○サ行 −ナマジの釣魚大全−

 

 

○サッパ

 サビキでイワシやらを釣っていると、なにやら平べったいのが釣れたな、という感じで釣れてくる魚。

 関東ではほとんど相手にされていないような魚ですが、なぜか岡山ではあまりの旨さにご飯を隣に借りに行かなければならない「ママカリ」として大人気。確かに、小骨が多いことを気にしなければ脂も乗って、焼いても酢漬けでも美味しそうではある。岡山に行ったときに焼いたものを食べたがなかなか美味しかった。

 逆になぜ岡山以外で食べないのか不思議なものである。所詮、食は偏見と習慣の産物ということだろうか。

 

 

○ササノハベラ

 何を隠そう、当方の卒業論文はササノハベラをネタに書かせていただいた。現在ではササノハベラはホシササノハベラとアカササノハベラに分類されているが、当時は1種の扱いでした。おそらく浅場で釣ってきた魚をサンプルとして使っていたのでホシササノハベラを対象としていたと思います。

 こいつらけっこう絶倫で毎日夕方産卵、放精します。その毎日の卵原細胞や精原細胞の組織学的変化や、血中のホルモン量の変化を調べて論文にしました。

 実験は飼育魚と、天然魚でやりました。天然魚の場合、3時間毎に毎回オス・メス数匹以上というような量が必要で、臨海実験場に泊まり込み、何日かかけて決められた時間毎の必要サンプル数を確保していきましたが、最後の方になってどうしても、オスが集まらず、最終日に釣れなければ再度サンプリングのために臨海実験場に来なければなりません。

しかも最終日は時化模様で釣りにくい状況、相棒や指導してくれる院生の「何とかして釣ってこい」とのハッパを受けて、先生と2人で船を出して、白波ザパザパと恐ろしいぐらいの中、速攻で必要尾数をゲットして逃げるようにして帰港。釣り師としての面目を保ったのでありました。

 実験結果も綺麗に出て、ササノハベラは毎日周期で卵を成熟させており、ホルモンの分泌もそれにあわせて綺麗に日周的な変動を繰り返しておりました。ということで無事卒業させていただいたという有り難いお魚です。

 

 

○サワラ

 西日本、特に岡山で人気のある魚ですが、最近は日本海で良く獲れていて海水温の上昇との関係などが疑われています。

 これの4,50センチのサイズのモノをサゴシといいますが、九州に住んでいたとき秋になると玄界灘のサーフに回ってきたので良く釣っていました。

 そろそろ寒くなってきて北西の季節風が吹き始める時期に、風に向かってジグをフルキャストしてガンガン引いているとガツンとヒットして、けっこうな引きで暴れてくれます。頭がこっち向くとおとなしくなりますが。

 そのとき食べられていた餌の魚はカタクチのシラスで、波打ち際に打ち上げられたりしていました。シラスのサイズを意識すればメタルジグより、ジェット天秤で弓ヅノを投げた方が効果的だろうと試してみましたが、ガンガンとあたりがあるわりにフッキングしませんでした。どうも弓ヅノではなくジェット天秤に食いついていたようです。

 ことほどさように、強烈な魚食性を示す大食漢な魚で、稚魚の写真を見るとほとんど口が体の半分ぐらいあるような口の化け物です。その口で小魚などを食いまくり急速に成長するため、私が釣っていた50センチ前後のサゴシはなんとその年生まれの魚とのことでそのことを知ったときにはびっくりしました。

 

 

○シイラ

 夏のオフショアの釣りの代表的獲物。夏になると船を仕立てて一度は釣りに行きたくなります。水面近くで餌を獲ることに特化した生態を持ち、トビウオの天敵というニッチでも有名。というかトビウオが跳ぶのはシイラがいるからではないだろうか?水面系のルアーへの反応が非常によい。

 最大は日本近海だと1.5mぐらいまで。味はハワイやら広島やらでは珍重するモノの「イマイチ」という定評がありますが、大きくて脂の乗った個体を新鮮なうちに刺身で食べると、「これがシイラか?」と驚くほど旨いです。単に雑な扱いを受けているので足が速いこともあって旨くないという風評があるだけではないだろうかと思います。

