○「本のページ」第11部 −ナマジの読書日記2017−

 

 2017年もダラダラと更新していきます。

 

<2017.11.30>

 不調が続いていて活字が頭に入ってこない有様。マンガも新刊たまってて、間違いなく面白そうなのから優先的に読んで何とか読み続けられる状態。そんな中でも面白いマンガは面白いとしか言い様がなく素晴らしい。ヴィンランドサガの最新刊も面白かったし、アヴァルト最終刊出たので全巻読み直したらこれまた痺れる面白さだった。

○光永康則「アヴァルト」全6巻 AI(人工知能)が知性を持って自立進化し始める「特異点」が近い将来に来るだろうとか、再生医療とかで体を新しいパーツに取り替えることができるようになるだろうとか、そういう時代になったとき「じゃあ人間ってなんだろう?自己同一性って何だろう?」っていうのは、そういう近未来前夜ならではの哲学的課題だと思うけど、そのあたりをガッチリ描いている。といってもガチガチのハードSFではなくて、適度にファンタジーかつゲームの世界が特異点を越えたAIによって現実化された世界に放り込まれた登場人物達の活躍を描くという、今のマンガで活況の異世界モノの一種でもあって、今の時代に「マンガ読み」としてこういう作品を目一杯楽しめることの僥倖。ちょっと最後はもっと長大な物語に突入できそうな所をシュッと尻切れトンボ気味に終わらせてしまったところがもったいなく感じたけど、それにしても傑作だとおもう。情報を基に構築された「アバター」であるカエル男が生身の人間である少年をテレポートさせることを、全情報が再現されるとしても物質的に別物になるのをやっぱり自己同一性の断絶じゃないかと心配するけど、心配されている本人は理屈とか知りもしないのでためらいなくテレポートするのには、実際眠るたびに意識が断絶されても自己同一性の断絶と感じないのに、自分のコピーを作ったら意識が途切れて自己同一性が途切れると感じる不合理性についても、そういう感情面さえ「知らなかったり」ごまかしてしまえば自分のコピーを作るのも受け入れられるようになるのかな、とか思わされたり思わなかったり。あと、ゲームのキャラクターが進化した存在である吸血鬼が、自らが創作物として作られた存在であると聞かされてなお、何のために自分が存在するのかについて、「答えなど必要ない、ただひとつ俺を俺たらしめているのは矜持だ」と、矜持をなくしたらその瞬間自分は価値を失うだろうと力強く言い切っているのとか、ちょっとジュンとくるぐらい格好いい。実社会で目にすると、吐き気をもよおすほど不快なのが「利己的な遺伝子」のアホな解釈で人間なんて所詮遺伝子を運ぶ乗り物で遺伝子の操ったままに動かされてるだけの道具だから、とかいって浮気とか己の不道徳を正当化したり、やるべき努力を放棄する言い訳にしたりしている論者で、もちろん人間も物質でできてて遺伝子とか後から入手する情報とかに大きく影響されて動く「モノ」であることは間違いない。だとしても己を単なる「道具」だと蔑むような輩に人間としての本当の価値のあることが分かるとは思えない。たとえ道具だとしてもその道具はモノを考え、いろんな情報を取り入れ影響を受け、いくつもの選択肢のある中からいくつもの判断をして形作られた自分だけの道具である。オレやあなたの胸にある矜持も心に感じる喜びも、それは答えや理由も必要なく信じるに値するものだと感じられ、その感覚こそが個人において唯一正しいもののはずだ。「俺は道具だから」と無為に生物種として遺伝子を残すためだけに、社会的生物ヒトとして社会の歯車としてだけに生きるなら、そんな人間に価値などないとオレは思う。生物として生き、社会の一員として生きたとしても、その内外に自分のための幸せや矜持や楽しみや怒りや目標やなんやかやを求めて一つ一つ特別なモノとして味わって生きずして何の人間か?矜持もなく道具としてしか生きないような人間なら、そのうち特異点を越えてでてくるだろう人工知能よりまったくもってつまらねェ輩だと思うのである。特異点超えのAIが出てくるとして、議論の流れはそれが「ヒトから仕事を奪い究極にはヒトを排除する」と「ヒトの良きパートナーとしてヒトと共存する」のどちらかという2択のようになっていると感じるが、こんなもん当然ながらAIにも多様性が生まれて、便利な相棒から恐ろしい敵までその間の中間的なものも含みながらいろんなAIが生まれてくることになるんだろう。そいつが良いやつなのか悪いやつなのか、人間にするのと同じように警戒しつつも少しづつ接触しわかり合いながら駆け引きしながら関係を作っていくようになるのではないかと夢想している。

 

<2017.11.29>

○Cuvie「絢爛たるグランドセーヌ」第9巻 前巻ラストでオレたちの闘いはこれからだ的な終わり方で、いつも巻末にある豆知識コーナーとかもなかったので、てっきり打ちきり終了だと思い、チャンピオンレッドの編集者と読者は見る目がないと憤ってしまったが、全くの勘違いだったようで新刊出てた。あらぬ言いがかりでスマヌ。この物語の続きが読めるのは嬉しくてならない。最近のスポーツマンガは、荒唐無稽なぶっ飛んだものと、緻密な取材に基づいた選手の心理面や支援する親や指導者の心の揺れとかまで描くのと二極化しているように思うけど、本作は典型的かつ気合いの入った後者で、バレエを続けさせるための親の経済的心配とかまででてきて、そういう細かい背景描写も物語に緊迫感やら熱やらを生みじつにコクのある味わい深いマンガとなっている。オッサンの中の乙女がいま一番期待して続きを待つ作品だ。

 

<2017.11.23>

 ここしばらく、活字もマンガも今一集中できてない。読んではいるけど感想書くほど心に引っかかってこない。それなりに面白いのでも読みかけて途中で手が止まる。一気に読んだのは「ヒナ祭り」の最新刊ぐらいか。読みたい本が積み上がっているので冬の間にセッセと読まねば。

