょっとひねってオタクなオッサンのかゆいところに手が届く感じのギャグの精度よ。たまらんおかしさ。トンチとパンチの効いた台詞まわし。オッサンだけ面白がってるのかと思ったらけっこう評判になってるようだ。まだ2巻だけど続きが楽しみすぎる。こじゃれた恋愛模様とか正直どうでも良くて1ペソも興味ないが、こういう面白い話なら恋愛モノぜんぜんOKっす。先生恋愛要素が少なすぎると反省しておられるが顧みず突き進んで欲しい。

 

<2016.2.20>

 紙の「積ん読」ものはそれなりにはけたと思ったら、キンドル版でダウンロードしたけど読んでないのがたまっているので出勤時小説、帰宅時マンガという感じで読み進めてる。高野角幡早稲田探検部出身の両先生の読んでなかったのとかなじみの作家も楽しみつつ、たまにはあまり読まない作家のも。

○舞城王太郎「ビッチマグネット」池澤夏樹先生がお薦めしていたので読んでみた。舞城先生はいくつか読んでたけど、まあそこそこ読めるぐらいの印象だった。同世代の西尾維新とはデビューしたのが同じ推理小説誌だかでもあり、よく並べられたり比較されたりしているが、割とツボにはまる西尾維新と比べて、池澤先生が芥川賞に強く推していたりしてた「純文学新鋭舞城王太郎」対して「ラノベ書き(蔑称としての)西尾維新」という世間様の評価ほどには何が違うか分からんな、正直西尾維新のほうがおもろいやんケとか思っていた。今作読んでも純文学とエンタメの違いってのは依然としてちっとも分からんままだが、舞城王太郎もおもろいやんけケと評価を改めた。およそ恋愛ものには興味が無いといって過言ではないが、そういう人間にも恋愛もテーマにして読ませる面白さ。なんというかグジャグジャっとした人間の有り様を上手く書けている感じ。

 

<2016.2.4>

 積ん読状態だった本を中心にマンガも織り交ぜて読み進む日々。

○池澤夏樹「終わりの始まり」先生、相変わらず原発に対して理屈っぽく粘着質に反対していて頼もしい。知識人を自認する作家としてこの人のエッセイはその務めを果たしているように思う。

○西尾維新「愚物語」は終わったはずのシリーズだけど、神原選手激闘編に突入しそうなまだまだ続きそうな気配が出てきた。シリーズ終盤?は謎解き系の短編っぽいのが多かったけど物語が動くのだろうか。惰性で読んでたけどちょっと期待。積んでたの読んだら既に次のシリーズ新刊出てる相変わらずのキチガイじみた執筆ペース。

○コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」
 人類が第3次世界大戦的な最終戦争をやらかした後の文明が崩壊した暴力と略奪の吹き荒れる世界観。というと「マッドマックス」やら「北斗の拳」やらヒャハーなモヒカンどもに対抗するレジスタンスとしてのマックスやらケンシロウの活躍が頭に浮かぶが、本作はヒャハーなモヒカンどもから逃れてショッピングカートを押しながら流れ流れていく父と息子の物語である。ひたすら食料を探して、人目を避けて警戒しながら、寒さに震えながらの道行き。椎名誠激賞に加えて角幡唯介も絶賛していたが、それも納得の読書体験。子供を持つこともなく発揮する場面も無かったオレの父性でさえ共鳴するような父の有り様。英米文学とかロシア文学の傑作とか今一ピンとこないこと多かった我が読書人生だけどSFの傑作はヒット率高い。SF好きを自認するほどではないが相性良いのかも。

 

<2016.1.11>

 ここのところ連続して、積ん読状態だった文庫を自炊したのをキンドルで読んでる。痛勤電車だと活字が集中して読める。その中で面白かったのを2つほど。

○ロバート・A・ハインライン「夏への扉」早川文庫SF 夏で扉というとオッサンだと聖子ちゃんが「フレッシュフレシュフレーッシュ夏は扉をあけぇってーん」と歌っているのが脳内自動再生されてしまうが、ハヤカワということからも分かるようにSFの古典である。タイムトラベルモノってアレがコレにつながってそうなるのか!という伏線回収の妙味を楽しむものだが、今作も窮地に追い込まれた主人公が逆転、大団円な感じで堪能できる。ハインラインって「スターシップ・トゥルーパーズ」の原作者という知識があったので、ああいう大味なUSA的イメージを持っていたけど、なかなかに情感ある小味の利いた作品だった。年食ってからボチボチと名作SFを読んでいるがなかなかに楽しめる。

○角幡唯介「アグルーカの行方」集英社文庫 ツァンポー渓谷探検の時もそうだったけど、この人の探検は探検の歴史に迫るというか、本人も書いてたけど「物語」を追いかける探検になっている。今回のテーマは北極圏探検で遭難全滅したフランクリン隊の足跡と謎を追うような旅なんだけど、自らの行程と推理とを交互に交錯させるスタイルは読み応え十分で熱中して読んでしまった。「探検とは」とか自問自答するシーンも多いんだけど、衛星携帯とか持たずに行きたいというあたりの、そういう便利さや安全性から離れれば離れるほど自然に肉薄し、限界のなかで探検が自分にとって意味のあるものになっていくというあたりは分かるような気がした。後書きでこの旅に影響を与えた本として南極探検でアムンゼン隊に敗北したスコット隊の遭難が描かれているらしいチェリー・ガラード「世界最悪の旅」が出ているのは当然といえば当然だが、椎名誠も激賞のSF、荒廃した世界を親子がさすらうコーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」を上げていたのは意外だった。実は偶然にも両作品とも積ん読だったのを自炊した中にあったので、どちらも読まねばなるまいと思ったところである。

 

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