 オフショアのルアーの入門種的な存在で、当方も初めて釣った海の青物はシイラでした。

 ものすごいトルクがあってしかも速い引きに、へっぴり腰でどんな大物がかかったのかとドキドキとファイトしていましたが上がってきたのは50センチ強のペンペンクラスでした。海の青物は良く引くんだなということを体感させてくれる魚です。ファイト中のジャンプも、美しく変化する体色も魅力です。興奮していると青と緑が強くでていますが、グロッキー状態になると黄色っぽくなります。釣っているときにかけた魚に群れがついてくることが良くあるので同船者に釣らせるためには、すぐに船上に上げてしまわずに黄色くなるまでは泳がせておくのが上級者の役目となっていたりします。

 

 

○シロギス

 砂浜での豪快な投げ釣りでの釣りのイメージが強いですが、場所によってはちょい投げでも釣れたりして、気軽に釣れる割りには引き味も良く、もちろん食味もよいお魚。

 当方大学時代には、実験魚を釣りでまかなう研究室に所属しており、研究室で扱っていたキュウセンやトビヌメリ(ヌメリゴチの類)を狙って良くサンプリングと称する釣りに出かけました。

 サンプリングに出かけた先は臨海実験所で、たいてい泊まりがけでの行動となり、自然と自炊ということになりました。当方は大学に入ってから親元を離れ自炊を始めていたので料理は得意でした。サンプリングで釣れた実験に必要な魚は当然ダメですが、それ以外の魚はその日の食卓に上ることが通常でした。普通キス釣りの外道としてトビヌメリやキュウセンは釣れてくるのですが、その逆も真なりで、けっこうシロギスは食卓を賑やかしてくれました。

 当時研究室には、女子が数名おりましたが、どこに嫁にやっても恥ずかしくないように、彼女等にはしっかりキスの天ぷらの作り方を仕込んであげました。

 天ぷらのコツは、ネタと衣は良く冷やしておくことと、油の温度が下がりすぎないように気をつけることです。お試しあれ。

 

 

○シロヒレタビラ

 四国への釣行時にゲットしました。他に、カネヒラ、タイリクバラタナゴ、ワタカ等が釣れて、「四国は淡水魚が豊富だなあ」という感想をいだいたのですが、ちょっと考えるとシロヒレタビラ、カネヒラ、ワタカはおそらく琵琶湖産、タイリクバラタナゴはその名の通り大陸原産ということで、ある種有り得ない魚種構成であることに愕然とします。

 琵琶湖とブラックバスの関係において、ブラックバスの密放流が琵琶湖の生態系に悪影響を与えたという、「琵琶湖サイド」の被害者的な意見が声高に叫ばれているように感じますが、琵琶湖の湖産アユを全国に売りさばいたおかげで、琵琶湖原産の魚が日本全国に拡散していったことの生態系への悪影響を考えると、被害者面だけえらそうにするなと嫌みの一つもいいたくなるというものです。もちろん琵琶湖産のアユ種苗が多くのアユ釣り師のニーズを満足させた功績は否定するモノではないですが。何事にもプラスとマイナスの面があって、それらを一方だけでなく両面から良く見ておかないとおかしなことになると感じています。

 

○スゴモロコ

 小物釣りをしているとたまに釣れてくるモツゴにちょっと似た小型の魚、イトモロコと区別がイマイチついていませんが、おそらくどちらも釣っているのだと思います。

 この手のジャコは琵琶湖をひかえた京都あたりでは佃煮にして食べているようです。

 

 

○スジアイナメ

 北海道オホーツクでの研修の隙を縫って、漁港のテトラポットにブラクリ&ワームを落とし込んでやると好反応で釣れてきました。ちょっと見た目クジメっぽいのですが、測線は多くてアイナメに見える魚で、何だろうと思っていましたが、後で調べてスジアイナメと判明。シッポの先が丸いのも特徴。

 東北あたりまでは、テトラで穴釣りしても釣りきられていて魚の反応がないことも多いのですが、さすがに北海道のオホーツクまで来ると、他にも釣る魚はいくらでもいるためかちょっとしたテトラにけっこう魚がついていました。

 渓流魚については、北海道より断然東北の方が魚が残っていると思うのですが、海に関しては北海道の方がスレていないのかもしれません。まあどちらも魅力的な土地ですが。

 

 

 

○スズキ

 都市部の運河にも、カタクチの接岸するサーフにもどこにでもやってきていろんな釣り方が楽しめる魚だと思います。北海道と沖縄を除く広い範囲で釣れるのも魅力。釣り方や生態の話はさんざん書いていますので、今回は食味について書いてみます。