<2017.10.10>

○内澤旬子「飼い喰い」 アマゾンの「ほしいものリスト」に読みたいけど電子化するか文庫化するのを待っている本が結構たまっていることに気づいて、よく考えたら電子化は高い道具も買ってあるので自炊すればいいわけだし、文庫化も貧乏学生だった頃の習慣と保存場所の問題からの癖で待ってるだけで今となっては待つ必要がないということにも気づいた。ということで5冊ぐらいまとめて買って自炊して読んでいこうということで真っ先に読みたくてたまらなかった本作から読んだ。だいぶ前に読んだこの人の「世界屠蓄紀行」は日本だと屠蓄業者が食肉加工してくれているので見ることの少ない家畜の命を奪って食べるという現場からの、イラスト付きの詳細なルポルタージュで、当時獣の解体方法を知りたくてもそういう本がないなか、やっと見つけて内容の面白さもあってむさぼるように読んだ記憶があって、同じ作者が実際に豚を飼育して食べるところまでやってみたという本書に胸躍らせて読んだ。絶対売れないだろうと思って単行本で買った前著が、文庫化されるぐらい読まれて、野生動物の肉もジビエだとかいって注目されるようになって、命をいただきますなことについて、当時と比べても関心は高まっていて、それはとても良い傾向だと思う。差別用語とされていたらしくて漢字変換してくれなかった記憶のある「屠蓄」という漢字が今回ATOKで一発で変換できるようになっていて屠蓄業者の仕事の尊厳を取り返すことができてきたようにも感じ地味に喜ばしい。内容はもう期待以上の面白さで、感動し、考えさせられる。ぜったいみんな読むべきだと思う。今時ネットでいろんなことが調べられて、それで分かった気になってしまいがちである。それでも内澤先生は分かった気にならずに実際に豚を飼って、かわいがり、苦労し、ためらい、疑問も感じ、誇らしい思いを抱き、当たり前の残酷さを感じ、さまざまなことのありがたさに感謝し、食べることの喜びと贅沢さを思う。ネットにでも転がっている「イベリコ豚はドングリを食べさせているので脂が軽い」とかクソ以下のグルメ情報なんてほんとにどうでもいいことだと声を大にして訴えたい、そんなクソみたいなグルメ情報に踊らされている暇があったら、「世界屠蓄紀行」と「飼い食い」を読んでスーパーでパックに入って売っている肉の根本的なところを考えてみてほしいと切に願う。「いただきます」という言葉になにか免罪符のような都合の良さを感じる内澤先生の感性は実に信頼できるものなので、本を読んで得られるものが実際に行動して得られるものとはまた違うものだとしても、真に読む価値がある本だと確信的に思うのである。昨今情報さえもファストフードのように簡単に手早くというのが求められるようになってきているような気がするけど、そんな安デキの薄味のものにはない時間をかけてじっくり楽しめる濃い面白さが本にはあって、読書という楽しみの価値は今も昔もこれからもなんら変わらないのではないかと思っている。

○竹中由浩「ユキ」 竹中先生、ご自身のサイトで小説の売れ行きが釣り具の本と比べて悪いことをぼやくぼやく。仕方ない、ファンとしては読むしかないかと、本書を読んでみた。先生あんまりサイトで売れてないとか書かない方がいいよ。読んだらおもしろいのに「売れてないってことはおもしろくないのかな?」と思ってしまうって。セルフネガティブキャンペーン状態になってます。内容は釣り好きな青年と少年が謎の女性ユキに振り回されつつ自分たちの釣り場にできるダム計画をブッ潰すという、釣り人ならスッキリできるもので、ご自身も書いているように読みやすく短い作品でさくっと読めたけど、竹中先生の長良川河口堰に始まる醜悪な公共事業に対する積年の憎悪とかの気持ちを知っていて全く持って共感できる身としては、そういう背景もあって味わい深く読めた。キンドルで自主出版しているのでキンドル版しかでていないようだけど、スマートフォンにキンドル読めるアプリを入れると読めるはずなので、値段も生産者直売で300円とお安くなっているので、この機会にぜひいかがでしょうか?

 

<2017.9.22>

○技来静也「拳奴死闘伝セスタス」1〜7巻 しばらく前に7巻出たので読んでたけど、ブログで格闘技ネタ書いたときに、今の総合格闘技の金網で囲まれた檻で闘う2人の人間を観客が熱狂して観ている、ちょっと残酷な見せ物が、全くもって皇帝ネロの時代の拳奴たちの闘いと同じだなと今作を思い出して、そういえばこんな面白いマンガを紹介してなかったなと反省。奴隷の身分のセスタス少年が拳闘用に買われて、師匠であるザファルと出会い様々な困難を経て逞しく成長していく王道のスポコンで、ローマの歴史絵巻もストーリーに絡ませつつ、豆知識も楽しく展開していくんだけど、なんといっても師匠のザファルの勝負哲学が胸にズンッと響いてくる。7巻でもセスタスが激闘を制した後に、他の弟子たちに聞かせるように発した「「一敗」から得られる教訓も貴いものだが「一勝」の価値は比較にならぬほど重い!!」の台詞に痺れた。ちなみに今作は第二部で第一部は「拳奴暗黒伝セスタス」のタイトルで出てます。

