○マ行 −ナマジの釣魚大全−

 

○マアジ

 食卓でも釣りモノとしても広く親しまれているこの魚、食べて味がよいのが名前の由来という説もあるほどおいしい魚。セキアジやゴンアジ、東京湾でも瀬付きの脂の乗ったのを黄金アジとよんだりして各地でブランド魚となっていることからもわかるように、場所や季節、サイズによっても味わいや食べ方も様々で、代表的な食べ方としては刺身に塩焼き、煮付けに開きやアジフライとこれまた様々。房総半島の名物ナメロウなんてのもアジのおいしい食べ方の一つ。小アジを丸ごと揚げて南蛮漬けなんてのもオツなもの。

 釣りの対象魚としても、沖釣りや堤防からのサビキ釣りもポピュラーだし、最近は小型のワームで狙うアジングなんてのも流行っている。

 岸からだと秋から冬にかけて南房総の港で狙える。当方は、サビキよりも延べ竿で1匹ずつ引きを楽しみながら釣るのが好みです。たくさん釣れるとしばらくおいしい自家製干物が楽しめます。

 東京に出てきてから、旅行の際の旅館の朝食などで食べるアジの開きがイマイチおいしくないと思っていましたが、自分で干物作るようになってやはりアジは刺身にできるような鮮度の良いヤツを干物にするからおいしいのだと理解しました。実家で何気なく食べていた干物は、祖母が新鮮なアジから作ったものだったので、冷凍原料から作られる売り物の安いアジの開きとはものが違ったのだといまにして思います

 

○マアナゴ

 砂泥底に棲む内湾性の魚で、夜釣りの対象として人気があります。当方も学生時代、近くの港でイソメぶっ込みで釣ってました。大きいとけっこう引きが強くてなかなか面白い釣りモノでした。ちょっと捌くの面倒でしたが、おいしくいただいてました。近縁の魚にクロアナゴというのがあり、これが1mを越えるぐらいの大きさに育つのですが、東北では堤防から狙えるとのことで、しばらく通ったことがあるのですが、釣れたのは江戸前で言うところの「メソ」サイズのチビアナゴばかりでした。残念。

 千葉では富津あたりで目に続く白点を定規の目盛りに見立てて「ハカリメ」と呼んで名物になってます、観光客相手の食堂で煮魚や天丼で楽しまれています。

 アナゴについて当方がおいしさで感動したのは、江戸前のお寿司のアナゴです。蒸してあるのかフワッとトロッとしたアナゴに甘辛いタレがかかっていてとても贅沢な味だと思いました。

 

○マイワシ

 1980年代には年間400万トン以上漁獲されたこともありますが、マイワシを含めサバやサンマ、カタクチイワシなどの浮き魚は数十年単位で増減を繰り返すことが知られていて、ここのところはマイワシは年間数万トンレベルでしか漁獲されず、値段も高めで「高級魚」扱いされることもありました。しかし、ここ1、2年ぐらいか、スーパーなどでも安く売っていることを目にするようになり、ちょっと上向きの傾向かなと思っていたところ、2010年は仔魚の発生量が多かったようで、今後好漁につながることが期待されているという情報を目にしました。

 脂が乗ったマイワシなら刺身や塩焼きで、脂が乗っていない時期には酢締めや干物でとおいしく食べられ、養殖魚の餌料、ミールや缶詰、干物等加工品など産業上も重要なマイワシが増えることは歓迎されることでしょう。

 ちょうど梅雨時のイワシは「入梅イワシ」といわれ脂の乗ってくる旬な時期です。既に何度かイワシの刺身や煮付けを今シーズンも楽しみました。

 一昨年の冬に内房のとある港に2カ月ほどマイワシの群れが居座り、岸壁が釣り人で賑わったことがあります。当方もシーバス釣りに行くついでに寄り道して、おかず釣りと称して釣ってました。群れが回ってくるとポンポン釣れて楽しめました。脂の乗りはイマイチでしたが干物にするにはちょうど良くいいおかずになりました。

 

○マガレイ

 マコガレイにもにているがちょっとスリムな印象。特徴は目のない側の尾びれの近くが黄色いこと。東北に住んでいたころに居酒屋を営む釣り付きのご夫婦と仲良くなってちょくちょく釣りにご一緒させてもらった。青森の陸奥湾まで遠征したところ、このマガレイの25センチ前後のが後から後から釣れてきて楽しい釣りができた。塩焼きや煮付けで堪能した。居酒屋のとーちゃんかーちゃんにとっては、店で出す肴の仕入れもかねた釣りであり、趣味と実益を兼ねているのであった。定年退職を迎え趣味の釣りと料理をしながら暮らしているといううらやましい境遇でした。津波で店は流れてしまったようですが、お二人は無事だったとのこと。またいつか一緒に釣りに行ける日が来ることを願います。