 一般に旬は、初夏となっていますが、これは、産卵が終わった春には味が落ちていたのが、産卵後の荒食いで太ってくる時期とあっていると思います。しかし初夏に評価が高いのは、他の白身魚が春産卵で味を落としている時期に重なるからという事情もあるようで、スズキ自体の旬は、初夏もそうですが、産卵に向けて荒食いする秋から冬にかけても旬だといって良いと思います。

 あっさりとした白身の魚で、夏場など活けモノは洗いで食べられたりしますが、基本どんな料理にも向きます。宍道湖では七珍の一つに数えられます。奉書焼きが有名で、奉書焼き自体は蒸し焼きに近い手法だと思いますが、ヨーロッパシーバスでも有名な料理法にスズキのパイ包み焼きというのがあって、これも蒸し焼き系の料理法です。フランス料理界の大御所ポール・ボキューズの得意料理です。蒸し焼き系が合うのかもしれません。

 当方が食べる場合は、とりあえずお刺身ですね。であまったアラで潮汁といったところでしょうか。

 東京湾の湾奥などのちょっとドブ臭いような場所で釣れたシーバスは、やや食べるのはためらわれます。そこに長い間居着いているシーバスは、色も黒っぽく、釣った段階ですでに泥臭いというか石油臭い匂いがするので論外ですが、ほとんどの場合、沖から回遊してきたフレッシュな個体が釣れてくるので実際には問題なく食べられる場合が多いです。当方も湾奥の公園のトイレで絞めて持ち帰ったのを食べましたが、普通に美味しかったです。まあ普段は獲物を持ち歩くのが面倒なのでリリースしていますが。

 湾奥で釣っていてたまに、千葉県の刺し網の漁船が釣っている目の前で操業することがありました。けっこう獲れていて「オレが釣るはずの魚を獲りやがって!」と恨めしく見ていましたが、こうやって漁獲した湾奥産のシーバスも、千葉側に水揚げするので「千葉産スズキ」として流通することになります。

 

 

○スマ

 ヒラソウダの胸のあたりに黒点を付けたような見た目。この黒点がお灸(やいと)の跡に見えることから別名「ヤイト」。あまりまとまって獲れる魚ではないので意外に知られていませんが、あるときシイラ釣りが終わって、船宿で刺身を出してもらって食べたところそのおいしさにちょっとびっくり。脂がけっこう乗っているけどカツオほどくせが無くこれはええワイというお味。

 釣りモノとしても、カツオの仲間ですからそれなりに引きも強く評価の高い魚のはずですが、当方は沖縄で周りがカンパチ爆釣している中、なぜかサバのようなサイズのこのスマが釣れてきた時の記憶が大きくイマイチ良いイメージではありません。

 

○ソウギョ

 外来魚が生態系を壊すというフレーズは良く聴くが、実際にはなかなか「系」までに影響を及ぼすことは少ないように思う。つまり、単純に魚種が入れ替わったりした程度では、食物連鎖やエネルギーフローの上流と下流側に極端な影響があるとは思えない。ましてや「系」が壊れて例えば池が富栄養化したり、干上がったりというところまでは行かないのではないだろうか。

 しかしながら、このソウギョについてはかなり「系」にも影響を及ぼす力があると感じている。何しろ水域の水生植物を根こそぎ食べ尽くすことがあるほどの大食漢。一時生産者である植物が根こそぎいかれれば「系」は当然狂うだろう。

 九州では、川下りのできる水路や白鳥ボートのある公園の池にソウギョが放されていて、水生植物が見事に刈り取られている。公園の池の隣の池にはハスが密生し水草も密生しているというのに、公園の池にはソウギョが好まないらしい水草が何種か生えているだけという状態だった。救いがあるのは、ソウギョは流れの緩い長い流程を持つ河川でないと繁殖できないため日本では利根川でしか繁殖が確認されておらず、数十年単位で見ればいなくなるところである。

 というように生態系に脅威を与える移入種ではあるのですが、釣りモノとしては極めて魅力的なその巨体。泳いでいるのを見たら釣りたくなるのは押さえられません。公園の池や川下りできるような観光地の魚なので、パンに好反応。パンフライでゲットしました。とにかく1m前後ある個体がほとんどなので、右腕が痺れるほどのファイトを堪能できました。寄せてくるのはけっこうおとなしく寄せられるのですが、近くまで来てからダッシュして沖へ走るというファイトは独特です。

 

(2010.7、8) 

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