○山口貴由「衛府の七忍」1〜4巻 待ってましたの最新4巻が出たので最初から読み直した。もう最初のカラーページのマタギみたいな狩人装束の主人公?カクゴが大鉈後ろ手に構えてるシーンからして美しカッコ良くて、カラーで読めるタブレット買って良かったと思わされた。物語は徳川家康が天下統一し絶対的な権力を手にする中、敗者として追われるもの、支配体制から漏れたもの、隷属の身分に貶められるもの、迫害を受けるものなどの「まつろわぬ民」のために闘う者たちの群像劇。と書くと本格歴史ロマンっぽく、まつろわぬ民としてサンカとかいきなり出てきてこりゃ相当資料にあたって調べ上げてるっぽいなとは思うけど、無惨に殺された者が衛府(異世界らしい)の使いの竜の導きで怨身忍者として甦り、山口先生お得意の強化外骨格っぽい鎧をまとって超常の技で敵を倒す、しかもラスボスの家康は巨大ロボみたいな大具足「金陀美」を履いて闘うらしいという、山田風太郎の忍法帳シリーズにSF混ぜて、少年マンガとして美しカッコ良く昇華させたような作品なんである。なにせ怨身忍者の見た目からしてやけに格好いい。今時の仮面ライダーにも通じるような骸骨と節足動物を思わせるような生物的でありつつメカメカしい感じで、それぞれの怨身忍者ごとの個性にあった意匠なんだけど、良くこんなややこしいデザインの絵を描ききるなと感心するほど。台詞回しや設定も山口先生の独特のセンスが随所で爆発していて、例えばヒロインの一人、真田家重臣の娘イオリが驚くと吐く「半端ねえ」と書いて「ぱねえ」と読ませる台詞とか、武家の娘として「義」を説くような生真面目さを持たせつつ、今時のハスッパな娘さんのような言葉遣いをあえてさせていることによる違和感が独特の世界観を感じさせ心地よく、魅力的なヒロインを生んでいる。今のところ出てきたまつろわぬ民は、落ち武者、サンカ、アイヌ、女衒、ウチナーンチュ、隠れキリシタンで敵側にも桃太郎やら宮本武蔵といった魅力的な面々がいて、敵か味方か物語の鍵になりそうなハララ(カクゴとハララは他作品でも出てきていていわゆる手塚式のスターシステムっぽい)とかもいて、今後七忍出そろってどんな風に物語が展開していくのか楽しみでならない。オリジナリティーあふれる奇想天外な世界観、美しカッコ良いマンガ的描写、激熱の物語、魅力的な登場人物たち、山口貴由の代替不能な濃いぃ才能が火花を飛ばし炸裂する、癖はあるけどコクもある大期待作なんである。

 

<2017.9.12>

○川上和人「鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ。」「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」、前野ウルド浩太郎「孤独なバッタが群れるとき」 ここしばらくアリ関連の研究者の書いた本とかを読んで、やっぱり研究者が書いた生物の話って、民放の動物びっくり番組レベルの表面的な話じゃないところまで突っ込んでてたまらん面白さがあるなと思い、とはいえ専門外の人間が論文とか読むのはさすがに知識が足りないので、研究者が一般向けに書き下ろしている本で面白いのがないかと調べてみたら、我らがバッタ博士の他に鳥類学者の川上和人先生が面白いという評判だったので、2冊ほど読んでみた。おやじギャグと同世代なら分かるパロディーネタ連発でサービス精神旺盛。中身もなかなかよかった。でも、なんというか研究者が狙って面白くしようとしているんじゃなくて、本人くそ真面目に研究してるんだけど、そこに生じる狂気やおかしさとか、生物が持つ不思議の面白さこそがこの手の本の醍醐味だと思うので、ややサービス部分が過剰にも感じた。その点、前野ウルド先生の本はきっちり科学読み物の形を取りながら、緻密な実験により解き明かされていくバッタの謎に引き込まれるような面白さを感じた。これぞ科学者という感じ。今時DNA解析やら各種金のかかった先端の分析機器を使った研究が華々しく報告されるけど、この本ではとにかくやたらめったら沢山バッタを各種条件で育てて、チミチミと統計取ってという、何だったら夏休みの自由研究でも手法的には再現可能なぐらいの古典的な実験が主だったりする。でも、その実験がなぜ必要で、明らかにしたいことは何かと的を絞って、地道に草刈ってバッタに与えて導き出した結果は、再新鋭の手法を使いこなした実験結果に引けを取らないすばらしさだと感じた。バッタ自体をホルモンの効き具合を調べるセンサーにした実験系を構築したりもしている。科学の世界でも道具がショボくても、きっちりとした基礎と明確な目的意識を持った戦略が強いというのを頼もしく感じたところである。金がねえやつぁ頭と手足を使えってことだ。

○吉村昭「魚影の群」 昔映画化もされたらしい今作をなぜか読んでなかったので読んでみた。海とか魚とか好きなら読んどけよという感じでゴメンナサイ。吉村先生といえば「熊嵐」とか三陸の昔の津波の話とか、丁寧な取材に基づいた迫力のある文章を書く人という印象があったので期待したら期待以上。ネズミの話、鵜飼いの話、でんでん虫の話、マグロの話と4編の含まれる中編集だけど、表題作のマグロの話が特によかった。なんというか鋭い刀でスパッと切ったんじゃなくて、鉈でぶった切ったような切断面ザラザラとした感じの残るような重い切れ味のある文章。久しぶりに読みごたえのある小説を堪能しました。

○萩尾望都「春の夢」 神ってる、とか軽々しく呟かれる昨今、神の価値も下がったもんだと思うけど、少女マンガの黎明期から活躍しその礎を築き、少女マンガ界に限らず表現者に多大な影響を及ぼして、今日いまだもって現役でマンガ描いてる、こういう方こそ「神」と呼ばれるにふさわしい「少女マンガの神」萩尾望都先生の代表作「ポーの一族」の続編が出たとなれば、読まずにいられまいというもの。「フラワー」だったかの掲載された号は重版かかるという異例の事態だったそうな。単行本化電子化を待っての購読。最初さすがに40年からのキャリアを経ての絵柄の変化もあったりして、やや違和感があったけど、そんなものはすぐに気にならなくなった。切ないぐらいに美しく儚い、まさに春の夢という感じで、四十半ばのオッサンもうっとり。先生お体お大事に長生きしてください。

○岡本倫「パラレルパラダイス」1巻 待ってましたの岡倫先生の新作。岡本倫は奇才寄りの天才である。エログロ萌えが混然となった作風から油断のならない面白さを醸し出してくる。新作はどんなだろうと、わくわくしながら読んだ。何の変哲もない高校生が、人間の男が滅んで永い時が経った異星に突然飛ばされてしまう。なんなの?この使い古された頭の悪い中学生の妄想みたいな異世界転生モノ設定。しかも、住民は男に免疫がないうえにみんなエッチで主人公モテモテとか、それなんてエロゲー?っていうぐらいのこれまた陳腐な設定。先生は感性がちょっと普通じゃないネジの何本か吹っ飛んだ人だから、思いつくままにサービス精神旺盛に盛りまくってごく自然にこういう作品になったんだろうけど、編集者ちゃんとみてダメ出しして止めてさしあげろと思った。思ったんだけど、これが読んでみるとどうにもこうにも面白いんである。中二の妄想みたいなエロマンガみたいなネタなのに、まごうことなく岡倫先生の面白さが爆発してるんである。こんなクソしょうもない設定のマンガが面白いなんて、アタイくやしいッ!!でももう次も楽しみでしかたないの。