 

○マコガレイ

 故郷の東海地方では、カレイ釣りの対象と言えば、このマコガレイが一番上等の獲物でした。針3本の投げ釣り仕掛けを天秤に付けてゴカイ餌でブンと投げ狙うのですが、ヌメリゴチの類が釣れてくるのが通常で、片手に載るような小さなものでもマコガレイが釣れれば心ときめいたものです。西日本では釣期は冬でしたが、東北にいくと、これが夏の釣りものになっていて、同じ日本でも南北に長いので、海の中の様子もずいぶん違うんだなと妙に感心した覚えがあります。当方が暮らしていた南三陸の町では、船でのカレイ釣りが盛んで、カレイはカキやホヤ、ホタテなどの養殖施設の下を住み家にしていて、ロープや貝についた、フジツボやら雑多な貝やらゴカイの類やらを漁師さんが掃除すると、その下に集まってきて餌を食べるので、船頭さんは最近掃除した場所を覚えていて案内してくれます。また、そういう風に落ちてくる餌を食べているため、キラキラユラユラとものが落ちてくるのにカレイは良く反応するようになっていて、仕掛けにもキラキラするものを取り付け、派手なデコレーションを施したスダレのようなものも売っていました。そして、釣るときには着底したオモリをちょんちょんと踊らせたり、持ち上げてまた落としたりしてカレイを誘うのが彼の地での常道でした。故郷の海であれば魚拓ものの尺物のマコガレイなんてのも、割とあっさり釣らせてもらったものです。ボテッと肉厚のマコガレイは刺身でいただきました。小さいのは煮付けでおいしいですが、刺身はまた格別のおいしさでした。美しい三陸のリアス式海岸の海で、またのんびりとカレイ釣りなどしてみたいものです。

 

 

○マゴチ

 一応夏が旬となっていて東京湾では「照りゴチ」なんて呼び方で釣りモノとしても夏の炎天下の釣りモノになっています。

 シーバスやヒラメを狙ってサーフでルアーを投げているとたまに釣れてきます。狙って釣れる場所もあるようです。

  東京湾で釣り場を開拓しようと何度かカヤックでトライしていますが結果が出ていません。

 上から押しつぶしたような奇妙な形をしていますが、この手の変な容姿の魚は旨いという通説どおり、白身の綺麗な肉質でフグやヒラメに似た上品な旨みのある魚です。

 なかなか食べる機会もないのですが、学生時代、一度にたくさん入手してたらふく食べた想い出があります。

 下宿から車で数十分の港に良くアナゴ釣りに出かけていたのですが、その日は風で夜光プランクトンがたくさん吹き寄せられていて、波打ち際や海面を改修してくる仕掛けの周りなどが青白く光っていました。プランクトンが異常に増えたいわゆる赤潮の状態で、釣りの方は全くダメでウンともスンともいいませんでしたが、光る海面を見ているとどうも魚が水面直下をふらふらと泳いでいるようで、その軌跡が光ることによって手に取るようにわかるのでした。よく見るとあちこちで魚がヨタっているようです。一旦下宿に戻ってタモ網を持ってとって返してすくってみると、コチ、アイナメ、マハゼ、アナゴ、キス、とおいしそうな獲物がバンバンすくえました。一緒に釣っていた友人とすくいまくって、その夜は他の友人も集めて宴会とあいなりました。コチを捌くのは初めてでちょっと悩みましたが、カレイの5枚おろしの応用で上手く捌けました。なかなかに楽しい秋の夜でした。

 

○マサバ

 味噌煮に、塩焼きに、しめ鯖にと食卓でもおなじみのこの魚、最近では「関鯖」などの地域ブランドもあって刺身の旨さも知られるところ。

 九州では良く刺身で食べられていて、居酒屋のメニューに「ごま鯖」とあるのを頼むと魚種がゴマサバという意味ではなく、マサバの刺身にゴマを振りかけたのが出てきます。

 博多漁港の巻き網船は冬になると韓国の経済水域の済州島沖あたりまで出かけていって脂の乗ったおいしいマサバを獲ってきていました。

 なぜ九州でマサバが刺身でよく食べられているのかについては最近面白い説が出てきていて、九州付近で獲れるマサバに寄生しているアニサキスと、本州周辺などで獲れるマサバに寄生しているアニサキスは実は種が違っていて、九州のマサバに寄生しているアニサキスは筋肉中に入ってくることが少ないため食中毒を起こしにくいのだとか。なるほどと思わされる説です。

