○「本のページ」第16部 −ナマジの読書日記2022−

 

 最近読む量減りましたが2022年もダラダラと更新していきます。



<2022.11.09>
 「ゴールデンカムイ」が始まったときに「<2015.3.18>野田サトル「ゴールデンカムイ」1巻 超期待の物語の開幕である。アイヌとかウチナーのウミンチュとか狩猟民族系の文化って、中二的な強烈な格好良さにあふれていると思うのだが、そういう民族文化を絡めた娯楽物語って「蝦夷地別件」ぐらいしか思い当たらないんだが、今作はもう目一杯そういうの楽しめます。日露戦争で「不死身」と呼ばれた復員兵とアイヌの少女がコンビを組んで、アイヌから奪われた「金」を廻っての争奪戦に参戦。復員兵は親友の残した未亡人でもある「惚れた女」に目の手術を受けさせるため金が必要で、アイヌの少女は「金」を奪われたアイヌの娘であり敵を討つため、2人とも「金」以上の動機に突き動かされて戦いに赴く。1巻では「金」のありかを示す入れ墨を施された脱獄者の一人の死体を熊から奪って確保するつかみのあたりから、早速アイヌの少女の父親仕込みの狩猟技術が炸裂する。トリカブトベースの毒の矢じりとかカッコ良過ぎてもだえ死にそうだ。2巻ももうじきでるようで楽しみでならない。」と書いている。最終31巻まで読み切って、よくぞ最後まで勢い衰えないまま描ききってくれたと、快哉を叫びたい気分である。大団円とはこういう締め方を言うっていう見本のような気持ちの良い終幕。各種の映画や小説、アニメ、マンガに対する愛あるパロディーに溢れ、アイヌの文化の素晴らしさを描き、それぞれの思惑を抱えた魅力的な登場人物達の織りなす群像劇。堪能させてもらいました。「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」はややこしいSF設定がやや難解ながらもこちらも良い落としどころに落ちてスッキリした。って感じで終わる作品が多いので、新しいのも探してて、スケベでクズだけど意外にデキる主人公が、クリア時間制限があるゲーム内とおぼしき異世界に飛ばされてという異世界モノ「時間停止勇者」が、緊張をほぐすために時間を停止して仲間の黒エルフのチチを揉んで”こんな時に胸を揉むなんて信じられない”っていう軽蔑の目で見られるのとかツボに入って、なかなかに面白くて良い。あと北欧の小さな領地を治める領主のところに女だてらに軍人として生きてきた娘が妻としてやってきて、いろいろと問題もある北の生活の物語「北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし」もなかなか面白い。
 あと、ラノベがそれなりにお薦めされてきてるだけど、しばらく新規開拓などしてなかったので知らない題名のが多く、エラい売れてる評判のとかはいくつか読んでみて、「ティアムーン帝国物語」「薬屋のひとりごと」は面白くて10巻から出てるの既刊読み切った。前者はマリーアントワネットを彷彿とさせる世間知らずな帝国の姫様が、革命が起きてギロチンで処刑されるんだけど、なぜか処刑の遠因となった決断前ぐらいまで時間を遡ってやりの直しの機会が与えられるという、タイムリープもので、姫様基本小心者でギロチン回避のために奔走するんだけど、得意部門はあれども基本はポンコツなんだけど、必死の人脈作りやら、流れに任せる嗅覚の良さやら、人の良さやらで、周りにも支えられ追いかけてくるギロチンから逃げるんだけど、その中で実は自分が処刑される流れには大きな陰謀が隠されていて、その陰謀を企む組織と仲間達と対峙していくという大河ロマン。姫様の憎めない性格が読んでてほほ笑ましい。後者は、中国の後宮をモデルに、そこで下女として働くことになった「薬屋」の少女が、策謀渦巻く女の園で、エラいさんに目を付けられ毒や病気に関する知識であまたの謎を解いていくミステリー仕立ての物語で、皇弟との恋やら、蝗害騒動、クーデター騒ぎなどに翻弄されつつ、主人公は独特の存在感を示していく。他の登場人物も魅力的で、美しいお后達や一芸に秀でた主人公の血縁、登場人物達に名前も覚えてもらえないのに蝗害騒動では(本人は専門外と言っている)農業指導やら駆虫で大活躍のオッチャンほか読んでて飽きない。両作品ともマンガ化はされているようで、アニメ化もそのうちしそうな面白さ。ラノベもマンガもいっぱい書かれててなんか見たことあるようなパッとしないのも多いけど、丁寧に探せば母数が大きいので面白いのも間違いなくある。ただ探すの面倒くせぇのよね最近という感じで、アニメ化で面白かったら原作も読むってのがパターン化してたけど、アニメ化するとパッとしないけど原作は抜群ってのはあって、たまには自分で探しておけってことかもである。