 

<2017.8.26>

○三浦健太郎「ベルセルク」1〜34巻、山口貴由「覚悟のススメ」全11巻(再読)、江野スミ「たびしカワラん!!」全4巻、をあっち読みこっち読みの並列読み。3作品とも異形の化け物やらあの世とこの世やらが出てくるオドロオドロしい作風だけど、ここしばらくそういうのが馴染むおつむの状態だったような気がする。特にアニメみて続きが気になって仕方なかった「ベルセルク」はちょっと凄かった。人気作というのは知ってたけど正直これほどまでとは想定外、脱帽。大ヒット作品のワンピースの面白さがさっぱり分からんかったので、ファンタジー系の人気作ってリア充向けやろと苦手意識あったけど、ベルセルクはオタク向けや、血煙あげて異形の化け物がバッコするグロテスクな世界観が、これでもかというぐらいの緻密な筆致で描かれる。作者遅筆で有名だけどこれ描くのは時間もかかるだろうけど魂削らんと描けんゾ。続きも楽しみ。主人公ガッツの「祈るな!!祈れば手が塞がる!!」、「戦場にゃ一番手になじんだものを持ってきたいんでね」の台詞はいつか使いたい。

 

<2017.8.4>

○松良俊明「砂の魔術師アリジゴク」中公新書 アリジゴクだけで1冊書くネタあるんかい!?と驚くとともに、逆にアリジコクだけで1冊書いてしまったような、マニアックに奥深くつっこんだ本が面白くないわけがないと確信して読んだ。読みどおり。あのすり鉢状の巣が前と後ろで傾斜が違って、攻撃得意な背面側をワザとユルくしている。それを知ってかアリは急斜面に逃げるとか、生死をかける攻防。アリジゴク専門の狩りバチがワザとアリジゴクに落ちて挟ませた隙に卵を産み付けるとかほとほと感心する。知ってどうなる?という知識だけどとっても楽しい。こういう面白い本を読まずに、ためになるビジネス書とか読むような人生を送らずにすんで幸いである。

○山本章一「堕天作戦」1,2巻 高度なAIが残した遺産的な技術とか、あからさまに生命をいじりまくった生物達とか、いかにもハードSFな設定の世界観が自然に身についている感じの描きぶり。設定はかなり作り込まれていて重厚な感じなんだけど、物語の語り口は軽やかでいて、よく練られた筋書に続きを期待せずにいられない。日本の漫画界において「SF」ってのはひょっとして豊作の時を迎えているのではないかと「アヴァルト」に続いて面白いSFマンガを読んで思う。「裏サンデー」というネット配信のマイナーな掲載誌?だけどコレは密かに面白いのが出てきたと思う。

○武田一義「ペリュリュー」1〜3巻 夏には課題図書として戦争関係のを読むことにしている。パラオに行ったときに同行者が「こんな楽園みたいな所まで来て戦争なんかせんでもいいのに」と言っていたが全くそのとおりだと思う。でも戦った。今時の若いマンガ家が丁寧に取材して描いた力作。時が経てば記憶でも何でも薄れていく。そういう中で若い人が若い感性で戦争について語り継いでいくことにきっと意味があると信じる。

 

<2017.7.24>

○光永康則「アヴァルト」1〜5巻 「怪物王女」の作者。現実化したゲームの世界に取り込まれてという、ありがちなゲーム世界転生モノかと思ったら、けっこうがっちりSFで、話の展開もトリッキーで引っ張り込まれるうまさ。こう来たかという感じでオリジナリティー高くなかなかにやりおる。 

○古賀亮一「電撃テンジカーズ」全3巻 は、昭和テイストのギャグの乱れ打ちに、健全なエロシーン。西遊記マンガなのだが、おっぱい眼鏡な三蔵、ロリ八戒、ショタ悟空、威嚇射撃さえ全弾尻にたたき込むバイオレンスな沙悟浄、ついでのギャグ担当三蔵太郎に金閣銀閣チャンやら女村村長やら変な妖怪やらがでてきてノンストップ。ばかばかしくも面白いのです。

  

<2017.7.3>

 活字の本も通勤練習の電車の中でそこそこ読んでいる。面白かったのを2つほど。マンガは腰痛めた時に読もうととっておいたのをダバダバと読んだのが面白かったのでいくつか紹介。

○前野ウルド浩太郎「バッタを倒しにアフリカに」 研究者のひたむきな情熱とか、物語でも現実でも感動することが多いが、本作も極上の感動と笑いとに溢れた素晴らしい一冊だった。ファーブルに憧れて昆虫学者を目指した著者が、情熱の赴くままに、でも時に厳しい世間の情勢に苦労しつつも、アフリカの地ですべてを食いつくす天災として恐れられるサバクトビバッタの研究に邁進していく。筆者本人も素敵な野郎なのだが、現地で出会う人々も素晴らしく素敵な人が多く登場して、特に砂漠で遭難死しそうになったところを隊商に助けられて「助けられたこの命で多くの人々を救おう」と長じてサバクトビバッタの研究所の所長となった筆者の上司から溢れる男気、アフリカの地にモーリタニアにこれほどの「漢」がいるとは。アフリカにはサバクトビバッタのほかにも、民族紛争やら貧困やら様々な問題が山積しているように見受けられる。でも、きっと筆者や所長のような漢達(と、たぶん女達)が未来を素晴らしいものに変えていくのだとオレは信じる。

