○ヤ行 −ナマジの釣魚大全−

 

○ヤマブキベラ

 沖縄など、南の島の珊瑚礁でスプーンやらを投げて、色とりどりの魚たちと戯れていると、結構ベラの仲間もルアーにアタックしてくる。その代表格がこのヤマブキベラやハコベラである。いるところには固まっているのか、1尾釣れると同じ場所で何匹か釣れる。

 ベラの仲間は美しくいかにも熱帯魚というカラフルな種が多いが、中でもこのヤマブキベラは美しいといってよいのではないだろうか、雄は緑から黄色の体に、顔や尾びれにピンクの隈取りがあり、尾びれの先も伸長してなかなかにオシャレだ。

 こういう美しい魚が釣れてくると、南の島のパラダイス気分も盛り上がるというものだ。

 南の島の珊瑚礁でのルアーフライを使っての中小物釣りでは、こつが一つだけある。干潮時の潮が引いている時間を狙うということだ。陸っぱりだとそもそも干潮時以外は珊瑚礁のラグーンにジャブジャブと入っていくことはできない。カヤックや船を使う場合も、潮が満ちていて魚が潜んでいるサンゴのあたりまで深さがあると、よほど重いルアーを使わない限り魚にアピールできる深さまでルアーが届かずバイトしてこない。深い水深の珊瑚礁を狙うと根掛かりも多くやりにくい。干潮時であれば、実際にサンゴの状況を透明度の高い海水を通じて目視しながら、珊瑚礁のスリットやサンゴの脇をルアーを通してこれる。サンゴの少し上に海水がかぶっているような状況なら、その上をルアーを引いてくるだけで下のサンゴから魚が飛び出してくる。

 せっかく南の島まで行ったなら大物狙いに徹したいと思う釣り人も多いと思うが、こういう小物釣りには、小物ならではの楽しさがあるので、わざわざカヤック送り込んでまで狙ったりするのである。

 

○ヤマメ

 サクラマスの陸封型、というよりはヤマメの降海型がサクラマスというのが普通の釣り人の感覚か。渓流釣りの代表的なターゲットで、当方が今更説明するのもどうかというぐらいに釣り人には親しまれている魚。

 同じ河川では上流部にイワナ、その次にヤマメと棲み分けていることが多く、確かに山深くの支流にはイワナしかいないことが多いが、最近はどちらも放流できるヤマメ域に漁協が両種を放流しているという事情もあり、ヤマメ域にもイワナは結構いる。

 ヤマメと亜種であるアマゴの見分けが難しい、というと意外に思うだろうか。朱点のないアマゴがいた場合、どうやって見分けます?そして朱点のほとんどないアマゴの事例は実際に知られていてイワメなんて呼ばれていたりする。血液とかの違いもあるようだけど、DNA鑑定無しでは朱点がないようなアマゴは産地から推定するぐらいしか判別方法がない。でもヤマメ域へのアマゴの放流やその逆も少ないながら行われたらしく、アマゴ生息地で朱点の認められない謎の魚が釣れてきた場合、それは無斑のアマゴか放流等で持ち込まれたヤマメなのか、交雑個体なのか、漁協への聞き取りやら識者への照会・同定依頼無しに特定は無理だろう。ヤマメの亜種の問題にはビワマスという亜種もいるのでこれも難しい、琵琶湖水系で朱点のあるアマゴっぽいのが釣れてきたら、眼経やら鱗や幽門垂数えるしか同定するにはないのだろう。

 ついでに言っておくと、別種であるヤマメとニジマスも結構難しい。典型的な個体ではニジマスはその背びれまで分布する黒点という特徴よりも、顔が丸くて幼い感じがするので多少渓流をやった人間なら判別はすぐ着く。しかしこれが双方、河口域や湖で銀毛になっているような場合、東北だとさらに養殖用種苗のギンザケ稚魚の脱走組が混じったりして、3種混合で釣れてくると、思いっきり自信が揺らぐ。タイヘイヨウサケ属の稚魚と銀毛個体はじつはプロでも結構手こずる難易度高い同定になるのである。最終的には黒点、プロポーション等を見たうえで歯でみるしかないようだ。

