○都会の釣り

  手つかずの大自然の中で行う釣りにはもちろん魅力を感じますが、なぜか私は都会の虐げられたような自然の中で、それでもしたたかに生きている魚を釣るのにもかなりの魅力を感じます。

 

 初めて湾奥の工業地帯の夜の運河にメバルやシーバスを求めてボートを出してもらったとき、工場の煙突からはゴーゴー炎が出ていて異臭が漂い(註1)、桟橋にはパイプラインが配管されていて、排水溝からは冷却水でしょうか湯気をたてて排水が流れ出しており(註2)、企業の看板は煌々とライトアップされ一種異様な近未来のような風景でした。

 しかしそんな異様な風景の中でも、温排水やライトアップの明かりには餌となる小魚やプランクトンが集まるのでしょうか、シーバスやメバルは意外なくらいにたくさん釣れました。

 人の目にはSFの世界のように異様に映る工業地帯であろうと、その水域に生き物が生きていくだけの条件が保たれていれば、魚たちはたくましく、むしろ当然のこととして生きていることを知り非常に面白く感じました。

 

 そういうわけで面白そうな都会ならではの釣りについても機会があればチャレンジしてきました。また都会ならではの妖しい釣り場の話もあわせていくつかご紹介します。

 

<神田川>

 東京湾にはたくさんの河川が流れ込んでいます。その中でも都会のど真ん中を流れるのは歌でも有名な神田川。中野のあたりから早稲田、神田を通って浅草のあたりで隅田川に合流します。

 オフィスビル街や繁華街の間を流れるこの川にでかいコイがいて、高い護岸の上からチクワだのお握りだの残飯系の餌をつかって釣りする人間もいることは以前から聞いていました。

 何度か神田のあたりで様子をうかがったのですが、どうもつれそうな雰囲気を感じないので手を出さないでいたのですが、この冬、意を決して釣ってきました。

 顛末記にも書いてますが、自転車でかなり上流から延々と川沿いに下りながら魚をさがし、高速道路が上を通るようなこれまた近未来SF的なポイントでコイを発見。

高速道路(ポイント付近の風景)

 フライで釣るつもりだったので、バックがビルとビルの間になるような位置に釣り座を決め、パンを撒いてコイが寄ってくるのを待つ。餌がもらえると思って喜んでやってきたコイを綿と発泡スチロールで作ったパンフライでだまくらかして釣ってしまうという情け容赦のない釣法であります。

 流れの下手から、やってきたコイがパンを見付けて食い始める。フライをキャストするが足場がかなり高いので手前に垂れてしまって届かない。気を取り直してかなり遠目にキャストしてちょうど良いぐらいのところにフライを落とす。

 しばらく流していたら食いました。フッキングも決まってファイトするのですが、足場が高くて遠いのでイマイチ引きは味わえませんでした。寄せてきて落としダモを落としてネットに誘導。まるでマリオネット使いのような状態。

 ここまではまあ良かったのですが、足場が高いので持ち上げるのにえらい苦労してホトホト疲れました。

神田川のコイ(神田川のコイ)

 初めての場所だったので楽しんで釣りましたが、もう一度やれといわれたらちょっと微妙。

注:神田川で釣りをしていたところ文京区職員に釣りをするなと追い払われたとの情報があり、現在、文京区に質問の文書を送り詳細を確認中です。

 詳しくは→ 神田川(文京区)における「魚釣り」に関する公開質問及び提案

 

<遡上するマルタ>

 多摩川が一時の汚れきった状態から回復して、最近はアユなんかも登ってくるようになり、季節には魚道を登っていくアユの映像などがニュースでも見られるようになりました。

 アユの他にも河口付近の東京湾から多摩川を遡上してくる魚がいてその代表がマルタです。マルタはウグイの仲間で婚姻色が出ないとほとんどウグイと見分けがつかないほどのそっくりさんです(註3)。

 東京湾とそこに流れ込む川の水の多くは栄養いっぱい(富栄養化ともいう)なので、河口付近の泥も栄養いっぱいで、泥ごと有機物を食べるボラやゴカイのたぐいなどが大量にいます。さらに、ゴカイなど小動物が増えればそれを食べる魚も増えて当然で、マルタやシーバスなんかもたくさんいます。