 学生時代に授業でマサバの解剖があったのですが、その時のマサバは腹を開いてみると肝臓や幽門垂の表面にリング上に丸まったアニサキスがいくつもいくつもいて、しばらくしめ鯖とかは食べる気が起こりませんでした。まあ、アニサキスはサンマやカツオなど様々な海産魚やイカにも寄生していて、気にしていると冷凍解凍もの以外食べられなくなるので、あまり気にしないようにはしていますが、うねうねと魚の内臓の上で動く白髪のような寄生虫はできれば目にしたくないものです。

 最近では東北の巻き網船が、船上凍結の高品質の冷凍サバを生産するようになっていてこれだとアニサキスの心配は全くありません。

 釣りモノとしては、さすがマグロも含む回遊魚一族「サバ科」を代表する魚だけあってギュンギュン走り回ってくれて、シーバスタックルあたりでジギングなどすると楽しめる魚です。しかしながら関東の船釣りではマアジの外道的な扱いで、掛かると仕掛けをオマツリさせるのであまり歓迎されていないように感じます。釣れてもアジほど喜ばれないようですが、鮮度の良い釣りたてのマサバの美味しさを知らないのだろうかと不思議に思います。

 都会のスーパー等では足の速いマサバの刺身やしめ鯖で食べられるような鮮度の良いものはまず手に入らないので、釣れたら鯖折りにして海水氷で冷やして持ち帰りその美味しさを堪能されることをおすすめします。

 

○マダイ

 恥ずかしながら、まともなサイズのマダイは実は釣ったことがありません。チャリコにも満たないような種苗サイズのは港などで小物つりをしていると結構釣れてきます。

 日本では魚の王様的あつかいで、めでタイ席には欠かせない魚ですが、養殖が盛んになったあたりから、ややこの魚のありがたみは薄れたような気がします。

 特に、一昔前の養殖マダイは、とにかく目方を増やすために冷凍マイワシなどの餌をガンガン食わせて肥育していたため、脂が過剰に乗りすぎ、ともすればイワシ臭いなどと呼ばれることもある代物でした。

 その頃の悪評がぬぐいきれていないのか、未だに日本では養殖物というと天然物に劣るようにいわれがちですが、今時の養殖マダイはかなり高い品質を誇ります。養殖物に旬の天然物のようなありがたみはないかもしれませんが、回転寿司などで今時の養殖マダイを食べると、この魚がなぜ魚の王様として扱われるのかその理由の一端が理解できる味わいがあります。

 脂ののりでは養殖が、風味などは天然が優れているといわれているようですが、当方のような味覚の鋭くない人間にはどちらがよいとも評価しかねるレベルです。まあ、天然物でも養殖物でも、程度の高い物もあれば低い物もあるので、ひとくくりで比べるのはそもそも間違っているのかもしれません。

 それでも、産地や時期で品質に善し悪しがあり獲れる量も一定しない天然物に比べると、質量ともに安定して比較的安価に供給される養殖マダイは、もはや無くてはならないものとなっていることは確かかだと思います。

 養殖魚については、餌としてマイワシやイカナゴ、カタクチイワシなどの多獲性魚やそれらを原料としたフィッシュミールをベースにしたものを与えており、それらの餌となる魚を直接食べるのに比べると、当然それを餌にして育てた養殖魚は量的に少なくなり、資源を無駄にしているという意見も聞きます。

 しかしながら、餌として利用しているような一度にたくさん獲れる魚は、加工品も含め直接食べることで利用できる量には限りがあります。とても食べきれないほど獲れてしまう魚を、養殖魚という形に変えて蓄えておき安定的に供給することは、必ずしも資源の無駄使いのそしりを受けるようなものではないと思います。

 食料としての魚の確保という面から考えると、天然の資源を持続的に利用していくのが本流だとは思いますが、天然資源の持続利用を脅かさない範囲で、一時に獲れすぎてしまうような天然資源を餌として養殖を行うことは、むしろ魚の確保の方法を多様化することにより安定的な食糧確保に資する健全な方法だと思います。

 養殖施設の周りの海域は、餌料の与え過ぎなどで汚染されてしまうという問題もありますが、近年では関係法令に基づいて、環境を保全しながら養殖を行うように改善されてきています。

 また、与えてきた餌や使った薬品、育てた海域などの履歴がはっきりとわかる養殖魚は、安全性の確保が実は容易であるという利点もあります。今問題になっている放射性物質による汚染などは、天然で広い海域を泳ぎ回っている魚では把握するのに困難が伴います。天然だから安心安全などというのは幻想に過ぎないと思います。

 マダイの話から脱線して養殖の話になりましたが、根拠のない養殖魚批判、養殖批判を目にする機会が結構あるので、水産のプロの端くれとして思っていることを書いてみました。