○大槻ケンジ「いつか春の日のどっかの町へ」 しまった文庫で買って既読のを電子版でまた買ってしまった。と思いつつ読んだけど、2度目でも損はしなかったぐらいにやっぱり面白かった。40代でギターを始めてライブで弾き語りをするようになるまでの経緯を中心にエピソードを重ねた、後書きで本人もエッセイと私小説のどっちだかと書いているまあ私小説なんだと思う。何かを始めるのに遅すぎるということはないということを再確認し、背中を押された気がした。この人はわりと日本の文学を継承する正当な系譜に連なる作家な気がするけど、贔屓のひき倒しだろうか。バンド活動の合間にで良いのでこれからも本も出し続けてほしい。

○深谷かほる「夜回り猫」1巻 ウェブ版で話題になり「泣ける」という評判のマンガ。ネットのSNSあたりをウロチョロしているリア充どもが感動するようなうっすい話やったらワシの涙腺はなにも分泌せんぞ。と懐疑的に読んでみたけど、不覚にも何度かちょっとウルッとしそうになった。涙の匂いを嗅ぎとって現れる猫が、猫なので何の足しにもならないことしかできないのだけど、それでも人は救われることを知る。なかなかやるやないか。

○室井大資、岩明均「レイリ」1〜3巻 「寄生獣」の岩明均が合戦シーンとか描くの大変そうな「ヒストリエ」の連載持ってるので原作だけっていうのは分かる。でも作画に「秋津」の室井大資っていうのは贅沢すぎないかとちょっともったいなく感じたけど、「秋津」では意識しなかったけど室井先生なにげに画力高くて戦闘シーンがかっこいいしヒロインのレイリも暗い過去を背負いながらもちょっと秋津のコトコちゃん的茶目っ気があって魅力的に描けていて、贅沢しただけのことはあると納得した。親兄弟を落武者狩りに惨殺されたヒロインが拾われて武田家次期当主の影武者となることを命じられ、という歴史活劇モノなんだけどクッソ面白いんである。続き早く読みてェ。

○板垣巴留「BEASTARS」1〜3巻 チャンピオンはどこからこういう個性的な才能を引っ張ってくるんだろうか?チャンピオンでなければ見いだせなかった才能というのがマンガ界には間違いなくいて、山口貴由、阿部共実とか、唯一無二の濃い味わいのマンガ家だけど、また新たな味わいの新人がでてきた。動物を擬人化した登場人物の学園モノなんだけど、狼である主人公たちはじめ肉食獣の食肉への暗い欲求とか、草食獣のウサギなヒロインのあるがままに受け入れる淫靡な力強さとか、青春の光と陰という感じの雰囲気を描くのが抜群という感じで唸らされた。これまた続刊待ち遠しい。

 

 

<2017.6.27>

 マンガ面白かったのをいくつかメモ。「絢爛たるグランドセーヌ」8巻はなんと俺たちの戦いはこれからだ的打ち切り終了。チャンピオンREDで本格バレエマンガって限界があったのか?超面白い力作だったので残念。掲載誌変えてでも続き描いてくれないものかと思ってしまう。「ヴィンランドサガ」19巻は面白さが止まらない感じで、否応なく戦いに巻き込まれていく主人公一行にハラハラ。「海街diary」は鎌倉を舞台とした4姉妹の日常を恋いあり波乱ありで描いているのだけど、そんなもんなにがおもろいんだ?といいそうなオレでも唸らされるぐらいの上手さは長く第一線で描き続ける吉田秋生先生の力量か。

 

<2017.5.27>

○大海原琉葵「釣り人 水藻文作」 この人の釣りを題材とした小説は「遙かなる銀狼」に引き続きだが、なかなかに面白かった。前作はシーバスの話で今作はヘラとクロダイの話。主人公はモツゴとかブルーギルを陸地に捨てるようなちょっといけ好かないやつだったけど、師匠にたしなめられて反省するところとか共感の持てる釣り人で、作者がこの釣りが好きなんだなというのが良く分かる書きっぷりで楽しめる。この人プロの作家じゃなくてkindleで自分で体裁整えて売りに出している同人作家?のようで、レビューでは誤字脱字が多いとか書かれて恐縮しまくっているが、そのへんはプロの校正も入った原稿と比べたるなよ99円だしと思う。値段以上の価値は充分あると思う。kindleの端末なくてもPCやスマホに無料のソフトを入れると読めるようなので興味がある人は読んで損はないと思う。釣りマンガとか釣り小説って、釣りがある程度好きな人間が書かないとつまんなくて、最近の作家で書けるのは漠先生ぐらいだとおもうので大海原先生にはこれからも期待したい。

 

<2017.5.27>

○弐瓶勉「人形の国」1巻 待ってましたの弐瓶先生の新作開幕。いきなり空から美少女が落ちてきてなボーイミーツガールで始まるのだが、そこは弐瓶先生ですぐにガールが死んだと思ったらボーイも死んでしまって、でもそれが伏線になって話が転がり始める。内容は「エナ」「超構造体」とかの弐瓶ファンならおなじみの言葉が出てくるSF的「弐瓶ワールド」での超能力バトルもののようだ。超楽しみ。前作「シドニアの騎士」アニメ化の時に「主人公がヒロインの尿(由来の水)を飲むとかいかがなものか」と疑義が呈されていたけど、うるせえ人の趣味嗜好に口出すな!という意思表示なのか、また主人公がヒロインの尿(に見える飲み物)を飲むシーンが出てきて、弐瓶先生ブレないなと敬服したしだいである。どうなっていくのか続きが楽しみでならない。

○天王寺キツネ「ガンナーズ」6巻 銃器を美少女キャラ化した萌えマンガ「うぽって」の作者が本格的なSFロボットものを書き始めたということで、どんなもんかと読んでみたら、主人公達の友情の熱さやら、凝ったSF設定やら可愛いヒロインやらなにやらで、なかなかに面白くて楽しみに読んでいたのだが、6巻で「打ち切りエンド」で大ショック。俺好みというわけじゃなくて今時のSFロボマンガとして客観的に良くできてると思うのだが、読者も編集者も見る目がないとしか思えない。天王寺先生懲りずにまた面白い作品書いて欲しい。