<2022.7.24>
 マンガ継続モノでは吉田覚「働かない二人」がだんだん良さが重なってきてますます面白い。ただ最近楽しみに読んでたマンガが終わった、または終わるのが多くて「衛府の七忍」は打ちきられた感じで終わったし、まだ読めていないけど「デデデデ」も「金カム」も完結してしまった。ということで読む作品探さないとちょっと寂しいな、と面白そうなのを探してみた、だいだいこれは良いかもと一巻買ってみて、気に入るのは三〜五冊に一冊ぐらいか?ippatu「虎鶫」は文句なしに続きが気になる面白さ。最終戦争後の遺伝子組み換えとかで作り出されたクリーチャー跋扈するなか生き残った人間はまだ争いを続けているっていう、ありがちなSF設定なんだけど、世界観の作り込みがしっかりとしていてセンスが良くワクワクさせられる。鳥脚のヒロイン”つぐみちゃん”の可愛らしさも非常に良い。鶴淵けんじ「峠鬼」は諸星大二郎先生的な伝承ファンタジー系でこれもなかなか。松本次郎「ビューティフルプレイス」は原作付きマンガが連載終了で、松本先生、女子高生が銃持って闘うちょっとイカレた松本ワールド全開でノリノリで描いてくれていて楽しい。あとドラマ化もしてるけど西森博之先生の「カナカナ」も良作。



<2022.4.24>
 ・レイ・ブラッドベリ「華氏451度」 消防署員の仕事が防火技術の徹底で、消火ではなく本を焼く「昇火」となった近未来における、戦時下の言論統制というか思想統制の様を描いた作品で、いつの時代でも戦争をする体制側は、自分たちに都合の良い情報だけ出して”民草にモノを考えないようにさせる”そして多くの人々はなにも考えずにそれに流される、っていうのからして、ロシアが21世紀にもなって隣国に攻め込んでるなかで、鋭い警句になっているけど、他にも2つほど鋭く印象に残ってる場面があった。一つは昨年末読み始めた頃に書いたけど、「十九世紀の人間を考えてみろ、馬や犬や荷車、みんなスローモーションだ。二十世紀にはいると、フィルムの速度が速くなる。本は短くなる。圧縮される。ダイジェスト、タブロイド。いっさいがっさいがギャグやあっというオチに縮められてしまう」という主人公の上司の台詞、でまさに、今現在情報発信は短文のSNSやら一瞬の”出落ち”みたいなネット配信動画が隆盛を極めていて、本なんぞ誰も読んどらんのと違うか?という状況がまさに生じていて、作中では人々は部屋の壁1面のスクリーンに相互通行で提供されるくだらねぇおしゃべり程度の番組に夢中になってるってのも、SF作家は見てきたように未来(現在)を描き出していると感心する。
 本を持っていたのがバレた主人公は、追われる身となって、本の内容を分担して記憶しておくというレジスタンス活動を行ってた組織と行動を共にするのだが、活動家の一人が「人は死ぬとき、何かを残していかねばならない」という彫刻家の祖父の言葉を紹介していて、子供や創作物、草花を植えた庭でもいいので、魂の行き場になるような手を掛けたものを残せば、だれかがそれを見たときお前はそこにいることになる。って言ってて、要するになんにも考えずになにも生み出してもいない人間は、生きてきたといえるような存在ではなく、逆に何かを残した人間は死後もそこに存在しえる。っていう話だと思うけど、なかなかに胸に来た。クソみたいな安デキ即席の情報もまあそれはそれで暇が潰れればいいけれど、それだけじゃダメで、たまにはじっくり時間掛けて読んで考えさせられるような作品も楽しんで心に刺さる”一言半句”を探さねばならんと、ちょびちょびと読み続けて半年近くかかったけど読み応えのある小説を読んで思いましたとさ。
 活字は他には、アニメから入った古典部シリーズ「いまさら翼といわれても」、虚構推理シリーズ「逆襲と敗北の日」が面白かったのぐらいであまり読んでない。
 マンガで面白かったのは山口貴由先生の「衛府の七忍」がこれは打ち切りエンドなのか?おわったっぽくなってて徳川と戦うのかと期待してたのでちょっと残念。でも面白かった。あとは”ガンスリ”の相田先生の新作が文明開化の明治の世で、徳川に密かに”飼われていた”吸血鬼の一族の娘”と”死に損なった侍”が吸血鬼一族の呪わしい生を生きる母を殺すために闘うという、良い塩梅に今時の設定で出だし快調で面白くなりそう。剣劇シーンがさすがの格好良さ。他はkashimir先生の「百合星人ナオコサン」「○本の住人」とかの作品を読み返してて、バカバカしくも独特のギャグの切れに改めて感心した。○本の帰国子女でそのせいって訳でもないけど意味不明な発言の多いチーちゃんの、その意味不明な言葉を真似してるんだけど、さらに追い打ちかけて意味不明にする従妹の言葉の秀逸さに何度読んでも心底感心する。


