○宇宙旅行とライギョ

 

 最近はロケットに乗って宇宙旅行に行くことも可能らしいです。(註1)

 金さえあれば行きたい人は結構いるようですが、私は今のところ興味ナッシング。

 なぜなら魚が釣れないからであります。

 

 もし私が生きているうちに恒星間航行が可能になり、地球の他にも海を持つ惑星があり、そこに泳ぐ生物がいるというのなら話は別、是非とも行ってみたいものです。(註2)

 

 地球の魚とは起源が異なる生物であろうとも、海の中を泳ぐ生物なら「魚」と基本的には行動パターンは似てくるはずだと思います。泳ぐための筋肉や鰭に相当する器官があり、餌を探すためや敵から逃れるための視覚や聴覚や嗅覚等(註3)を持ち、餌をとらえるための器官や消化吸収のための器官を持っていて、液体の抵抗を軽減する体型などを持っていると想像できます。

 

 であるならば、当然その生物、仮に宇宙魚と呼ぶ事にして、その宇宙魚を釣ることは可能でしょう。これは釣り人なら燃えざるをえませんゼ!

 

 釣るために知りたいのはまずは何を餌として食べているのか?餌はどうしましょう?

 普段その宇宙魚が食べている餌が入手可能ならそれを直接餌にするというのがまず王道。

 宇宙魚が餌を探す際に、匂いなり味なり(註4)を基に探していて、その匂いなり味なりが地球上の生物にもあるなら、その地球上の生物を餌にすることができるでしょう。

 つまり、宇宙魚がアミノ酸とかのタンパク質の分解物の味が好きなら、サバの切り身でもイカの短冊でも餌になるでしょう。糖分が好きなら芋羊羹とかを検討せねばならんでしょうね。

 

 ルアーなりフライなりをつくるなら、まず、宇宙魚が動きなり、音なり、色、形なりで餌を探索していることが前提。もしくはそういう種類の宇宙魚を探すのが必要でしょうか。動きや、音などは外部から得られる情報でも特に重要なものだと思うので、これらを基に餌を探している宇宙魚はきっといるはずです。

 そういう宇宙魚が見つかったとして、まずはマッチザベイトでその宇宙魚の餌を摸したルアーなりフライなりを用意するという発想が頭に浮かびますが、私の予想では多分その前に地球の魚を釣るためのルアーなりフライなりを試してみれば結構釣れるはずだと思います。

 なぜなら、餌も「海」のなかに生息する生物であれば(註5)、その動きなどは基本的に地球の海の生物と似たようなものになるはずです。であれば、それらの動きを参考にしつつ、地球の魚が反応するように種々様々な工夫がなされている「地球魚」用のルアー・フライはかなりの状況で有効だと思います。

 

 餌の次に考えなければならないのはハリでしょう。その他の道具類でも、その星の海の海流は異常に早くてメチャクチャなスピードで泳ぐ宇宙魚がいるので、竿もパワーがいるしリールもたくさんライン巻けるように大きなものが必要だというように工夫が必要かもしれませんが、基本的には既存のタックルの範囲内で何とかなるはずです。

 しかし、ハリについては宇宙魚に直接接触する部分ですので、宇宙魚の餌を捕らえる器官の構造などによって大きく変える必要が出てくるかもしれません。

 要するに、魚と同様、宇宙魚も口に餌を取り込み食べるなら、多少口の構造は違えどもいわゆる釣り鉤の工夫で何とかなると思いますが、ややこしいのは、宇宙魚が独特の捕食のための器官を発達させている場合です。つまり進化の起源の全く違う生物なので必ずしも餌を口でつかまえるとは限らないんじゃないかと思うのです。

 

 具体的に説明するのにぴったりの生き物が、地球の海にも泳いでいます。

 イカです。

 奴らは捕食のために主に触腕と呼ばれる器官を使います。魚の口とは違い柔らかくて切れやすく、しかも餌をその器官の中に取り込む口とは異なり、餌と接触するのは限定的な方向からだけです。

 通常の釣りバリでは針先が限られた方向に向いているので、イカの触腕が針先と別の方向から餌に接触した場合はハリがかりしません。方向が合ってハリがかりした場合でもイカの柔らかい触腕は1本針では切れてしまいかねません。

 そこで、イカ用のエギなどに付いているハリは360度ぐるり並び、どの方向から触腕が伸びてきてもハリがかりし、しかも、かかるハリの数を多くして個々のハリにかかる重さを軽減して身切れを防いでいます。あらためて考えてみると良くできています。