 

<2017.5.08>

○峠恵子「冒険歌手 珍・世界最悪の旅」 なんか、マイク持った女性歌手がヘルメットかぶった探検隊装束でポーズ取ってる表紙をみて、タレントがどっかの山に登るような企画の類かと思ったが、解説が高野秀行、対談が角幡唯介と現代日本を代表する冒険作家の両先生が関連しているようで、ちょっと気になってアマゾンの「欲しいものリスト」に入れておいたのだが、本家「世界最悪の旅」も読了したことだしと読んでみたら、意表をついて面白かった。順風満帆な人生で歌手として生きているけど「自分は苦労を知らない」というわけのわからん劣等感から、雑誌で目にしたヨットで航海してパプアニューギニア島最高峰登頂という探検行に応募して参加してしまう。この時点でヨットのヨの字も知らん女性を参加させてしまうチームが順風満帆に進むわけがなく、思う存分の「苦労」っぷりが申し訳ないが最高に面白い。角幡先生との対談を読むと「そういうことだったのか」とちょっと驚く。世界の最高峰も両極地もとっくに落とされているが、それでも現代にもそしてきっと未来にも冒険はそれを望むもののもとに現れる。

○五十嵐大介「ディザインズ」1、2巻 動物の能力と外見を得た少女たちがでてくる物語、と書くと「けものフレンズ」を想起するかもしれないが、けもフレのほのぼの感にはほど遠い「殺戮の得意なフレンズ」たちが跋扈するハードSF。なんというかそういう設定のバトルマンガって結構あって、メジャーどころでは「テラフォーマーズ」があるが、テラフォーマーズの生き物の能力の取り上げ方や描写やつっこみかたが、なんか面白動物系情報サイトで得た知識のような民放TVのびっくり動物大集合的番組のようなものにとどまっているのに対し(それはそれで面白いのだが)、本作では、作者の生き物に対する観察眼の鋭さと、独自の解釈力が生かされていて作品世界をSF的に構築する能力の高さが発揮されているように思う。民報の動物番組見てるだけじゃこれは描けん。英国BBC放送とかナショナルジオグラフィックとか好きで、かつ現物の生き物をじっと観てきた人間じゃないと描けない世界。作中、遺伝子操作で動物の能力を取り込んで設計された「ディザインズ」は宇宙進出の技術としてという建前をとりつつ戦争の道具として開発されていて、その開発の主導権やら何やらをとるための政治的駆け引きや陰謀うずまく世界なのだが、敵側のイルカ人間はエコーロケーションで索敵し情報同期しながら戦うという、現代歩兵戦の情報技術のようなことを生体能力でやってのけるチーム。対する作中最強とみられるカエル人間は、全身これ鼓膜で「音で世界をさわる」。そしてイルカ人間との格闘模擬戦で敗北したときにイルカ人間の能力向上を認めつつも「100回やったら99回負けるだろう」「1回勝つ方法を次回教える」という意味深な台詞を吐くのだが、どうやって勝つのか?続きが気になって仕方ない。イルカもカエルも音の能力を操るけど、イルカのそれが自分から音を出してその反響を利用するのに対し、カエルはそこにある音に「さわっている」という違いがある。その違いは潜水鑑戦のアクティブソナーとパッシブソナーの違いのようで、そのあたりで決着をつける気がする。同作者の「海獣の子供」も生物の知見が生きた作品だったが、オレの持っている海の生物の知識と作者の持っている知識が違うのでちょくちょく違和感があったけど、今作ではそういう違和感なく楽しめている。ハードSFで暴力渦巻く世界観は読む人を選ぶかもだが、ものすごいオレ好みの極上の物語が始まった期待感にむせぶ。

○岩明均「ヒストリエ」10巻 今続巻を楽しみに読んでいるマンガの一つ。歴史物っていまいち興味ないというか楽しめないと思っていたけど、面白い歴史題材のマンガとかいくつか読むうちに、結構楽しめることを最近認識してきた。マケドニアとかアテネとかの時代のヨーロッパを舞台の今作もすごぶる面白い。王のもとに嫁ぐことになった主人公の恋人が、自由っていったって「柵に囲われた庭」でその中が広いか狭いかぐらいの違いしかなくて、柵のない自由なんてどこにもないというような台詞を吐くんだが、身につまされて心が痛い。これからどう物語は進んでいくのか引き続き楽しみに読みたい。
 

 

<2017.4.22>

○チェリー・ガラード「世界最悪の旅」 有名な南極点到達レースのやぶれた方のスコット隊の一員が書いた探検旅行の報告。日本語訳された時期も古く堅苦しく古めかしい言葉使いにやや読み進めるスピードが乗らず読みかけになっていたが、読み進んでいくうちになれてくると、どうにも面白くてずいずい読んでいけた。世界最高峰も両極地も制覇され人はそれぞれの心の中にしか冒険を見いだせなくなっている昨今、まだ誰も足跡を付けていない未踏の地が残されていた、まさにそこに人類が足跡をつけんとしていた探検が探検らしく、冒険が冒険に満ちていた時代の贅沢なコクのある文章。ビタミンの概念さえなく食糧不足に脅かされながら、マイナス40度、50度の極限を行くことの純粋な恐ろしさとそれ故の素晴らしさ。筆者の経験した冬場のコウテイペンギンの卵取り旅行で経験した極限からの生還、アムンゼンに敗れ南極点からの帰路力尽きたスコット達の日記から読み取れる崇高な闘いの有様。なかなかに感動した。歴史では敗者は語られることは少ないが、スコットは負けてなおアムンゼンと極地レースを戦って負けて帰らぬ人となった悲劇の人として語られる。でも実際はそれ以上の素晴らしい敗者だったようだ。これからも読み継がれていく名著だと思う。

 