<2022.2.9>
 ・ベルセルク、絶対可憐チルドレン
 楽しみにしていた長期連載マンガが2つ終了した。片方は作者三浦建太郎先生の急逝によるもので「ベルセルク」は41巻で未完で終わる事となった。ただ、物語の主な終着点である”グリフィスに落とし前をつけさせる”っていうのはまだ遠かったけど、蝕の後のガッツの旅のもう一つの大きな目的であった”キャスカの壊れた心を取り戻す”って方は、キャスカの心が戻ってもガッツを見ると蝕でうけた強い心理的外傷がぶり返してしまいガッツとまだ面と向かう事ができないにせよ、一応の”めでたしめでたし”状態で、最終巻となった41巻でそこまで描いてくれて読者としてもそれなりに”よかったよかった”という感じで改めて三浦先生に楽しませてくれてありがとうと感謝の気持ちで一杯になる。絵柄的にはアシスタントチームで描けば再現できるのかもしれないけれど、少なくとも本編の続きを先生抜きで描いたりはしないで欲しいと正直思う。出ればそれは楽しみで読むだろうけど、どうしてもご本人が描いたものにはならないだろうから、読んでてできが良くてもシラケてしまうだろう。描くなら本編離れてリッケルトのバーキラカの隠れ里への旅とか”スピンオフ”的に本筋に影響ないあたりでやってもらえるとファンも余計なことが頭にちらつかずに純粋に楽しめるのかなと思う。まあ、関係者一同、先生に世話になっただろうし思い入れもあるだろうから、どうしようと外野が止める権限はないのでやりたいようにやってくれって話ではある。作品の今後は未定とのこと。
 一方「絶対可憐チルドレン」は、椎名高志先生はてらいのない読者楽しませてナンボな作風でありつつ、例えば今作では超能力を持つ者と持たざる者の確執的な、17年の連載期間においてますます世界的に普遍的に重要になって来た”格差社会”とかの問題について、真っ向から登場人物にぶつからせているし、人が犯した罪をどう償うか、償う事ができるのかとかの、根源的な問題にも力一杯筆を振るっている。っていっても堅苦しくなくて少年マンガらしい熱いバトルの中でそういうのも描かれてるッテ話で、最終決戦。当然、長期連載で超能力バトルものだから、主人公達も強くなるけど敵の力もインフレしていて、最後どう落とし前をつけるのかとやや不安になるぐらいだったけど、なるほどそう来たか?と今まであったパターンのちょいバージョンアップしたぐらいの手で、ラスボスを倒して大団円を迎えた。超能力マンガでラスボスの能力の設定と、それを倒す方法の説得力って、ジョジョシリーズが何度も様々な趣向で楽しませてくれたように超重要な要素で、今作、正直いってそういう部分では椎名先生それほどスゴいモノを持って来られないだろうと高をくくってたけど、お見それしました素直に感服。過去に読んだモノの中でも最高レベルに燃える展開だったし、納得の落とし方でギャグ多めの今作ではあるけど、超能力バトルモノとして超一級の仕上がりだったと思う。そういう本筋の太い面白さの脇で、決戦の地に向かうために民間機の羽につかまってエネルギー温存したりっていうコミカルなシーンで航空会社が略称”AMA”でマークが疫病退散のアマビエになってるとかの細かいギャグをコツコツ打つ芸風も決して忘れない。実に椎名先生らしい素晴らしい作品だった。長い間ありがとうございました。次回作は高橋留美子先生の「犬夜叉」のスピンオフアニメのマンガ化を担当するとのことで、普通そういうのは物語作るの苦手な画は描ける新人の仕事やろと思うけど、ベテラン作家をしゃぶり尽くす事においては定評のあるサンデー編集部が休ませてくれんかったんだろうか?まあ楽しみに読ませてもらおう。

 

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