フラdeイカ(宇宙魚ではなくイカが一本針で釣れたレアケース)

 

 宇宙魚は果たしてどういう捕食器官を持っているのでしょうか、蚊のように餌に捕食器官を突き刺して吸っていたりしたらハリはどうしましょう。鳥のくちばしように固くてハリがかりしにくい口をしていたらどうしましょう。いずれにせよ工夫のしがいがあるというものですね。(註6)

 

 今まで想像してきたのは、海が地球の海と同じような粘度の少ないサラサラと流れる水を主体とした液体で構成されている場合の宇宙魚です。

 しかし、海が必ずしもそういう液体で満たされているとは限りません。海が我々の想定と違う場合、それを海と呼ぶかどうかはとりあえずおいといて、例えば、酸性の液体で満たされていて金属類が使えない「海」では、道具の素材から検討し直す必要があるでしょう。また、全く光を通さない液体で満たされた「海」なら、音や匂いをより意識して作戦を組み立てていく必要があると思います。

 さらに、「海」の液体の比重が高かったり、粘度が異様に高いなど物理的に地球の海と大きく異なる場合どうでしょうか。

 

 液体の比重が高い場合、極端な想像をして「水銀の海」の宇宙魚はいったいどんな生活をしているのか想像してみます。もしその宇宙魚が地球の魚のようにタンパク質のような有機物で体の大部分ができている場合当然そのままでは沈みません。そうすると、基本的に「水面」でアメンボやミズスマシのような生活をするか、ものすごい運動量で強力な浮力を打ち消して水銀中を泳ぐのか、あるいは敵から逃げるときだけ水銀にもぐり込んで逃れるという行動様式もあるのか、いずれにせよ想像するのも難しくなってくるのは確かです。既存の釣りの概念では太刀打ちできない可能性が出てくるかもしれません。

 しかし、水銀より重い金属を体に蓄えるなどして(註7)、水銀中を泳いでいる場合を想像するとそこそこ魚釣りっぽくなってくると思います。液体中を泳いでいる生き物なら「魚」に似てくるはずです。幸い鉛は水銀より比重が大きいので沈下速度は遅いかもしれませんが仕掛けを沈めることができるはずです。急ぐ場合は金でも劣化ウランでも使ってください。ちなみにトップウォータープラグやドライフライなら沈めなくて良い分、浮力の問題は解決しやすくて良いかもしれません。

 

 次に液体の粘度が異様に高い場合、流動性に乏しい場合、極端な話をすると液体じゃなくて固体になってしまいますが、想像の世界ですから気にせず突き進んで、そういう場合はどうなるでしょうか。

 水飴のようなドロドロの海、「それは海ではなくて砂漠だろ!」というような砂の海、繊維質のモノが大量に混ざった海などなどで考えてみましょう。

 まず、宇宙魚が海中に住んでいるとしてもそこまで仕掛けを沈めることが難しくなってきます。今回想像したような海中ではオモリにも餌にも大きな抵抗がかかり特にラインへの抵抗は魚がかかった後においても致命的な障害になります。

 大きな抵抗に負けない丈夫な仕掛けとタックルを用意して、ものすごく重いオモリで沈ませるという手もあるかもしれませんが、水飴の海ならともかく、砂の海や繊維質の多い海では仕掛けを海に沈めるのは無理そうです。この際その手はあきらめるべきかもしれません。そうすると水面で餌なりルアーなりを食わせる工夫が必要になってきます。水面で餌をとるのが得意な宇宙魚を探すのが必要かもしれません(註8)。

 次に、水面で食わせたとして、その後のファイトで宇宙魚に潜られるとまたしても海中での大きな抵抗が立ちはだかってきます。

 かけたら抵抗の少ない水面を一気に寄せてきましょう。そのためにはラインも太くしておく必要があるし、竿もリールも丈夫でパワーのあるモノが必要になってきます。もし潜られたとしても強引に水面に引きずり出せるパワーがあれば理想的です。そのときラインは繊維やら土やらと激しく摩擦が生じますから耐摩耗性も重要です(註9)。

 

 さて、ここまで読んできて「題名にあったライギョはいつ出てくるんや!」とじれていた皆さん、お待たせしました。もうわかりましたでしょうか?