<2017.4.3>

○貴志祐介「黒い家」 下の文章書いて、そういえば読みかけの小説読まなあかんなと読み始めたら、一気に読んでしまう恐ろし面白い小説だった。オレってばホラーでも死者の霊だとか方面なら全く怖くないタイプで死者と他人の宗教に対する礼儀ぐらいあるので蛮勇を示すためだけにそんなアホなことはしないけど、墓場でテント張って寝ろといわれれば、別に何の恐怖心も抱かずにぐっすり眠れる自信がある。一人でテント張って寝るときに怖いのは、まあ、熊も怖いけど何はさておき人間が一番怖いと思う。田舎ヤンキーの暴力とかも怖いし、もっと言うなら一人で人も来ないところで寝ているところを快楽殺人者なんかにみつかったらどうにもならないだろう。海外の殺人鬼でヒッチハイクしてきた人間を殺しまくってたヤツがいたはずで、殺人鬼と助けを呼べない状況で1対1というのがいかに絶望的な状況か想像するとテント張る場所には気を使うし、枕元にナイフと懐中電灯はいつも置いていた。っていうぐらい人間の怖さに対してはビビりな人間なので、序盤からどうにも怖くてページをめくるタッチが進まなかった「黒い家」だったけど、意を決して読み始めたら、次の場面でどんな恐ろしいことが展開するのかハラハラしつつも止まらなくなった。現実は小説よりも奇なりとよく言われ、吐き気のするような犯罪も現実にあってネットでそういう情報も簡単に読むことができて多少の怖さには不感症になりつつある現代日本人なオレだけど、それでもこの小説は怖いと思う。貴志先生スリリングな展開で読ませるのうまい。評判に違わず今のところ読んだ本全部面白い。

 

<2017.4.3>

 活字本不発状態が続く。読み始めて放置しているのがいくつもある。読了したのは続きモノのラノベの新刊と4度目のアニメ化決まった「フルメタ」の今度アニメ化する前の話までのおさらいぐらい。ヘラ釣り関係の情報読みあさっているのでその影響か。

 マンガはそこそこ読んでていくつか面白いのも。岡崎二郎「アフター0」は古き良き時代のSF臭がしてなかなか。馬場康誌「ゴロセウム」は超能力バトルモノなのかなんなのかバカバカしい設定とパロディーの勢いがスゴい。有馬慎太郎「四谷十三式新世界遭難実験」はSFコメディーだけど異星の生態系がなにげによく作り込まれていて面白い、期待の新人。あと「ヒナまつり」12巻は相変わらず面白いのにいっこうにブレイクする気配がない、アンズ回はいつも泣ける。ぐらいか。

 

<2017.2.27>

 活字本は今一いいのにあたらない。貴志祐介「クリムゾンの迷宮」と椎名誠「風景は記憶の順にできていく」はまあまあ面白かった。マンガは面白いの多かった。いくつかメモしておく。

○九井諒子「ダンジョン飯」4巻 ファンタジー世界でダンジョンに潜り込んだパーティーがダンジョン内のモンスターを料理して食うという異色の飯マンガで、3巻まで既読で、さすがこの作家は独特のセンスしてるなと読んでいたけど、4巻の炎竜篇は王道のファンタジーバトルもの展開で、この人こんな話も書けるんだと潜在能力の高さというか引き出しの多さに感服。

○福満しげゆき「中2の男子と第6感」1〜4巻 この人も独特のセンスが光る。引きこもり少年の作り出した妄想の少女「師匠」が実は、そして、という意表を突く展開と、福万先生ならではの弱者の視点が生きた作品。すっきり完結ハッピーエンドです。

○kashmir「ぱらのま」1巻 これまた独特のセンスで読ませる作者の、「乗り鉄」マンガ。同作者の「てるみな」にもちょっと似ているが、てるみなが架空の世界の路線を巡るのに対して、本作は実在の路線を巡る。ゆるゆると何が起こるわけでもない描写なのに読ませる作風。「百合星人ナオコさん」もバカっぽくてすき。

 

<2017.2.15>

○石黒正数「それでも町は廻っている」12〜16巻 「それ町」連載終了!という情報は目にしていて、この作品は必ずしも時系列に描かれているマンガじゃないので、12巻の後書きで「もうちょっと続きます」と書いてあったけど、人気マンガだし過去のエピソードやら後から書いたりしながらいつまででも続くと思っていたのに残念でならなかったが、最終16巻がでたのでどう締めくくったのか期待しつつ、12巻から読み直して最終話まで読了。もう、期待以上の素晴らしい終幕。この人ホント天才。オレの心の中が満員総立ちで拍手喝采。以下ちょいネタバレ。

 同じ作者の「外天楼」もあっと驚くような伏線回収で唸らされたが、「それ町」最終巻でも、「そのネタ伏線だったの!」と驚くような伏線回収に思わず声が出た。そして立て続けに「それも回収するのか!?」と思わせての意表を突く展開、完全に作者の手の上で踊りクルクル踊ってました。

 謎解き、日常、いい話、SF、ホラー、ギャグ、様々な要素をちりばめつつもどの話も単体で面白く、かつ作品全体で、時間経過と共に育っていく友情や師弟関係や繋がって紡ぎ出される物語の妙。脱帽。次回作も刮目して読まざるを得ないが、期待を裏切られることはないだろう。

 

<2017.2.10>

○Cuvie「絢爛たるグランドセーヌ」1〜7巻 なぜかチャンピオンREDで連載されているらしい本格バレエマンガ。主人公の少女がライバル達と切磋琢磨して才能を開花させていくというバレエマンガのコテコテの王道。なぜそんな古くさいぐらいの設定のマンガかこれほどまでに面白いのか理解に苦しむ。四十路半ばを過ぎたおっさんの中の乙女がトゥシューズに憧れる。チャンピオンREDは鬼才山口貴由先生の「衛府の七忍」も連載中だけど密かに面白いのかもしれない。

 

<2017.2.7>

○樫木祐人「ハクメイとミコチ」5巻 小人?のハクメイとミコチが住む世界には言葉をしゃべる動物やら虫やらがいてという世界の日常やら騒動やらを描いているマンガ。ハクメイは左官屋っぽい大工仕事、ミコチが保存食や石けんなどの小物を作って生活しているのもあって、物を作ったり料理をしたりの描写が仔細に描かれていて、たぶん作者もそういうのが好きなんだろうけど、俺も好きなんでとても楽しく読める。工場での大量生産、大量消費じゃない手作りの楽しさが溢れている。なにげに背景とかの書き込み具合もスゴくてファンタジーな世界観がゴチャゴチャと美しく表現されている。人気爆発となるような作品ではないかもしれないけど、読む人が読めば良さが分かる佳作。