 そのマルタが、大量に多摩川に遡上してきて、綺麗な砂利底を探して産卵する時期が3月から4月ぐらいで、最近はこのマルタをフライやルアーで狙うのが一つのジャンルになっています。

 春の訪れを感じつつ、綺麗になっていく多摩川を実感しながら、東京湾まで含んだ生物たちと自然の営みに思いをはせながらの釣りはなかなか趣があって良いものです。

 通常釣りの世界では「外道」扱いのマルタが脚光を浴びているのも「外道」好きの私としては胸のすく思いです(註4)。

 しかし、このマルタ釣り、結構難しくて春になると思い出したように1,2回行く程度ではなかなか釣り方のキモとかが掴めず苦戦します。

 産卵場所にはたくさん集まっているので、そこを流せばスレで結構かかってくるのですが、ちゃんと食わせるのはなかなか難しいです。今年はしっかりスカ食いました。写真は去年だかのものです。

マルタ(マルタ何とか釣りました)

 良い釣り場はきまっていて、朝から入れ替わり立ち替わり攻められるのでスレてくるのも口を使わない原因の一つだろうと、今年は秘策を用意しました。顛末記にも書きましたが、ウグイがコケなどがついていない比較的綺麗な砂利底を産卵場所として選ぶことを利用して、砂利底を耕耘して産卵場所を作ってウグイの群れを呼び込んで網を打つ漁法があるのですが、その漁法を応用して、シャベルを釣り場に持って行って砂利をほじくり返し、マルタを呼び込む産卵場所をつくろうというという作戦です。

 まあ、初回は見事に失敗しました。シャベルでは水中で作業がしにくいし、場所の選定ももっと考えなければいけないでしょう。来年以降の課題です。多摩川と東京湾が綺麗になっていく限りあわてる必要はないでしょう。

 

 

<レンギョ>

 「東京青魚生活」という、江戸川で1.5mを超える巨大なコイ科魚アオウオを狙う方が書いたとても面白い釣りの本が出ています。

 都会の中を流れる江戸川で巨大な魚が釣れる意外性とロマンを感じさせてくれます。

 当然、この本を読むとアオウオを釣りたくなるのですが、私も永いこと釣りやってますから、アオウオがそんなおいそれと簡単に釣れる魚ではないこと、ハッキリ言って私のようなヘタクソには釣れる魚ではないことは悲しいかなわかってしまいます(註5)。

 しかし、本にも紹介されていますが、レンギョは数が多く磯竿使用でパワーアップしたヘラブナ仕掛けのような仕掛けで狙うと結構釣れるようです。

 ではいっちょやっておこうということになり、江戸川水系に狙いに行きました。

 場所は、町中を流れる水路が江戸川に合流する水門。水門前の江戸川ではたまにドッパンと跳ねているレンギョも見えていかにも釣れそう。

 しかし、シーバスロッドに磯用の浮き付けて、ヘラブナ用の練り餌つくってぶち込むも、なかなか釣れない。他にもレンギョ狙いの人がいたが釣れていない。

 同居人と一緒に釣っていましたが、同居人飽きて散歩に行ったらポイント見つけて帰ってきました。エラい!

 水門の町側、つまり町を流れる水路というかドブの、排水が流れ出す土管の下になにやら頭の丸くてでかい魚が群れています。レンギョです。ボラのような魚もいます。

 早速、釣り始めると、レンギョの補食の様子がよく見えました。彼らはプランクトン食で水中のプランクトンをこし取って食べている魚です。練り餌もぱっくりと食わずに溶けて流れてくる粒子をぱくぱく吸い込んでいます。

 ボラは快調に釣れるのですが、レンギョはたまにハリが吸い込まれてもあわせ損なったりして結構苦戦しました。

 やっとかけて釣ったのが、このレンギョ。

レンギョ(レンギョ)

 道行く人が、「ここで魚釣ってるのはじめてみた。」と驚いていました。まあそうでしょう、普段自分が住んでいる町のドブでちょっと目の離れた妖しげな魚釣っている人がいたら普通の人は驚くでしょう。

 このドブには結構コイもいて釣れました。同居人も人んちの前で記念写真とってたりしますが、家の人から見たら極めて怪しい人ですね。

コイと同居人(ひとんち(病院)の玄関先でなにやってんだか)

 都会のドブでも魚は釣れます。必要なのは釣る気とちょっとした勇気ですかね。

 

 

