○「本のページ」第１３部 −ナマジの読書日記２０１９−
２０１９年もダラダラと更新していきます。
＜２０１９．１０．１５＞
○角幡唯介「極夜行」 紀伊半島に移住して釣りと読書の日々と思ってたら、釣りが忙しすぎてゆっくり小説読んでる暇がなかなか取れず、新刊のマンガ貯め込まないように読んでくのが精一杯になりつつある。そんななかでもこれは面白くて読みふけってしまった。冒険家角幡唯介人生最大の冒険と自認しているとおりすざまじいい冒険の旅。極夜の北極圏を旅するっていうのはハッキリ言って世界最高峰のエベレスト登るようなわかりやすさはない。でも読めばＧＰＳに頼らず天測器具も早々に失い、自分がどこに居るのかさえよく分からない星と地形の影しか進むべき道を決める手立てがない中での旅がどれほどの困難かイヤッちゅうぐらいにド迫力で分からされる。その追い詰められまくった状況の中で相変わらず哲学っぽく理屈っぽく”冒険とは何か”とか人の根源的な感情や信仰のありようにまで迫りまくるという、まごう事なき”角幡文学”の最高到達点。本人ももうこれ以上の冒険は今後できないだろうしおいそれとできるモンじゃないと心情を吐露しているけどむべなるかな。それでもこの人はさらなる高いところを遠いところをココではないどこかを目指し続けることだろう。その行き先をファンとしては刮目して期待して読ませてもらいたい。
○マンガで面白かったのを備忘録的に「ディメンションＷ」は完結。ヒロインのアンドロイドが神に等しい存在となって主人公尻に敷いて大団円、はまあそれはそれでよかったんだけど、狂った軍人に戦闘マシーンとして造られ音声による意思疎通手段さえ与えられなかった噛ませ犬的な役割の多かったフォーが人と関係を結ぶサイドストーリーが胸にきた。「はじっこアンサンブル」合唱部モノの文化部スポ根で暑苦しいぐらいの青春群像劇がどうにも面白い。「ダンジョン飯」が絶好調で猫娘のイヅツミの耳で表情を表すあたりの九井先生流石のマンガ表現の上手さに感心しつつ萌える。「麻衣の虫暮らし」虫ネタ面白くかつ百合エロさが絶妙。
＜２０１９．７．３＞
○西尾維新「余物語」 大学生編突入で、ダラダラ引き延ばし感がさすがに漂ってた物語シリーズも俄然調子を取り戻した感じ。切らずに読み続けていた甲斐があった。神原選手激闘編が待ち遠しい。読んでて設定とか伏線とか忘れまくってるので惰性で読んでたあたりを再読中。何巻でてるんだっけ？ってウィキったら２６巻も出てて戦慄する。
○椎名誠「カツ丼わしずかみ食いの法則」「単細胞にも意地がある」 ナマコのからえばりシリーズ。シーナ先生の日常エッセイはサクサク読めておつむに優しく面白い。最近はすっかりジイジイが板についてきたけどいつまでもお元気で西尾先生とか若い作家に負けずに書きまくってください。
○原作：矢口高雄、画：立沢克美「ＶＳ魚信さん」１〜３巻 釣りの世界を描いた娯楽作品を書く才能って結局日本には矢口高雄と夢枕獏の両先生しかおらんかったナ！と改めて思わされる熱いマンガ。魚信さんが実在の競技の釣りの世界の凄腕と対決します。鮎川財閥の顧問弁護士として多忙を極める魚信さんにタイマン企画に出演してもらうため、新米釣り記者とアユ釣り勝負で始まるんだけど、当然魚信さん圧勝するんだけど、新米記者が釣ったアユが初めてのアユだと知って、釣った重さ勝負なら「初めてのアユのほうが重い」と負けを宣言するとか、まさに釣った魚の価値ってそういう主観的、極私的な秤でしか計り得ないってのが良く分かってるなぁ、さすが矢口先生という感じである。今後も期待しまくりである。作画担当の先生も知らん人やったけどちゃんと魚が描けてて立派。
○再読モノでは小山田マヤ「家政婦さんシリーズ」と高橋葉介「学校怪談」が良かった。家政婦さんのほうは人の情念の描き方が上手い。学校怪談は何度読んでも面白かったりいい話だったり不気味だったりどうにも好み。
○伊藤伸平「地球侵略少女アスカ」 新しく始まった「まりかセブン」の伊藤先生のも相変わらずオレ好みで楽しませてくれる。今回百合要素多め。伊藤先生そろそろ作品アニメ化されても良いんじゃないの？って思うのはオレだけか。
○諸星大二郎大先生の「西遊妖猿伝」が再開されるとのこと。待ってました。完結するまで首長くしながら付き合いやすゼ。