 

<2017.2.2>

○高野秀行「謎のアジア納豆−そして帰ってきた<日本納豆>−」 読み始めてしばらく、未確認生物を追うわけでもなく、未踏の地を探検するわけでもなく、高野本にしてはつまらんかなと思って読んでいたが、話が進むにつれ高野先生本人同様に納豆の謎の魅力に魅了されていった。納豆のように糸引く面白さ。納豆がどこで生まれたのか?納豆とはなんぞや?時空を超えて広がる納豆ワールドを高野秀行が足を使って丁寧に調べていく様は、優秀な研究者のフィールドワークのようといったら、実際どっかのシンクタンクの費用で海外調査は行っているようだし今更失礼か。やはり高野秀行は面白い。

○貴志祐介「天使の囀り」 面白い小説ないかなとネットで評判を探っていたら、貴志祐介は面白いと紹介されていて、映画にもなった「悪の教典」とか「黒い家」とか人間の怖さが秀逸とのことだった。ふーんとあまり興味が湧かなかったがアニメ「新世界より」の原作者がこの人と知って俄然読む気になった。「新世界より」はSFなんだけど細かい設定のキッチリつめられた作品で、人間の怖さ気持ち悪さを目を背けたくても見てしまうような魅力に溢れていた。その作者の書いた、アマゾン帰りの人間が奇妙な行動を取り謎の自殺を遂げはじめて、という本作が面白そうだったので読んでみたら、生物好きにはドストライクのホラーもの。また細かいところまでキッチリつめてるなと感嘆しながら読了。他の作品も読んでみたくなった。

○相田裕「1518」1〜3巻 ガンスリンガーガールの人の新作マンガ。生徒会モノでマンガアニメでは強大な権力を持っていたりしがちな「生徒会役員」の割とリアルよりな日常。「青春」だね〜という感じでとても良いです。

 

<2017.1.15>

○西尾維新「結物語」 西尾先生書くの早すぎてまだ忘却探偵シリーズの新作も積ん読状態なのに物語シリーズ新作出てしまった。表紙見てこれは優先的に読まねばと読んでみた。新キャラ続出で初期の頃のようでもあり、長期化でさすがに最近だれ気味だった感じを払拭して面白かった。以下ちょいネタバレ。

 表紙がホチキス持ったガハラさんで白無垢着てたりするので、とうとうアリャリャギ君も年貢の納め時かと読んでいたら、途中不穏な流れになってビビったが何とか予定調和。ドラゴンボールの亀仙人の「もうちょっとだけつづくんじゃ」以上に大人の都合で引き延ばされてきたシリーズもこれで終わりかなという気もするが、どっかに伏線っぽいのがあった変態神原選手激闘篇がまだ書かれていないし、今回読んでいても、あれそんなエピソードあったっけ、羽川さんの三つ編みがなぜアララギ家に?とか、もうシリーズ長いのでまだ書いてないエピソードの伏線なのか書いてあるエピソードをオレが忘れているだけなのかよくわからんくなっている。時系列ぐちゃぐちゃに書かれているシリーズなので、いくらでもまだかけると思うので期待せずに待っとこう。

 

<2017.1.12>

○伊藤計劃「虐殺器官」「ハーモニー」 虐殺器官の方がアニメ映画化されるとかでちょくちょく宣伝を見かけるのと、冒険家の角幡先生が著書で絶賛していたのもあって電子版みつけて読んでみた。宣伝文句には「ゼロ年代最高のフィクション」とかあり、著名な作家の推薦帯文も大絶賛の嵐でちょっと期待値をあげすぎたせいで、正直それほどか?と思ってしまったけど、まあ次の作品「ハーモニー」をすぐ読みたくなるぐらいには充分に面白かった。この人若くして亡くなっており実質この2作品ぐらいしか書いていない。「虐殺器官」の方は9.11のテロを受けて、生体承認による高度な監視システムが発達した近未来で、紛争地域で何らかの方法で大量虐殺を引き起こしているらしい謎の人物を追う米軍特殊部隊員の話で、カフカねたとか文学トリビアも絡めながらスリリングに展開していく。

 「ハーモニー」の方はもっと未来の核戦争後の世界が舞台で、少なくなった人類を守るための医療用ナノマシンと連携した健康管理システムが発達し、人間を大事にする世界における反逆の物語。こちらの方が好みだった。タバコも酒もカフェインさえも否定されるような管理された世界の窮屈さというのを描きつつ、さらにもう一段突っ込んだ哲学的な展開になかなか痺れた。あと、なにげにパロディーとかのセンスも好みで、名作SFからのパロディーなんかは割と良くあるかんじで今作でも「1984年」とか「たったひとつの冴えたやりかた」とかをパロってるのに気付いたけど、そういう「いかにも」なのの他にも舞城王太郎からナウシカ、果ては「涼宮ハルヒの憂鬱」なんていうラノベまでパロってて、しかも物語の核となる登場人物が自己紹介でハルヒのあれを知らない人が読んだなら気付かないような感じでしれっとパクるというのは超ウケた。その後その登場人物は古い小説を打ち出してもらって読みまくっていたというエピソードがでてきてラノベも読んでたんだろうかと想像してクスッときた。まさに「新しい世代の才能」というのを感じさせるに十分で、夭逝したのが残念と惜しまれている作家だが、その意見に同意する。

○諸星大二郎「妖怪ハンター稗田の生徒達1夢見村にて」 久しぶりの妖怪ハンターシリーズ新作。堪能しました。夢見村の不可思議な物語の世界観とか、後半の渚と大島エピソードの海から何かがやってくる系の不気味さとか、まさに妖怪ハンターシリーズの醍醐味という感じ。諸星先生「西遊妖猿伝」の続きの方もよろしくお願いします。

 

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