 震災で被災した養殖場から逸散したギンザケが、秋に東北の各河川に遡上したようだが、禁漁近くの9月あたりには結構釣れたようで、多くの釣り人は「サクラマス」と勘違いしたようだ。9月にはサクラマスならすっかり婚姻色で桜色と言うよりは朱に染まっているはずなので、知識があればすぐ逃げたギンザケだと分かるはずだが、見た目は春先の銀化したサクラマスと酷似しておりなかなか双方並べでもしない限り分からないだろう。北洋もののギンザケのようにデカく尾丙が太くは無かったようである。

 ロシアでの釣果で、結構デカデカとサクラマス(シーマ)としてカラフトマス(ゴルブシャ)の婚姻色出ていない銀化個体が紹介されている釣りの本を見たことがある。案外釣り人、知っているようで知らないものである。色や模様は銀化すると分からなくなることからも明らかなように、意外に当てにならない。日本でもっとも信頼すべき東海大学出版社の「日本産魚類検索」が、カラーではなく白黒の描写なのもむべなるかな。婚姻色など典型的な体色の情報は決定的な同定の決め手ともなり得るが、色は結構多様性に富み裏切られるパターンがあるということを肝に銘じておいた方がよい。

 ヤマメとニジマスが似ているのは、ヤマメ(サクラマス)がニジマス型の原始タイヘイヨウサケから日本海に適応して別れた、最初の進化の枝分かれで分かれた種だからかもしれない。その後母川から遠く北へ回遊するような、いわゆるサケといって頭に浮かぶ仲間が分化していったというのがタイヘイヨウサケ属の進化の歴史のようだ。

 遺伝的な距離を測ると、原始的なタイヘイヨウサケ属と考えられる「ニジマス」から、「サクラマス」、「ギンザケ・マスノスケ」、「ベニザケ」、「カラフトマス・サケと」並ぶ。形態的な特徴が結構共通するマスノスケとカラフトマスがちょっと離れているのは意外な気がするが、形態的な特徴は変化しやすく遺伝子情報ほどにはその血統を表してはいないということを表しているのだろうか。

 ヤマメというようななじみ深い魚にも、最近になってやっと分かってきたような事実は結構あって、これからも新たな謎が解き明かされていくことだと思われる。

 遺伝情報の解析手法は、進化の謎に切り込むにはかなりの効力ををもったツールなのでこれからもいろんな生物で面白い報告が続くと期待できる。

 

○ヤミハタ

 珊瑚礁のルアーフライでの小物釣りで、ハタの仲間ではイシミーバイことカンモンハタが一番多い、次が赤いハタであるニジハタ、アカハタ、ヤミハタでアカハタはちょっと深くにいて、GT狙いの合間に船の下をジグで狙ったりすると釣れてくる、ニジハタはシッポに特徴的な白いラインが上下2本入るので見分けやすい。パラオで赤黒くてあまり特徴もないハタが釣れてきて、なんだろうこれと思っていたら、ダイビングのガイドもやるガイドのKさんが「ヤミハタですね」と教えてくれた。体型はマハタに似ていてアカ黒い感じのハタ。

 

○ヤリタナゴ

 オオタナゴが優占種の霞ヶ浦のような事例を除くと、タナゴ釣りでもっとも普通な獲物ではないだろうか。

 九州でも、四国でも関東でも釣った。バラタナゴ系やカネヒラに比べるとスマートな体型。婚姻色が出ていないと一見ギンブナのよう。でもヒゲも生えているし見間違えるほどではない。

 婚姻色の出た雄は実に美しい。体側は薄く緑色に染まり、背びれ臀びれのエッジは幅広くオレンジ色が発色し、なかなか日本の地味なコイ科魚軍団の中においては艶っぽい色をしている。

 タナゴ類はご存じのようにドブガイなどイシガイ科の二枚貝に産卵する。ドブガイなどはハゼ類などの体表に幼生を寄生させて分布を広げる。タナゴがいるということは、即、二枚貝とハゼ類などがいる豊かな生物群集の存在の証明である。そう思うからこそ、そういう豊かな生物群集が存在し得る自然環境に囲まれながらだからこそ、タナゴ釣りはいつも楽しいのだと思う。