 話をマダイに戻して、マダイの味わい方について、東京に出てきて西日本と関東では好みが分かれるのに気がついたので、紹介しておきたいと思います。

 当方の出身地も西日本に入ると思うのですが、マダイを刺身で食べるときには、普通朝水揚げしたものを、その日の晩に食べるというような感じで鮮度を重視していました。ちょうど死後硬直中ぐらいの鮮度だと思います。このくらいの鮮度だと活け作りのような味のないゴム状態ではなく適度に歯ごたえも旨味もあっていかにも新鮮な刺身という感じがします。

 これが、関東に行くと結構マダイのような大きな魚は寝かせて熟成させて食べるのに驚かされました。2日冷蔵庫で寝かせるとかそのぐらいの感じで、死後硬直は終わって少しグニャッとしたぐらいです。関東人は寝かせた方が旨味が増すと主張します。理屈から言っても時間がたてばタンパク質が分解されて旨味の基となるアミノ酸が増えて旨味は増すはずです。ただし、筋肉は分解が進んでいくと歯ごたえが無くなっていきます。

 どちらがよいかは、まさにその人の慣れ親しんできた味などに左右されるので一概にはいえないのでしょうが、当方は正直言って歯ごたえのない刺身はいまいちなじめませんでした。同じマダイの刺身の味を語っていても、西の人間と東の人間では別の味が頭に浮かんでいるのかも知れません。

 

 

○マダコ

 マダコの産地としては、潮流にもまれて身が締まっているといわれる「明石だこ」の明石が有名ですが、東北では志津川も名産地とされています。40年前の前回の大津波以来水揚げが減っていたこともあり明石に比べると知名度は低いですが、アワビ食っているので味がいいのだとかなんとか。昔は石をおもりに竹細工で作った大型の「てんや」のような「いしゃり」と呼ばれる漁具を用いてたこ漁が行われていました。

 九州に住んでいたときに、青物狙いで出かけた港で足下の石組みの一部がずれていくように動いているので、何だろうと思ってよく見るとマダコでした。マダコはご存じかと思いますが、擬態のスペシャリストで、周りの環境に合わせて体色を変化させると同時に皮膚もこけが生えたみたいにブツブツ突起を出したりと、動かなければなかなか発見することは難しい生き物です。

 メタルジグを近くに落として動かしたところ、腕をヌルヌルッとのばしてきて抱きついてきました。しばらく待って完全に乗っかったところでフッキングしたのですが、待ちすぎたのが災いして、完全に岩に張り付いてしまいどうにもこうにも剥がすことができずにメタルジグを献上する結果となってしまいました。しかし、「いる!」と思ってよく見てみるとマダコはちらほらと見受けられます。

 後日たこジグという漁具めいたYOZURI製ルアーを買って再度挑戦したところ、今度はうまく岩に張り付く前に引き上げることができてリベンジに成功しました。

 また、三陸方面でカレイ釣りをしていると、カキ養殖用のホタテの貝殻に蛎殻や食べられないホヤの仲間などが付着したゴミが結構引っかかってあがってくるのですが、これを地元の釣り人はホタテ・カキ・ホヤといういかにも土産物として売っていそうな構成から「三陸セット」と呼んでいて、釣り上げたときには微苦笑させられたものです。この「三陸セット」の重量感が、マダコがかかったときの重量感と酷似しているらしく、モノがあがってくるまで船の上で「三陸セットかタコか?」とワイワイとはやし立てながら楽しく釣りしたことが思い出されます。

 

○マハゼ

 サーフや河口のちょい投げなんかで狙う、どこでも人気の釣りモノ。夏ぐらいにいわゆるデキハゼと呼ばれる若魚が釣れ始め、秋には10センチ以上に成長した成魚が釣れる。

 秋も深まると深みに落ちてゆき型の良い獲物を狙った落ちハゼ釣りというジャンルもあるようですが、普通はハゼ釣りシーズン終了という感じ。

 子供の頃から釣ってきたなじみ深い魚です。

 砂底を好み、河口の釣りなどでは砂底に何匹もへばりついているのが見えたりします。

 釣れるときは、どんどん釣れて簡単この上ない釣りなのですが、どういうわけか食い渋るときもあったりして、そういうときは微妙なブルッというあたりに神経を集中してかけていくのはなかなかに技巧的で面白かったりします。

 小学生の頃、友人数名と釣ってきて、友人宅の庭でたき火をして針金につるしたハゼを塩焼きにしてみんなで食べたのや、大学時代、学校近くの川で2、3人で大漁して、みんなを呼んで天ぷらパーティーしたのを懐かしく思い出します。

 天ぷらパーティーの時には女の子が骨付きだといやだというので、100尾以上あるのをおろしまくって、それ以来3枚おろしが上手くなりました。

 ユーモラスな顔に似合わず、白身のきれいな身質で天ぷらにするとホッコリと柔らかく旨味もあり個人的にはキスよりも上ではないかと思います。

 