＜２０１９．５．２０＞
○中島敦「南島譚」０１〜０３ 著作権切れた読み物を電子化した「青空文庫」Kindle版でまだ読んだことない短編をいつか南の島に行く時用に確保してあったんだけど、そんなモンいつになるか分からんので読んだった。筆者が南洋庁時代に見聞きしたことを元に書いてるんだけど、そんな戦前に書かれた文章が平易で読みやすく、多少当時と倫理観が違うところはあるにしても、今現在自分が読んでもなお面白いと思うような南洋の人々の有り様を通じた人の本質的な部分を描く筆致に敬服。上手な文章というのはこういうのをいうんだろうなと唸らされた。
○岩明均・室井大資「レイリ」全６巻 最終刊でたので最初から一気読み。面白かった。原作岩明先生なんでまあ面白いのは当たり前なんだけど、それ以上に室井先生の描く登場人物の愛嬌や格好良さとかの魅力にやられる。死地に赴く岡部丹波守や土屋惣三がレイリにかける優しいまなざしと言葉、レイリの胸に抱かれて主君の影武者が死に後々皮肉にも主君もレイリの胸に抱かれて死ぬことになるんだけど、オレも死ぬときはこうやって優しく抱かれて死んでいきたいと思わされるような美しい描写。素晴らしかった。
あとマンガでは新刊でた「ライドンキング」「衛夫の七忍」「波よ聞いてくれ」が安定の面白さだった。ライドン！
※追補：「ライドンキング」第２巻について書こうと思ってたこと忘れてたので後から追加。前々回「天国大魔境」「ヴィンランドサガ」において弓を女子供でも引けるように漫画で描くならボウガンタイプになる、上手い漫画家はそういう細かいところで作品に本物っぽさを発生させる、ってなことを書いたけど、ひたすらバカバカしいマンガにもかかわらず馬場先生はちゃんと村の留守を任せる子供達に使わせる武器としてボウガンを選んでいる。しかも特殊部隊の出身のプルチノフ大統領が暗殺用に現地で作って調達するための知識を生かしてエルフの木工技術を使って拵えるとか、作品の設定・世界観を上手く積み上げて使っていて、勢いだけのバカネタマンガ家ではない作者の並々ならぬ力量を感じて敬服するのであった。
＜２０１９．５．８＞
○加藤久子「海の狩人沖縄漁民」 ラノベ読み散らかす傍らチビチビと読み進めていたけどやっと読了。沖縄の特に糸満チューの歴史文化が体系的に学べて勉強になったとともに、戦後の食糧難”ソテツ地獄”や年期奉公方式で厳しい海の仕事を仕込まれる”糸満売り”の単に悲惨な人身売買という話ではない、海で生きていくしかなかった人々のたくましい営みとしての一面も経験者の話とかも収められていて興味深かった。
○西尾維新「掟上今日子の色見本」読むより早く書く西尾先生の忘却探偵シリーズ読み終えたら、物語シリーズ新刊はもちろん忘却探偵シリーズも既に新刊出ていて読むのが完全に間に合ってない。西尾先生ファンの間でまことしやかに囁かれている噂に「掟上今日子＝記憶能力を奪われた羽川翼（物語シリーズの登場人物）」というのがあって、今作で今日子さんが寝るとその日にあったことを忘れるようになる以前の１０代の頃に紛争地域も含め世界中を巡っていたらしいという話が出てきていよいよそれっぽくなってきた。シリーズ完結して謎が解けるまでは死にたくないモノだ。
○相田裕「１５１８！」 マンガでは７巻で完結した今作が良かった。前作がサイボーグ化した少女を使う諜報機関の暗躍を描くというマニアックな作品だったんだけど、一転してまぶしいぐらいの青春群像劇。肘を壊して野球を諦めた少年が恋にイベントにと楽しい高校生活に巻き込まれていき、また前を向いて歩き出すという恥ずかしいぐらいのキラキラした作品。恋愛成分多めなのもちょっとオッサン恥ずかしかったけどでも素敵に面白かった。涙が出てきそうなぐらいの青春感に満ちてます。
＜２０１９．４．１０＞
○石黒正数「天国大魔境」第２巻 活字は相変わらずちまちまと沖縄漁業本を読み進めつつラノベスイッチが入ったのかラノベ漬けで次のアニメの手前までフルメタ読み直して、お薦めされてきたストパン関係乱読してという感じ。