 

○ユカタハタ

 トカラ列島、船中泊でジギングアンドGTキャスティングツアーに正治さんと参加したのはもう10年前の今は昔か。ロウニンアジは船中一発もバイト無く、ジギングは結構デカイのが、ツアー参加者のリールのドラグをならすが、根ずれやら歯できられたりで中々あがらない。当方には、手に負えないほどの引きでもないが、そこそこ引く獲物がかかってくれて、ペンの太いグラス竿に9500ssというヘビーなタックルでもあり、これは獲れるぞラッキーだと思っていたら、まさか切れるまいと思っていた、フックをジグに接続するのに使っていた太いケブラーラインが歯で切れた。イソマグロかサメだと思うが、あいつらの歯には、防刃チョッキに使われるケブラー繊維でもダメだと明確に思い知らされた。単線ワイヤー等の耐摩耗性に優れた金属系しかダメだ。

 そういうショッパイ釣行において、200gのデカいジグに食ってきてくれたのがこのユカタハタ。オレンジのボディーに青いドット。派手な南国風の見た目だが正治さん曰く「ハタの仲間だけあって旨い。皮もおいしい。」とのことだったので、メンタマ飛び出たおかずサイズのこの魚はキープして食べた。確かにおいしかった。他のハタ類と遜色ない。皮もちょっと毒々しいまでの美しさだけどぷりぷりクニャクニャして旨い。

 よく、南の魚は色が毒々しくて脂ののりもなく美味しくないという意見を聞くが、それはギトッと脂ののっている魚を食べ慣れている関東以北の人で食べ物に保守的な人に多い味覚なのではないかと思う。寒のアイナメの皮目にじんわりと乗るような脂にこそ親しみとおいしさを感じる関西系の当方のような人間には、南の島の魚、おおいに美味しい魚がいると感じている。

 そもそも、魚の皮やら内臓やらの旨さも知っているような、正治さんのような何でもこいの「魚食い」にとっては、南に行けば南の美味しい魚があり、北に行けば北の美味しい魚がいるというのがしごく当たり前だと思っているはず。うちの港の魚が一番だというお国自慢は微笑ましいし、そう言って出された魚は「最高だ!」と美味しく食べるのが礼儀だと思うが、情報に踊らされて変なレッテルを張って、旨い魚を食い逃している人には哀れみを感じる。

 

○ヨコシマサワラ

 南の島で、ロウニンアジ狙いでポッパー投げていると、ルアーのあたりで細長い魚が空中にはじけてくるくる回るような感じで飛んでいることがある。ルアーにアタックした直後に違和感感じてジャンプしているのだが、普通はその時点でハリがかりせずにバレてしまう。しかしこれが、上手いことフッキングしてリーダーが凶暴な歯にかからずに切れずに済むと、ジャンプが収まった直後に鋭いダッシュが始まる。水面直下を走るのでファイトはロウニンアジほど難しくないが、スピードは素晴らしくドラグの逆転音が怖いくらい。最初はこんなの寄せてこれるのか?と不安になる引きを見せるが、細い魚のつねで、頭がこっちに向くとするすると寄ってくる。船上にあげてもそのびっしりと並んでいる鋭い歯が危ない雰囲気を放っている。いかにも魚食魚らしい格好いい魚だ。個人的にはかなり好きな魚である。

 パラオとグレートバリアリーフで良いサイズのを釣ったが、この魚、もっとでかくなるようで2mオーバーとかに成長するようだ。なぜか英語ではスペインサバ「スパニッシュマッカレル」と呼ばれている。

 旨い魚でグレートバリアリーフでは刺身になって船中泊の夕食になった。フィジーではココナツ風味のフィジアン風刺身料理「ココンダ」になった。サワラと遜色ない味ではないだろうかと思う。

 ジャンプ、スピード、味も良しと3拍子そろったナイスなヤツなのである。2mはちょと食べるには多すぎるが、そんときゃリリースするとしてそんな大型一度釣ってみたいものである。

 

 

(2012.5)

 

 

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