 

○マハタ

 以前は全くといってよいほどみることのない魚でしたが、当方が大学生の頃、まあ20年くらい前でしょうか、そのあたりから、釣り場やらでよく見かけるようになった魚です。その頃に種苗生産の技術ができて放流が始まったのだと思います。

 このマハタ雌性先熟で小型の頃は雌、大型化すると性転換して雄になる魚です。10キロぐらいから上は雄になるようです。雌性先熟の魚は雄が縄張りを作って大きくて強い雄が優先的に雌とペアを組んで産卵することが多いようです。

 大型個体が雌になってたくさん卵を産んだ方がいいような気がするのですが、「縄張り」が生きていく上で重要な要素になっている種では、生息の基礎となる縄張りを確保できる大きくて強い雄が子孫を残す方向に進化したということでしょうか。でもイソギンチャクを縄張りにするクマノミは大型個体が雌になります。個別にそれぞれ事情があるのでしょう。なぜなのか知りたいところ。

 マハタは大きくなると縞模様が消え茶色一色になり深場に生息地を変えてカンナギなどと呼ばれますが、小型の個体はカサゴが釣れるような岩礁域やテトラ周りで釣れてきます。小さいと白い横縞がはっきりとしていてなかなかにキュート。初めて見かけたのは大学の臨海実習で訪れた無人島の桟橋周り。その島は真珠業者さんの作業場と大学の研究研修施設しかない島で、実習中の楽しみといえば持ち込んだ酒での飲み会と魚釣り。桟橋から根魚狙いで積み石を狙っていると、反応するけど食わない魚がいて、特徴的な白い横縞からマハタの若魚と見て取れた。ルアーではどうしても食わなかったのだが、友人がドロメのたぐいのハゼ系の魚を餌に泳がせで狙ったところ、釣ることに成功した。30センチ弱でたたき池に泳がせておいて後で食べようということになっていたが、忘れていたのか最後まで食べた記憶がない。

 自分で釣ったのは、仕事で山口に出かけた際に休みを絡めて1日釣りの時間がとれた時に釣ったのがはじめてか。駅でレンタサイクルを借りて釣りに出かけたところ、流れの速い水道のような海域でワームでカサゴがポンポンと調子よく釣れてきて、マハタも20センチくらいのが混じってきた。こいつが成長すれば100キロにもなる魚かと思うと感慨深いものがあった。旅の空で料理する手段もないので、巨大な怪物に育ってくれることを願ってリリースした。

 

 

○マルソウダ

 カツオ釣りやアジ釣りの外道的なポジションで足がはやいうえに血合いが多く一般的にはあまり喜ばれない魚ではある。ところが、血合いの多い独特の風味、コクは好きな人にはたまらないようで、当方も新鮮なマルソウダなら刺身でも煮付けでも喜んで食べたい魚である。血合いのちょっとレバーにもにた濃い味わいは血のにおいとあいまって独特のおいしさだと思うのだがそう感じるのは少数派であろうか。当方以外にも三重県の尾鷲あたりでは湯がいたものをあぶって食べるのを「焼き」と呼んで珍重するのだとか。節はそばつゆの出汁にコクを出すのにも欠かせないそうで、食材としてなかなかに侮れないものなのである。ただし、あしがはやいのでサバ同様ヒスタミン中毒には要注意です。

 釣りものとしては、夏に南房総にまわってくる青物の代表格で、当方はカヤックで出撃して鳥山やナブラをジグミノーなどで直撃するスタイルで楽しんでいます。さすがに小型でも回遊魚。シーバスロッドをギュンギュンと引き絞って走り回ってくれるので真夏の太陽の下、爽快な釣りを楽しむことができます。

 

 

 

○マルタ

 東京湾からの春の使者。多摩川では産卵のために遡上してくるオレンジと黒の婚姻色に彩られた彼ら彼女らをフライやルアーで狙うのが新たな風物詩となっている。

 昭和40年代ころに、水質の汚染などで多摩川のマルタは一度絶滅している。今いるのは水質が綺麗になってきた平成になって茨城の涸沼から移入したのが数を増やしているものだそうだ。

 4月頃になると、多摩川中流域の瀬にはあちこちで産卵のための群れが見られるようになり、バシャバシャとはたいているのが見られるのも珍しくない。

 他の川やシーバス釣りでは「外道」扱いが多いこの魚も、多摩川においては結構な人気魚種となっている。野生の、美しい婚姻色を見せる50センチ以上の良く引く魚が沢山やってくるのだから人気が出るのも当然と言えば当然ではある。

