○新しい正月料理の発見

 

 我が同居人の出身地は宮城県は気仙沼市である。

 気仙沼はご存知のとおり港町でカツオやマグロ、サンマをとる漁業等が盛んで、最近はフカヒレも有名。カキやホタテ、ホヤなどの養殖も忘れてはいけません。

 というわけで同居人の実家に行くといつも美味しい魚介類でもてなしてもらえます。

 今回紹介する料理との最初の出会いは数年前のとあるお正月に遡ります。その日の食卓には刺身が並んでいました。

 一種類はマグロの赤身、おそらく鮮やかな色合いからみてメバチマグロだったのだと思います。

 もう一種類、謎の白身の刺身がありました。鯛やヒラメに比べるとやや白濁したような白身で脂がずいぶんのっているように見えました。マグロと同じようにブロックから切り出したような刺身の形なのでどうも大きな魚のようです。

紅白の刺身

 食べてみると、予想どおりに脂がのっていて非常に美味しい。割とあっさりとした味わいのマグロの赤身とは好対照です。

 見た目も紅白で綺麗なコントラストですが、食味もよい塩梅のコントラストで双方おいしくいただきました。

 「これ何の刺身ですか?初めて食べたんですけどおいしいですね。」と同居人の母上に問えば、「あらー食べたこと無がったのー。メカ(ジキ)の刺身なのよー。マグロと並べると紅白でめでたい感じだからこのあたりではお正月とかにけっこう食べるのよー。」とのことでありました。

 それ以来数年、マグロとメカジキの紅白の刺身は気仙沼の正月料理なんだと思いこんでいました。

 

 ところが、気仙沼では正月にはメカジキとメバチの紅白の刺身を食べるという話を書こうとして、同居人にさらに詳しく聞こうとしたところ「別にメカジキは正月だけじゃねーっちゃ、いつでもあれば食べるのっさ。正月料理はナメタ(ババガレイ)かキチジの煮付けだっちゃ。」と完全否定されてしまい執筆は窮地に。

 にわかには信じがたく、同居人の実家は親戚筋に漁業やってる人がいるから年中食べてただけだろうと思い、ネットや本で調べてみましたが正月料理としてメカジキを食べるという話にはたどり着けませんでした。

 しかし、全く根拠のないことを数年にわたって思いこんでいたわけではなく、確かにお正月時期には気仙沼の魚屋さんにはメカジキやメバチがならんでいるし、お正月の食卓へのメバチとメカジキ登場の機会は夏場より多いです(当方調べ)。

メカジキブロック

 あちこち人に話も聞いたりして、調べていると手がかりらしき情報を入手しました。

 まぐろ漁船の乗組員はお正月休みに船を下りるときには、「年越し用」として漁獲物であるマグロやメカジキをもらって家族のもとに帰るそうです。

 正月に気仙沼に帰るということは、おそらく近年では出航後数年帰ってこない遠洋マグロ漁船ではなく近海まぐろはえ縄漁船の話であろうかと思います。

 メバチとメカジキは近海まぐろはえ縄漁船の主な漁獲物なので、何となくみえてきた話の筋とも合致します。

 要するに、「メバチとメカジキの紅白の刺身」は新しく気仙沼の正月料理になりつつある、あるいは、意識されていないけど既に新しい「正月料理」の一種となっているのではないか、というのが私の推測です。

 正月には家族親戚集まってご馳走を食べる機会が多い。そこで近海まぐろはえ縄漁船の乗組員の持って帰ったメバチやメカジキが食べられる。食べれば美味しいし、見た目もめでたい紅白でいかにも宴席にふさわしい。

 当然、水揚げされたメバチやメカジキが魚屋さんにも並ぶ。漁船の乗組員の家で食べたり、お裾分けをいただいて「美味しい」と知った気仙沼の人々が魚屋さんでそれを買うようになる。という流れが自然な成りゆきだったのではないでしょうか。

 

 シロザケが多くの地域で正月料理として使われるようになったのは、優れた味のほかに秋に大量に漁獲されるうえに、冷凍冷蔵設備が発達していない時代にも塩蔵して「新巻鮭」として流通させることができたという要因があったからだと思います。また、シロザケ一匹丸ごとを使った迫力のある見た目も正月を飾るにふさわしかったのでしょう。

 このように、一つの文化である正月料理も、地域ごとの漁獲物、流通技術や嗜好などによって年月を経て形づくられてきたものであり、そうであれば、地域ごとに特色があるのはもちろん、技術の進歩により変化することもありうるのだと思います。

 「メバチとメカジキの紅白の刺身」も冷凍冷蔵技術やはえ縄漁法の発達に伴って、今まさに正月料理化しているのではないでしょうか。

 ただ、メバチやメカジキは何も正月時期だけ水揚げされる魚ではなく、その辺が明確に「正月料理」として認識されるまでに至らない原因かもしれません。

 逆に、正月料理としてだけでなく宴席にはいつでも出てくる料理として定番化する可能性も秘めているように思います。

 

 現在、メバチは関東を中心に刺身食材として広く消費されていますが、メカジキについては洋風にムニエルにするなど加熱した料理での利用が主で、刺身で消費するのは東北地方の宮城県、岩手県あたりに限られています。

 全国の魚屋さん、料理店の皆さん!ぜひ新しい刺身食材として「メカジキ」にも注目してください。

 港町気仙沼の魚を食べ慣れて舌の肥えた人たちに受ける味は、全国どこでも受けること間違いなしだと思います。料理人の創意工夫で紅白の刺身以外にもいろんな使い方ができるでしょう。

 実際、家の近所の割と新しい工夫に挑戦する回転ずし屋さんでは気仙沼フェアーということで、一時メカジキの刺身やネズミザメのスモークなどを握ってくれました。それなりに好評のようでした。

 正月料理に限らず「新しい料理」がたくさん生まれて、同居人の地元の気仙沼の港が潤うことを期待してやみません。

  お正月の気仙沼からお届けしました。謹賀新年。

 おせち(おせちとキチジと紅白刺身!めでたい!)

(2009.1.1)

 

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