マンガがいまいち集中して読めず新刊も積みっぱになってたりするけどそれでも「天国大魔境」は新刊でてるの見つけたら読まねばなるまいて。１巻は導入部で出だし上々という感じだったけど２巻は本格的に物語りも動き始めて絶好調。面白い面白い面白い！生命をいじくり回すような禁断の技術に手を出した末に崩壊した世界を描くってＳＦでは効率的な保存食の作り方考えなきゃならんぐらいにたくさん描かれてきた題材だけど、それでもなお絶妙に面白い。たとえば”化け物”を倒すのに弓を作るとして、アホな作者なら和弓のような単純な形にしがちだけど、あれだとガキの頃竹とかで作ったことあるから分かるけど威力あるものにするには相当大きくしないといけない。どのくらいかというと電車で弓道の人たちは弓を天井にぶつけないように気をつけて窮屈そうってぐらい大きくなる。そこを西洋のボウガン風にしつつ小型でも充分強力な弦を、手じゃ引けないのを歯車を噛ませてハンドルで巻く方式にして、射出するのも加工や携帯が不便な矢じゃなくて、かつ廃墟とかからでも手に入りやすいボルトとナットで直進性良く工夫されているのが分かる描写。こういう細かいところの”良くできている”センスの良さだけでも凡百の漫画家と石黒先生の決定的な違いになりうる。ボウガンは分かってる人は分かってる武器で「ヴィンランドサガ」で幸村先生が女性が強い武器を求めてテコの原理で弓を引く工夫を凝らすのに１エピソード使って物語に迫力を加えていたのも思い出される。物語は管理された子供たちの園と崩壊した街の２カ所で並行して進んでいくんだけど、これがどう関連して最後どう伏線回収して結末するのか謎解き要素の多い石黒作品だけにいやがうえにも期待は高まる。そのほかに今作ではこれまで石黒作品ではあまり意識しなかった”色気”がちらほらと立ちのぼってきてドキッとさせられる。管理されて性の知識などいっさい与えられていないはずの少女たちが交わす口づけ、崩壊した街の一角で営業する少女売春窟、大好きな姉の体に脳を移植された少年の覚える後ろめたい悦び。退廃的な禁断の艶っぽさ。石黒先生こういう表現も持ってたんだと嬉しい驚き。何度も何度も書くけどこの人と阿部共実先生がマンガ表現の未来を切り開く特別な才能である。
＜２０１９．３．１８＞
○早良朋「へんなものみっけ！」１〜３巻、末次由紀「ちはやふる」４０巻 活字は今読んでる沖縄糸満漁師の歴史的な報告がやや難しいけど面白くしばらく掛かりそうなんだけど、アマゾンがたまに持ってる本をお薦めしてきやがって「フルメタのアニメ化で忙しくてここ数年本書いてなかったけど、新刊出たのか？」と色めき立つけどスカ食わされてそれでも読みたくなって、思わず賀東先生の「甘城ブリリアントパーク」「コップクラフト」を既刊全部読みかえしてしまった。はよ新刊出してくれ。マンガの方もそれなりに読んでて良かったのを２作品。「へんなものみっけ！」博物館モノなんだけど、保護したサシバの「ここにいてはいけない！」という本能に基づくうちなるものからの声がなぜか心に突き刺さってきた。ちはやふる最新刊、王子様２人の直接対決。もちろん勝つのは新なんだけど、太一の負けっぷりが胸にくる。青春全部費やしたすえの負けのその気高さよ。
＜２０１９．２．１８＞
○岡本太郎「岡本太郎の東北」 活字も主に電車でボチボチ読めていて、引き続き漁師本など読む前に東北関連で積んであった本に「岡本太郎の東北」があったので読んだ。秋田、岩手、青森３本の紀行文をまとめた形になってて、そのうちの秋田編の序文が私が太郎先生の著作物に出会ったきっかけで、高校の現国のテストで問題文になっていたんだけど、あまりに鋭い慧眼ぶりに驚いて「コレ書いたんだれや？」となって調べて「芸術は爆発だ！」の台詞と共にカッと目を見開くテレビ広告が有名な変な芸術家のオッサンだと思ってたのが、これはちょっと凄い人じゃないのかと当時入手できた「美の呪術」とか読んですっかりハマって、何年かおきにやってくる「太郎ブーム」で再版かかったりすると読んでない本は入手してだいたい読んでいたんだけど、この本たぶん青森編でイタコの婆さん達についての表現がたぶん差別的とか何とかに引っかかりそうでお蔵入りになってたんだと思うけど、３０年たってやっと、青森編には（略）とかいっぱいあるけど読むことができた。絶版になっていたとしても中古の本がネットで探して買えるということの恩恵を感じざるを得ない。