<火力発電所温排水の地雷>

 東京湾の超有名ポイントなので、「火力発電所」と「地雷」だけで、ピンと来る人もおられるでしょう。

 河口の干潟エリアに火発からの温排水が流れ込んでいて、シーバス、黒鯛等々を狙った釣り人が干潮時にウェーディングしています。

 しかしここはウェーディングする釣り人にとっては危険地帯としても有名。「生きた地雷」こと、アカエイが数多く生息しており、干潟にはアカエイ型のくぼみがあちこちにできていて不気味です。アカエイは温排水が好きなのか、ここ以外にも東京湾のあちこちにある温排水の排出されているところには必ずといって良いほど出没しますが、ここは特に魚影が濃いように感じます。

 シーバス狙っていると、いきなりものすごい重量感で走り出し、「ランカーシーバスか!」と色めき立つモノの、しばらくするとぴくりとも動かなくなりラインを引いてもゆるめても全く動かないので根がかったのかと近づいて確認に行くと、ルアーが背中に引っ掛かったアカエイが砂に半分潜っているということもあります。

 ご存知のように、しっぽのとげは鋭く有毒であまり近づくのはおっかないので、アカエイにも申し訳ないですが、泣く泣くラインを切らなければなりません。

 釣り人が多いわりに、シーバスたいして釣れるわけでもなく、あまり触手が動かないポイントでありますが、逆にアカエイ釣ればいいじゃないか?と考えると、俄然有望ポイントになります。

 シーバス狙いに飽きたあたりで、ぶっ込み釣りに変えてガルプの臭いワームでもぶち込んどきゃ食うだろという、ゆるい作戦で望みました。シーバス狙いの時点でスレ掛かりでなかなかサイズを引っかけたことからもそれなりに魚はいるはずですが、アカエイ狙いの仕掛けには食ってきませんでした。

アカエイ(スレでかかると重い重い)

 たくさんいるというのと、餌食ってきて釣れるというのは違うのか、ガルプのカニワームのイカ臭さはお気に召さなかったのか。いずれにせよもう少し努力が必要なようでした。

 上手く釣れば、10キロ超えるような大物とのファイトは魅力的だと思うのですが、どなたかアカエイを狙って釣る方法に詳しいかたおられたらご教授願います。

 

 

<ポイントH>

 そのポイントは東京湾湾奥のとある水辺の公園、私のお気に入りのシーバスポイントの一つで、釣果がそこそこ安定しているのと、風に強いのが魅力。

 しかし実はこのポイントには秘密が・・・

 通い始めた当初は特に気づかなかったのですが、何度か通ううちにあることに気が付きました。

 散歩している人が妙に多い。

 夕まずめの明るいうちならともかく、暗くなって街灯の明かりしかない時間になっても、ウロウロしている人が多く、近所にそれほど大きな住宅街もないのになぜそんなに人がうろついているのかちょっと不思議でした。しかも、年齢もファッションもバラバラで全然傾向が見られず何をしに来ているのか皆目見当が付きません。唯一の共通点といえばみんな男性だということでしょうか。

 しかしその疑問は、ある日暗い木立の間に手を繋いできえていく男性二人の後ろ姿をみて解けました。

 

 「この公園、ホモの人のハッテンバやったんや!!」(註6)

 

 それ以来、私の仲間内ではその場所は「ホモホモポイント」と呼ばれるようになり、暗闇でシーバス釣りをしていて背後に人の気配を感じるとちょっとビビるようになりました。がしかし、彼らも釣り人に対しては興味がないようで、竿を持っているのが分かると近寄ってはきませんでいた。

 私自身はホモセクシュアルではありませんが、別にホモの人たちに危害を加えられたこともないし、公園はまさにみんなの場所ですから、お互い迷惑かけずに大いに趣味を楽しめばいいやと考えておりました。

 

 しかしながら、その平和な「釣り人」、「ホモ」間の暗黙の紳士協定が破られる日が来てしまいました。

 それはある初夏の日のことでした。明るいうちから、いつもにもましてうろつく男達が多く、仲良くなったメンズ同士で携帯の番号の交換などしている様子がうかがえます。中には透け透けアミアミのタンクトップで乳首もあらわにランニングしている引き締まったボデーのガイもいます。

 日が暮れて、夜になるとお祭り騒ぎはさらにヒートアップ、タンクトップの兄さんは短パンを尻に食い込ませてTバック状態にバージョンアップ。さらには全裸で走り回ってる腹の出たオッサンはいるわ、ベンチで思いっきり体をまさぐり合いながらムチューッとしているカップル(メンズ同士)やら、灌木の茂みからはちょっと書きにくいことをしていらっしゃられるのではないかと思われる声も聞こえてきて、正直ビビリまくり。

 

 何らかの告知があって、ホモの人々のイベントかなんかがあったのかもしれませんが、いくらなんでもやりすぎです。公共の場で全裸とかはまずいッスよ兄貴−!