 そうです繊維質のモノが大量に混ざった海での釣りとは、まったくそのまんまライギョ釣りなんです(註10)。

 

 ライギョ釣りの一般的なタックルをみたとき、釣れてくる魚の大きさを考えると、異常と思えるほどのパワーがあり丈夫なものであることに違和感を覚えると思います。しかし、実際にライギョ釣りをしてみるとそれなりにしっくりきます。

 それもそのはず、ヘビーカバーでのライギョ釣りは「繊維質のモノが大量に混ざった海」という、通常釣りをしているサラサラと流れる水に満たされた海ではない異世界の海での釣りなのです。その異世界の海の特性を知れば自ずとオーバーパワーに見えるタックルにも「繊維質のモノが大量に混ざった海」で釣ることを想定したときに説明したような理由で必要性があるということに納得がいくというものです(註11)。

 ライギョ釣りでは異世界での釣りのごとき特殊性を味わえることが、他の釣りにはない魅力だと私は思っています。

 

 よくライギョの魚離れした異形の様をみて「グロテスク」だという意見を聞きますが、これも「繊維質のモノが大量に混ざった海」という特殊な環境に適応した合理的な体のつくりや見た目が、普段見慣れた魚と異なるので最初異様な印象を受けるだけのことであり、見慣れてしまえば格好いい魚ですし、その行動は時にユーモラスで愛らしいと感じます。

 彼らの住む「繊維質のモノが大量に混ざった海」の典型は菱藻がびっしりと水面を覆い、水中には菱藻の茎や根、やや少ない光でも育成できる水草のたぐいが絡み合うように密生している池などです。

ヒシモ(繊維質のモノが大量に混ざった海)

 そのような中を泳ぎ回るには、細長い体と擦れに強い分厚く粘液の多い皮膚が適しています。

 視界が効かない藻のジャングルで餌をとるために、目の前に来た餌には瞬間的に反応して吸い込みます。餌を吸い込むための鰓蓋をはじめとした口腔内の稼働容積(勝手に言葉つくりましたが吸ったときと吐いたときの容積差ぐらいの意味です)は大きく、咥えた餌を逃がさないように尖った歯も持っています。

 口腔内の稼働容積が大きいのは、鰓の上部が変形してイボの付いた板のようになった「上鰓器官」を使い空気呼吸をすることとも関連しています。空気を溜めておく空間を大きくとっているため、ライギョの口腔の容積は大きく発達しています。そのため鰓蓋まで含めた頭部は長細く目の後ろのあたりから盛り上がった独特の形をしています。

 さらに興味深いのは、頭部に震動など水の動きを感じる感覚器官が発達しているらしく、菱藻など浮き草の上のカエルなどの動きを感じて捕食するのが得意です。そのため上方の餌を吸い込みやすいように下顎が上顎より突出しており下唇の飛び出したようなふてぶてしい表情をしています。これらは浮き草で視界がさえぎられた状況を上手く利用して獲物に接近・捕食するための適応であり感心させられます。

ライギョの顔(ライギョの顔)

 さらに、水草などの密生した場所では泳いでいるうちに狭いスペースに入り込んだりすることも多いと思いますが、ライギョは胸びれをパタパタと動かして器用にターンもバックもこなします。釣り場で目があったライギョが最初パタパタと胸びれでバックした後、またも胸びれを使ってその場でターンしてから急いで泳ぎ去っていく様はいかにも「しまった」という感じの行動に見えて楽しい光景です。(註12)

 このように、ライギョの外見、行動の必然性を知るにつれ感心、感動こそすれ「グロテスク」だと忌むような気持ちはわかなくなってきます。

 

 おそらく、宇宙魚を初めて見たときにも、「グロテスク」だと感じるかもしれませんが、それらが生きる環境や、行動・生理などを知るにつれ、やはり感心、感動がわき上がるのだろうと思います。地球の海と異なる環境であれば、我々があっと驚くような適応の妙を見せてくれる宇宙魚がいるかもしれません。逆に「繊維質のモノが大量に混ざった海」にライギョそっくりの宇宙魚がいてその事実に驚かされるのかもしれません。

 

 その場合、釣り人ならライギョタックルを持って宇宙旅行に行くしかないでしょう。

 

 

 

(註1)ロシア宇宙局との契約を仲介してくれる旅行会社が存在するそうで、現在までお金持ち2名がロシアのロケット「ソユーズ」で宇宙旅行したんだそうな。ちなみに旅行代金は20億以上だとか。あほくさ。

 

(註2)海と書いてますが、要するに水を中心とした流動性の高い液体の中という意味で淡水でもかまいませんし、海水と成分が多少違っても基本は同じだと思います。

 

(註3)等の中身としてはいわゆる五感の他に、サメやアフリカの淡水に住むモルミルス類が持っている電気刺激を感じる能力や、蛇やムカシトカゲのようなは虫類のように熱を感じる能力(赤外線を感じているので視覚の一種か?)もある。