 人気のおかげで、群れが着いている瀬には釣り人がずらりと並ぶことも多く、ちょっと割り込んで釣るのは気が引ける。

 そこで、当方はとある作戦を思いついた。マルタはウグイと非常に近い魚で、多摩川のマルタの産卵群にも、黒いラインがマルタとは違って2本の婚姻色がでた大型ウグイが混じったりするぐらいで、似たような生態を持っている。

 そのウグイは海なし県の長野あたりでは重要なタンパク源として愛されていて、ウグイがコケなどが少ない綺麗な砂礫底を産卵場所として選ぶ性質を利用して、川底をならして人工の産卵場を作って、やってきたウグイを漁獲する「付け場漁」という漁法がある。

 これにヒントを得て、当方は折りたたみ式シャベルを持って釣り場に向かった。もちろん瀬に新たな産卵場を作って、自分だけのマイポイントで爆釣してやろうという試みである。結果は2008年3月30日の顛末記バックナンバーを読んでいただければ分かるとおり、スカくってしまった。シャベルではほじくれる面積がしれている。多摩川で行われているマルタウグイの産卵観察会では、グラウンド整備用の鉄製の重いトンボを使用しているようである。トンボで川底をならしてやると、作業しているそばから産卵群が突っ込んでくるそうである。

 春はシーバスが忙しかったりするのでここ数年ご無沙汰しているが、トンボを入手して再挑戦せねばならないような気がしている。

 

 

○ミナミクロダイ

 今でこそ、本州のクロダイもポッパーやらミノーにガン玉かましたMリグやらで狙う釣り方が紹介されているが、ちょいと昔はクロダイは警戒心が強く、ルアーではあまり釣れないとされていた。

 しかしながら、南の島に行くと沖縄本島ではミナミクロダイが、先島方面ではナンヨウチヌがポッパーやらスプーンやらに果敢にアタックしてくるのだとかいう話は結構古くから話題になっていた。

 当方も、南の島に行くときには、メッキやフエダイ系を釣りながら、クロダイ系もつりたいなとぼんやりとしたあこがれを持っていたのだが、巡り合わせかなんなのかなかなか釣ることができないでいた。

 ところが、2009年、春休みを利用して沖縄ぶらり旅中の同居人から、ミナミクロダイ釣ったとの写メールが届く。そのほかにもレディーフィッシュやらも釣れており身もだえする思いだった。

 夏休みに同居人をガイドに沖縄釣行、念願かなってポッパーとフライのマドラーミノーでゲット。関西で言うところのカイズサイズだったけど嬉しかったですな。

 

 

○ムシガレイ

 三陸でカレイ釣りしていると釣れてくるが、当地での人気は1にナメタと呼ぶババガレイ、2にマコガレイ。ナメタは釣れたらラッキー的な魚で、基本はマコガレイ本命という感じである。ムシガレイは「ミズガレ」と呼ばれ、いまいち喜ばれていない。

 しかし、カレイにしてはおっきな口でいれば真っ先に食いついてくる性格から、釣れないと単調な小突き作業の繰り返しになるカレイ釣りにおいてなかなか楽しませてくれる魚である。

 いまいち評価が低いのは、やや水っぽくて締まりのない肉質による食味の評価の低さが原因なのだと思うが、こういう水っぽいカレイで珍重されているヤナギムシガレイと同様、干物にして焼くと、身が締まって旨味が出てきてかなりいけるのである。

 結構好きなカレイである。有眼側(表)には6つの黒班があるのが特徴で透明感のある体は独特の美しさがあると思う。

 

 

○ムツ

 九州時代、五島へ出張。夕食はキビナゴをシンプルに焼いたのをしこたま堪能。食後の腹ごなしにパックロッド片手に港で夜釣り。ジグヘッドリグの小型ワームには初めて見る魚が釣れてくる。どう見てもムツなのだが、深いところの魚のイメージがあったのでやや不思議に思ったが、ムツは幼魚期には浅い磯まわりなどにいるそうな。親と生息場所が違うことから「オンシラズ」と相模湾あたりでは呼ぶそうな。

 「ムツ」というのは脂っこいことをさす言葉らしく、「ムッチリ」とかも同じ語源に由来するようだ。

 

 

○ムラソイ

 亜種とされているオウゴンムラソイなどを含むムラソイ属4亜種については、2種に別れるのではとかなんとか分類がまだごたごたしているようだ。

 当方が釣ったことあるのはTHEムラソイだけのようである、故郷ではカサゴも含めこの辺のソイ系の魚はまとめて「ガシ」ですませている。

 テトラポッドや石組みの隙間からブラクリを使った穴釣りで釣れてくるのは、故郷のあたりの海では、カサゴでもクロソイでもなくこのムラソイがメインで、アイナメとタケノコメバルがそれに混じるという感じだった。

