○自分を釣ったときの対処方法
最近聞かなくなったフレーズではありますが、魚釣りをしていて仕掛けやルアー(擬餌餌)などが、水底の岩などの障害物に引っ掛かってしまったとき、私以上くらいのオッサン世代の釣り人なら「地球釣ってしもた!」という言葉を発した、あるいは聞いたことがあるのではないでしょうか。オヤジギャグというか死語というか腰から砕けそうなトホホなフレーズですが、考えてみればなかなか雄大でもあるような。直径12741.9キロメートルの大物!(注1)
多くの釣り人が針にかけたことのある最大の獲物?である地球には遠く及ばないものの、結構な数の釣り人が不幸にして針に掛けてしまっていると思われる大型の獲物?についてその対処方法などについて私の事例を参考に紹介しようと思います。
その獲物とは、多くの場合釣り人と同一人物であるところの人間です。
人様を釣ってしまった場合、ひたすら謝ると共に、病院への手配をするなど誠意を持って対応することはいうまでもありませんが、自分を釣ってしまった場合、他人を釣った場合よりややこしい状況に陥る場合が多いものです。(注2)
ルアーの後ろの針に大きな魚がついているのは嬉しいとして、前の針に自分の指がかかっているのをどうしたものかと、自分以外に人も通りかからないようなへんぴな場所で途方に暮れるというのは避けたいものですが、残念ながら私の釣り人生においても2回もありました。
そんなの、とっとと針を引っこ抜いて絆創膏でも貼ってしまえば良いだけではないか?と疑問に思う方もおられると思いますが、ことはそんなに簡単にはいかないということは、自分を釣ったことがある方ならよくご存知でしょう。
まず、ドタバタと暴れて針がさらに深く食い込む原因となっている大きな魚を針からはずすのはそれほど難しくはないと思います。片手が使えないとはいえいつもやっていることですから何とかなるでしょう。
しかし、次の工程である指に刺さった針をはずすという作業が難しい。返しのついた釣り鉤がグッサリ刺さった場合、それを自力で抜くのは極めて困難です(註3)。
なぜなら、ともかく指先というのは神経が集中していて痛いのです。返しのついた針を引っこ抜くときには返しが皮膚を切り裂いて抜けるような形になりますが、人間の皮膚というのは意外なぐらい丈夫でなかなか都合良く切れてくれないのです。(注4)
しかもグッサリ刺さった場合、しばらくすると刺さった場所の筋肉などは硬直し始めるといわれていて、さらに針を抜けにくくします。こうなると自力で抜くことなど不可能で病院に行ってメスで切開してはずしてもらうしか手が無くなります。
釣友が実際に病院送りの目に遭っており「時間がたつと自分で抜くのは痛くて絶対無理!」という有り難い経験談を聞いてもいたので、初めて我が身を釣ったときは可及的速やかにペンチで針を引っこ抜きました。激痛が走り針の返しには皮膚片が付着し指先からはドクドクと流血していましたが、指先にルアーをぶら下げたまま車を運転して病院に行かずにすみました。
件の釣友からは痛みに耐えて偉業を成し遂げた勇者として称えられました。
しかしながら、私のこの力任せの偉業がただの馬鹿としか思えない画期的な針の外し方を実演してくれた先輩がいました。
暑い時期にサンダル履きで川にジャブジャブ入って釣りをしていたときですが、先輩が「痛ってー!」と叫んで足を上げたところ、ふくらはぎのあたりに針が刺さってごちゃごちゃと絡まった仕掛けがそこから繋がっています。根掛かりして切れた仕掛けに気付かず足に引っかけてしまったようです。
自分の経験もあったのでことの成り行きを不安を持って眺めていたのですが、先輩は「誰やこんなところに根掛かりさせたアホは!」とか文句を言いつつも、ペンチをバックから取り出すと、引っこ抜くのとは反対の方に針をぐいっとひねり押し込みました。何するんやこの人?と不審の目で見ていると、皮膚に刺さって隠れていた針先がひねられて再度皮膚から出てきました。かえしまで針先を露出させると今度はペンチでそのかえしをつぶして、その後に今度は逆方向、針を引き抜く方向にゆっくりとひねってあっさりと針を外してしまいました。
「おーいてー!」とかいいつつも、見た目は皮膚にぷつりと小さな穴が2カ所開いて血が玉になっているだけで被害が最小限に抑えられたことは明らかでした。絆創膏を貼ってその後も釣り続けました。
確かにモノの本には、いったんかえしが露出するまで押し込んでから、ペンチのニッパー部分等でかえしごと針先を切って外す方法が紹介されていましたが、この方法は餌釣り用の細い針ならともかく、ルアーについているぶっとい針は片手でニッパーでやすやすと切れる代物ではなく、そもそも切る際に針を全く動かさないわけにはいかないので力を入れれば激痛が走るので無理だと思っていました。
感心しつつ、次回不幸にして自分を釣ってしまった場合のために心に留めておくこととしました。
さて、2回目の自分ヒット!ちゃんとやり方は覚えていました。まずは暴れている魚を外して、その次にかえしが出るまでひねって針先を押し出すんです。比較的落ち着いてやってみることはできました。しかし激痛が走る。イテテッ!気を取り直して再度押し出すべく力を入れる。ムムムムムッ!脂汗が出てきたが針先は出てこない。
どう考えてもこの痛さでは針先を出すことは不可能である。なぜかと思って良く針を観察すると、そのとき使っていた針は針先からしばらくまっすぐな形になっていて比較的カクカクとした印象の形状でした。丸くカーブした針ならスムーズに針先を押し出せたのかもしれませんが、直線的な部分が多いデザインの針は皮膚の下で刺さる方向が変わらず、針先をひねって出すことなどできないようです。