秋田編は東京で見る秋田の民芸とかに「いやったらしく暗い」とボロクソな悪口から入っていくんだけど、実際に行ってみると雪国の人々の明るいたくましさや生活に根ざす美とかを太郎先生の鋭い目はキッチリ拾っていき、ナマハゲとかの風習に中央集権的でない原日本的な精神性を見いだし、他文化との比較論とかに枝葉を広げていくのである。３０年経ってもやっぱりその切れ味には感心するけど、高校生の初見時ほど心動かされなかったのは歳食って感受性が鈍ったのか、それともそれなりの見識が身について動じなくてよくなったのか？両方なのかもナと思う。
○時雨沢景一「ＳＡＯＧＧＯ」�察銑輯� 活字は他にもラノベの新刊読むのも忙しくて、特に時雨沢先生の「ＳＡＯＧＧＯ�察銑宗廚箸�タイトル長すぎて書くのも面倒で略称だけど、本編も上中下で長くて面白い。このシリーズは他の作者の作品の外伝的な作品なんだけど時雨沢先生、自分の代表作書くときより筆が走ってるように感じる。銃器ネタ炸裂。書いてる人が楽しいのに読んでて面白くないわけがない。仮想現実のゲーム内でチーム戦で殺し合いするんだけど、ゲームだから力一杯殺し合ってるのが、人殺しの背徳感も残しつつスポーツみたいな爽快感もあって、仮想現実が発展してこういうのが実現したら、こんな風かどうかは別にしてまた新しい感覚なんだろうなと思わされる。
○吉富昭仁「地球の放課後」全六巻 マンガがイマイチ調子乗れなくて新刊積みがちになっている。気が乗らないと再読モノで面白かったのを引っ張り出してきたりしているけど「地球の放課後」は良い終末モノでちょっとエッチで中二だけどキッチリＳＦしていて何度目かだけどまた楽しめた。
○谷川ニコ「ワタもて（公式略称）」第１４巻 新刊ではすっかりリア充だな、な「ワタもて」最新刊が良かった。他人の気遣いも分かるようになって、その人に対し真摯に接しようとするというような主人公の成長ぶりがまぶしい。
＜２０１９．１．２５＞
○吉村龍一「海を撃つ」 年末年始ＴＡＫＥ先生の小説読みつくして、新刊ラノベも消化して、さて自炊してあった海関係本をということで、三陸のメカジキ突きん棒漁師の話という今作を読んでみた。今年は春からさい先良いぜ、めっちゃ面白かった。強大なメカジキを追う漁師の執念の話といえば釣りキチ三平のブルーマーリン編やその元ネタの「白鯨」なんかを思い出すけど、白鯨読んだことないワシにはコレがそういう物語のワシ向けの完成版だと勝手に思えた。お国なまりも懐かしい気がする三陸を舞台に、今ほど漁船も気象情報もなかった時代に漁師が龍神にすがるその信仰のありようの神聖さとか、海にしか生きられない男の心情とか、心の底からの獲物への餓えとか、便利になった時代の現代の釣り人である我々にも、結局同じ気持ちが根っこにあって共感を覚え海のように深く心に響いてくるものがある。最終決戦の山場も濃い口の描写で存分に楽しめる。古い小説だと思っていたら２０１６初版となっていて比較的若い作家の作で他の作品も読んでみたいところである。
○馬場康誌「ライドンキング第１巻」 今年のマンガはこれがコレが基準だな、ハードル高いぜ。前作「ゴロセウム」の巻末オマケマンガであらゆる動物？に乗りまくってたプーチノフ大統領が、今作では設定をちょっといじって中央アジアのブルジア共和国終身大統領プルチノフ閣下として主役を張る。前作も頭おかしいレベルのイカレタ設定のマッチョ相打つ肉弾戦的世界観で興奮と笑いをもたらしてくれたところだったけど、今作も馬場先生独特の才能がさらに花開く独擅場。もしもネットのオタクどもにも大人気のプーチン大統領が”異世界”に飛ばされてしまったら、というまさかの異世界モノ。普通異世界転移モノと言えば主人公はごく平凡な男子高校生という固定相場制なのにナニしてくれてんねん。マッチョな閣下が異世界で近接格闘術で大活躍。ギャグもキレッキレでオークの首領の必殺技が北斗の拳で割と最初の方に出てきた雑魚キャラの技使ってるのとか、オッサンしかわからんって馬場先生。作者ノリノリで描いてるその勢いの良さよ。万人受けするようなマンガじゃないかもだけど、オレの中でどえらいことになりそうな期待作が始まった。続き早く読みたいゼ。ライドン！