 釣り上げるとトゲトゲした顔をふくらますようにしてひれを広げ、しっぽを曲げていやがるような表情を見せる。ウイやつよ。

 カサゴのところでも書いたが、この手の魚は煮付けにするとほんとにおいしい。

 普通に釣れてくるのは15センチから20センチくらいの小型が多いが、あるときテトラのポイントで25センチ超えるような大型の雌を釣ったのが思い出深い。春、出産前でおなかがパンパンの個体だったので旨そうだったがリリースしたように記憶している。

 ソイの仲間フサカサゴ科の魚の多くは卵胎生でムラソイも卵ではなく小さな稚魚を生む。

 

 

○メジナ

 グレの呼び名で磯釣りでは主要な釣り対象魚となっている、釣りでは尾長グレと呼ばれるクロメジナも同様に釣られている。

 当方、本格的な磯釣りは未経験である。撒き餌の用意やら、道具の細かいセッティングやらがめんどくさそうで手がでていない分野だ。面白そうではあるんだけどなかなかちょっと手持ちの道具でやってみようというわけにはいかない雰囲気があったりする。本格的にやっている人は本命以外は毛嫌いしている向きもあるが、磯にいるいろんな魚が釣れてくるのは結構楽しそうだ。

 というわけで、メジナを磯釣りで釣ったことはないのだが、大学時代、研究材料のベラの仲間を釣るために真珠養殖筏に乗っかって釣っていると、やけにいい引きの魚がかかった。これは大物かとドキドキしながら上げてくると、あにはからんや手のひらサイズの褐色の魚。これがメジナ初体験であった。「引きが強いので人気」と呼ばれる魚でほんとに引きが強い魚は結構少なかったりするが、メジナは本当に引きが強い。青物でも無いのに独特の突進力がある。

 磯臭いといって食べない地域もあるようだが、故郷ではクロメと呼んで普通に食べられていた。普通においしい。

 

 

○メバチ

 仲間を集めて沖縄で船を仕立ててパヤオにマグロやらカツオやらを釣りに行ったのももう一昔前の話になってしまった。

 デカイマグロはなかなか釣れず、それでも2〜5キロ程度のキハダやメバチは結構釣れて面白かった。

 で、その5キロぐらいのメバチとキハダ、メメジとキメジというのだろうか、両方釣れて並べるとメバチの方が丸くて太っているし名前の通り目が大きいのでだいたい分かるのだが、片方だけを見ると判別が難しい。大きくなればキハダは第2背びれと臀びれがギュインと伸びるので間違えないが、メジサイズだとわかりにくい。胸びれがやや長く、第2背びれの後端を超えることや、腹側の白い幼魚班が斜めではなく背骨に垂直に入っていることなどからメバチと同定できる。

 同居人の実家で、知り合いの漁師さんからメバチの良いところをいただいたことがあった。脂が白くさしていていかにも旨そうだったが、早速食べてみたところちょっとがっかり、やや堅いような筋張った感じで期待した「トロ」の味わいではなかった。メバチの腹側は美味しくないのかと思ったが、残ったその刺身を「づけ」にして忘れかけた後日食べて評価が変わった。うまいやないか!と同時に失敗に気づいた。もらったメバチ、近海物の生マグロの鮮度の良いやつだったのである。鮮度が良すぎて最初刺身にしたときはまだ堅かったのであろう。

 牛肉とかの畜肉では腐る手前が旨いといわれるのと同じように、ある程度魚でもタンパク質が分解して旨味成分であるアミノ酸が増えた方が良いのは知っていたが、魚に関してはそもそも鮮度の低下が早いので、刺身で食べるならなるべく早く食ってしまうのがだいたい正解だと思っていた。マグロのようなデカイ魚はもう少し熟成させた方が美味しい場合もあるようなのである。その日釣りたてのマグロを船宿御用達の料理屋に持ち込んで新鮮なまだ弾力のある刺身を味わうというのは釣り師の特権だが、脂ののったデカイマグロになると、ちょっとじっくり寝かせて、漁師さんが言うところの「身に脂がまわる」のを待って食べると良いようである。

 塩竃では、延縄で釣ってきた生鮮のメバチは、秋から冬季の脂ののる時期に「ひがしもの」というブランドで売り出している。クロマグロだけが旨いマグロじゃないと思う。

 東北各地の港でも、震災後、マグロ水揚げも復活してきて徐々に機能を回復してきている。福島が残念な状況にあるのは心が痛むし、放射能の影響は気になるところだが、今のところ危ない数値が出たのは、福島をのぞくと北関東の一部の淡水魚や茨城のイカナゴぐらいのようで、とりあえず当方は積極的に東北の海の幸は食べたいと思っている。