 

(註4)人間などの場合、空気中に漂っている物質を感じるのが嗅覚で、液体中にとけ込んでいる物質を感じるのが味覚というのが大まかな整理ですが、水中の魚の場合、普通は水中に広く溶けている物質を感じる能力を嗅覚、餌などに接触するなどして近距離で濃く溶けている物質を感じる能力を味覚といっているようです。魚の場合、味を感じるはずの味蕾が口だけでなくヒゲや体表にも存在していて味覚と臭覚の違いは人間とはちょっと違うように思います。

 

(註5)餌が海の中の生き物に限らず、陸上、空中の生物である事もありますが、これにも「地球魚」用のルアー・フライは十分対応しています。

 陸上生物であるカエルやネズミをモチーフにしたルアー・フライは枚挙にいとまなく、空中の生物である鳥や昆虫についてもご存知のとおり良く対応しています。

 

(註6)今思いつく工夫としては、餌からハリを離した位置に配置して体などに引っかける方法や、ガーパイクの首根っこを縛り上げて捕らえるのに使う輪になった罠のような仕掛け、それから宇宙魚の体に引っ掛かる部分があればカニ網のようにからめ捕る方法などがあります。

 話それますが、カンブリア紀に海の生物種数が爆発的に増えたという生物学的に面白い現象があり、そのとき現れた奇想天外な海の生き物が映像で紹介されているのを見たとき、思わずどうやって釣るかを考えてしまいました。アノマロカリスのあのエビのしっぽのような独特な捕食器官、円形の口に対応してどんなハリを使いどういう仕掛けを工夫すべきか?

 

(註7)実際に固体の金属を体に有する生物として、硫化鉄製の金属の鱗で殻から出ている足の部分を防御している巻貝、スケーリーフットが海の底の硫化物を吹き出す熱水噴出口の周りで発見されました。生物が金属で装甲をつくるなど、まるでSFの世界の出来事です。驚きました。ちなみにこの貝の鱗は普通の海水中では錆びるという鉄ならではの弱点があるそうで大笑い。生息環境は還元的な場所なので錆びないのだとか。

 

(註8)砂の海なり土の海は考えてみれば地球上にもあるわけで、そういう「海」(既に絶対に海ではありませんが強引に進めましょう)に住む生き物を釣ることができるのかというと、やはり「海」の中で餌をとるモグラのような生き物を釣ることはできませんが、水面(地面)の餌を捕食する海中(地中)の生き物は釣ることが可能だと思います。実際に、土に穴を掘って棲み穴のそばを通りがかった昆虫などを食べているハンミョウの幼虫を草のくきなどを使って釣る、「ハンミョウ釣り」という遊びがあると聞いたことがあります。今ネットで「ハンミョウ釣り」で検索してみたら結構ヒットしました。

 なかなか面白そうな釣りですね。

 

(註9)なんと私、魚をかけた後に地中にもぐり込まれた経験あります。水中のさらに砂底に潜ることができる魚でダイナンウミヘビというハモを細長くしたような魚がいるのですが、こいつをかけた後寄せてきて写真を撮ろうとしていたらシッポから砂に潜り始めました。貴重な体験でした。ちなみにダイナンウミヘビの尾びれの先にはいわゆる鰭が無く肉質で、シッポから砂に潜るスペシャリストとしての適応ぶりに感心しました。

ダイナンウミヘビ(もぐろうとするダイナンウミヘビ)

 

(註10)「海の釣りではない!」というつっこみが聞こえそうですが、もう、今回の文章では海の概念はドロドロに溶けて混ざって広がったと理解してください。

 

(註11)とはいえ、実際にはもうちょっとライトなタックルでも釣りになりますが、それでもシイラタックル程度は必要です。海の1mをかるく超える回遊魚を釣るタックルで、最大でも1m強のライギョを釣るというのはやはり異世界での釣りならではということでしょう。

 

(註12)胸びれをつかって器用な泳ぎをする魚としては、ベラの仲間も思い浮かびます。ベラの仲間は珊瑚礁や岩礁域に棲んでいて狭い隙間を出たり入ったりするのでやはり器用な泳ぎが必要なのでしょう。今度水族館に行ったら観察してみてください。

 

(註13)ライギョと書いてますが、基本的にカムルチーを釣って得た知識を基に書いています。でももう一種のライギョであるライヒーも基本的は似た生態と外見を持っているのでライギョとしてまとめて読んでもらってもかまわないと思います。 

 

(2008.5)  

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