 

 ということで、その後公園入り口付近にはこんな看板が立ってしまいました。

「NO!裸」看板(公園ではマナーが大事です)

 そのせいかどうか知りませんが、ホモホモポイントには以前の静寂が訪れ、釣り人は静かに釣りをし、ホモカップル達も人目を忍んで愛を育んでいるようです。

 

 銀座や六本木のネオンだけが東京の夜ではありません、東京は釣り人にもホモの人にもエキサイティングでちょっとスリリングな妖しい夜を経験させてくれるのです。

 

 

<あとがき>

 最初の勤務地が東京で、東京に住むことが決まったとき、「地方勤務に回してもらえなかったら仕事やめよう。」と悲壮な覚悟で上京してきましたが、予想外に東京湾のシーバス釣りは面白いし、多摩川でコイ釣るのとかも楽しいし、ちょっと房総方面とかに足伸ばせば田舎の自然も楽しめるし、遠征行くには空港は近いし、釣具屋はでかいしということで、しばらくすると「住めば都」とかいう言葉が頭に浮かぶようになりました。まあ、東京は私が住もうが住むまいが日本の都なんですが。

  実家のある東海地方、勤務先の東北や九州、いずれも楽しく釣りできましたが、東京でも楽しい釣りが出来ているような気がします。水があり魚がいればどこに住んでいたってなんとかなるもんだと思っています。

 

 

 

(註1)都市伝説かもしれませんが、工場の煙突は人があまり活動しない夜になると盛大に炎と煙を吐き出すと聞いたことがあります。ガスを処理するために燃やしている炎だと思いますが、夜見ると独特のグロテスクな美しさがあります。

(註2)最近は工場や発電所から出る温排水も熱交換器の性能が上がっていて温度が下がっており、昔なら寒い時期に良いポイントになった温排水溝がいまいち釣れないという話を耳にしました。基本的には環境への負荷が軽減されたということだと思いますので歓迎すべきことでしょう。技術革新などの社会の情勢も釣りに関係したりしてきます。

(註3)マルタの婚姻色は黒ベースに体側やや腹側にオレンジのラインが1本、ウグイの婚姻色は黒ベースにオレンジのラインは同じですが、体側の黒ベースのところに薄いオレンジのラインが入って黒い帯が二股に分かれているように見えるので区別がつきます。婚姻色がハッキリ出ていると黒とオレンジのコントラストはなかなかに味わいのある配色で綺麗です。

(註4)外道ってナニ?私は全ての魚を釣りの対象だと思っているのでどんな魚を釣っても「外道」という感覚はあまりありません。狙った魚種以外の魚が釣れるとちょっと残念なときもありますが、それでもなにも釣れないよりはずいぶん救われるし、いろんな魚が釣れた方が楽しいじゃないかぐらいに思っています。

 一般的に「外道」扱いされているような魚でも、その魚のことを知ればだんだん好きになって「本命」になると思います。

 ということで私は普通の釣り人からみれば変な魚を一生懸命狙っていたりするので「外道好き」とみられているようです。狙っている魚が釣れないという点からも「外道好き」とみられていたりしてます。ちょっと屈辱のニオイ。

(註5)もちろん釣りに0%は無いですから、偶然釣れる可能性は0ではありませんが、狙って釣れるところまで他の釣りもしながらではたどり着けないということです。

(註6)「発展場」。恋が発展する場所の意か。一般にホモセクシュアルの人の社交場となっている特定の場所をいう。ネットの無かった時代、ホモの人のような性的マイノリティーの人々がパートナーを捜すのは大変だったようで、ハッテンバは彼らの出会いの場としてその筋の人間には知られていたようです。普通ハッテンバとしてはホモ映画を上映する映画館とかが多かったとか。

 

 

(2008.4) 

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