 もしその結果、検査態勢が不十分だったり、事実の隠蔽なりがあって放射性物質に汚染された魚介類を食べてしまうことになったとしても、それは、これまで原発を推進し、検査態勢をおろそかにし、事実を隠蔽するような社会システムしか作ってこれなかった我々大人の罪に対する罰として甘んじて受け入れようと思う。 

(2011.06、08、12) 

○メバル

 クロメバル、アカメバル、シロメバルの3種が、以前は「メバル」1種として認識されていた。しかし、DNAや形態の研究結果から、3種に分かれることが報告され近年定説となっている。

 一つに繋がっている海の中で、DNAに違いがあるのなら、「生殖隔離」が存在するとしか考えられず、別種とするのは妥当のような気がする。

 単に形態的な違いからでは、なかなか「種」を判別するのは難しいのが実際だと思う。生物の形態は同一種の中でも多様性に富む。海に降りて銀ぴかの2尺を超えるようなサクラマスと、パーマークも鮮やかな可愛いヤマメが同じ種であるとは、形態だけ見ていると不思議ですらある。

 でもって、3種に分かれたメバルなのだが、当方が「メバル」と認識して、過去に釣っていた魚は、果たして3種のうちどのメバルなのだろうか?そもそも釣っていたのは1種なのかどうか、検証してみたい。

 色はかなり難しい要素で、メバル3種についてもDNA鑑定を除くと堅いのは色よりも骨のようである。具体的には胸びれ軟条数が目安となるようだ。15本ならアカメバル、16本ならクロメバル、17本ならシロメバルのようだ。ただ、この数も変異があるようで確実ではないらしい、DNA鑑定という手段を持たないわれわれ釣り人としては、胸びれ軟条を基本としつつも、生息地ややっぱり色も含めた総合的な視点から判断するしかないだろう。

 まず、色が黒っぽく、特に死ぬと真っ黒になるらしいクロメバルは生息域がやや外洋の影響がある磯のような場所で釣れるということも考えると、こいつは何とか総合的に見て見分けが付くのではないだろうか。ちなみに当方はたぶん釣ったことがない。

 後は、アカメバルとシロメバルだが、これがどちらも内湾に棲んでいて色もどちらも赤っぽい色の個体がいるようでなかなか難問のようだ。典型的な個体はアカメバルは赤みが強く、シロメバルはシロっぽいというか茶色の普通よく見かける「メバル」らしい。とりあえず、胸びれ軟条が15本か17本であれば何とか見分けられそうだが、16本で黒くないのが内湾で釣れてきた場合それがどっちなのか、当方レベルでは判別不能だ。やや体高が低くスマートで胸びれも長くとがり気味なのがアカメバルのようなので、数を見ている人なら体型はかなり有効な手がかりになるかもしれない。

 まあ、シロメバルが岸から釣る場合には一番可能性が高いので、とりあえずシロメバルが当方がこれまで釣ってきたメバルなのだろうけど、アカメバルをどこかで釣ったことがあるのか無いのか、過去の分はほとんど判別不能だ。むかし釣ったメバルの中でアカっぽいのはいたような気はするのだが明確に見て取れるような写真は残っていない。これから釣る「メバル」についてはちょっと気をつけてみていきたいと思う。

 

 

○モツゴ

 たなご、小鮒など小物釣りをたしなむ釣り人にはなじみのお魚。冬寒い時期でも割と元気なので、タナゴ探しに行ってこいつの群れを見つけて「モツゴ釣り」に突入していくパターンもある。別名のクチボソの名のとおり、スリムな体の先の小さな口で餌をついばむので、あたりは派手に出るのにフッキングはなかなかしないところが、釣り人を熱くさせる。釣りの対象種としてはタナゴ類に隠れて人気は今一だが、なかなかに楽しいターゲットである。

 日本在来のコイ科魚では珍しく、杭や小枝などに卵を産む基質産卵性で、コンクリで護岸されて水草もないようなショボい池でも生息可能で、都会の公園の池でも釣りの対象として親しまれたりしている。

 カザフスタンで葦の根元の縄張りを守っている、黒い婚姻色のでた小魚を見つけ、タナゴタックルで釣り上げることができたのだが、これがモツゴの仲間であった。日本のモツゴより婚姻色の黒が明確に出ているように感じたが、同種の地域差か別種かまでは分からなかった。帰国後調べてみるとモツゴはユーラシア大陸東岸が分布域なので、中央アジアにいるのは別種と考えるのが素直なような気はしたが、有用魚種の種苗に混じる形で分布を広げているとの情報もあり、イリ川には産地から「アムール」と呼ばれているソウギョが導入されていて、その種苗とともにやってきたアムール系のモツゴかもしれない。

 中央アジアの魚類の図鑑があれば一度見てみたいところだ。

(2012.5)

 

 

HOME