あきらめて、グリグリとペンチでまたもや引っこ抜きました。2度目なので案外慣れたもので、絆創膏を真っ赤に染めながらもその後も釣り続けました。なかなか良く釣れる日だったので、釣りをやめるにはもったいなかったのです。
その後幸いにして自分を釣ることは無いのですが、自分を釣ると、どう処理したところで痛いしめんどくさいことになるので、釣らないように注意することが肝要だと思います(註5)。
註1:「地球釣った!」というが、水からあげてもいないので掛けたことは間違いないが、釣ったうちには入らないのではないかと常々感じていました。そもそも地球に乗っかりながらその地球を釣るというのは状態としておかしくないだろうか?だいたい釣ったというのがどういう状態か意外なことに定義が難しい。水から魚体が揚がればOKという人もいるし、手でガッシリつかまえるか網で掬って完全に水中から揚げて逃げられないようにしてしまわないとダメだという人もいる。ちなみにカジキ釣りの国際大会などでは資源保護等のために生きたまま再放流することが奨励されていて、ショックリーダーと呼ばれるハリスにあたる部分を甲板員なり自分なりがつかんだ時点で釣ったとみなすことにしています。大型の魚は元気なまま船上に取り上げると暴れたりして危険でもあるし、普段は浮力で気にしなくても良い自分の体重が陸上では支えきれず骨や内臓に負担がかかるといわれています。
いずれにせよ、掛けただけで釣ったという人がいないことは確かで、地球を釣ったというには最低でも、潮が引いて針のかかった部分が水中から出るぐらいのことは必要ではないかと思います。そうであってもクジラを掛けたうえでその上に乗ってクジラの思うがままに連れ回されている人間が「クジラを釣った」と言うに等しい状況ではありますが・・・
註2:人は釣らないように最大限の注意を払いましょう。当たり前ですが、仕掛け等を投げるときは周囲に注意する。夏の海水浴場で釣りをしない。等の基本的な心がけを守るだけで不幸な事故はほぼ避けられるはずです。「夏の海水浴場で釣りなどする馬鹿はいない」とつっこむ方もおられるかもしれませんが、世の中には常識でははかれないクソ馬鹿野郎が存在するのです。ホントに想像を絶する、なぜそんなに馬鹿で生きていけるのか不思議なくらいの馬鹿というのがこの世にはたくさんいるのです。
当方、混んだ海水浴場で釣り針が足に刺さった経験があります。
根がかった古い仕掛けが流されてきたのだろうと、ゴミとして回収するつもりでたぐり寄せたら、ビーチで竿がズルズルとこちらに向かってきているのが目に入り驚いたことがあります。持ち主が近くにいなかったようで、魚と勘違いされてグリグリとリールを巻かれなかったことは不幸中の幸いでした。
あと、釣った人間の種類によってややこしさが違ってくるのはいうまでもありません。自分の釣り仲間ぐらいは釣っても恨みっこ無しですませてくれるとおもいますが、ヤのつく職業のお方やうるさい親がついてる子供とかは間違っても釣りたくないものです。
註3:釣り針にはかかった魚を逃がさないように針先とは逆向きにトゲのようなものがついていて「返し」とか英語で「バーブ」とか呼ばれています。何となく付いていると魚に逃げられないような気がして最初からこれを潰しておくのは結構勇気がいるのですが、場合によっては返し無しの針は刺さりやすいし、たいして外れにくくもないし、万一自分を釣ったときには外しやすいしと良い面も多かったりして、私も最近は返しの無い針を良く使っています。
註4:人間の皮膚の硬さは同じほ乳類である牛とか羊とかとそれほど変わりません。丈夫です。
私、むかーしドキュメンタリーかなんかのテレビ番組で、カリブ海の荒くれ者ッぽい漁師さんが、乳首に釣り糸のピアスを入れているのをみて、ぜひ自分も大きくなったらやってみようと思いました。20代の真ん中頃にロウニンアジ(私にとっては大物)を釣って、せっかくなので記念にその時の道糸を乳首にピアッシングすることにしました。
こんな変態じみた作業はちょっと他の人に頼むわけにはいかず、自分でやることにしました。中学時代ヤンキーの同級生が当時耳にピアスをしていましたが、そのとき彼は氷で耳を冷やして感覚を麻痺させて自分で穴を開けたということで、その蛮勇に大変感心した覚えがありましたので私もその方法にならってみることにしました。
いきなりポリエチレン製6号の太い糸は通りそうになかったので、細いナイロンラインを2重にして通してから、その細いナイロンラインで6号を引っ張り込んで両端を結んでこぶを作って乳首に固定、というてはずで麻酔代わりにウオッカをかっくらいつつ、左乳首を氷で冷やして「こと」にのぞみました。
イメージとしては乳首の周りの柔肌に縫い針がスッと入っていくと思っていたのですが、これが何とも難攻不落の難事業。皮膚固い固い!本気で裁縫道具の中から分厚い生地を縫うときに使う指輪も出してきてグイグイと押し込むのですが、地獄のような痛みにいやな汗が噴き出すにもかかわらずほんのちょっとずつしか針先は入っていきません。結局、乳首の直径の一番長い距離を左右に貫く予定が、斜めにやや短い距離で貫通するのが精一杯でした。
しかも、縫い針もラインも消毒したつもりですが数ヶ月後にジクジクと針穴から汁が出始め、どうやら化膿しだしたようなのであわてて外さざるを得ませんでした。幸い大事には至らず、苦労して開けたピアスの穴はふさがってしまいましたが今も左乳首は健在です。
註5:当たり前。
(2008.3)