ミッション・ポッシブル ーホンコンオイカワ大作戦ー

(香港遠征:2014.5.3〜5.6)  

 

ホンコンオイカワ雄追星  

 

 「WEB」あるいは「ウェブ」といえば、今時の日本ではインターネットのWWW(ワールドワイドウェブ)のことを指す言葉として使われているが、元々の意味は「蜘蛛の巣」や「蜘蛛の巣状のモノ」を意味しているそうで、規則正しい網よりももっとグチャグチャと繋がっている状態を表しているようである。

 コンピューターは単体では人間の脳の機能と相似した機械で、それらを繋ぎまくったWWWは、非常に複雑に絡み合った情報というものの現実での存在の仕方とやっぱり相似した代物だと私は感じている。

 何が言いたいかというと、現実の情報、私の大好きな魚の知識から、大嫌いな政治・経済の歴史やニュースまで、この世にある森羅万象はグチャグチャと複雑に絡み合っていて、インターネットでWWWに繋がっている情報は現実よりは量的に少なくシンプルだけど、パソコンを個人と例えられるような似たような構造が、シンプルなだけに明確に見えるように感じるときがあって、パソコンとインターネットのWWWとの関係から、私と世界の森羅万象との関係が見えてくるような気がする。もっと言うと、過去や未来も含め情報だけでなく人や物ともグチャグチャと絡まっている、その絡まった関係の中から、蜘蛛の糸を伝ってカンダタじゃなくて、面白い話や人や釣りや魚が昇ってくるというのを最近感じるのである。

 今回の旅もそういう蜘蛛の糸で釣ったような、そんな魚をはじめとした諸々のお話しである。

 何をいきなりワケの分からんことをほざき始めたのかといぶかるかもしれないが、読んでいただければ何となく何が言いたかったのか分かるようにこれから書いていきたい。

 

 なぜ香港でオイカワなのか、「香港」のきっかけは昨年の「香港顛末記」を読んでもらうことにして割愛して、「なぜにオイカワ?」という話だが、昨年の香港遠征に行く前に、職場のS先輩と昼飯食ってるときに、「香港にはオイカワのちょっと顔が違うヤツが確か2種類ぐらいいるから、ついでに釣ってこいよ。」と言われたのが心の隅に引っ掛かって、暇があったら釣ったろうとのべ竿仕掛けを持ち込んで行ったものの、前回は本命のアフリカンクララのポイントを集中して釣っていて、オイカワいそうなホテル裏の川には、見えてるのにたどり着けず、というような話を書いたのを読んだMABOさんが、「子供を連れて川遊びに行くポイントがあってそこならたぶんオイカワ釣れますよ」という情報をくれて、じゃあ次回香港釣行時には私オイカワを狙います。てなことをやりとりしていたところ、年明けたあたりから、なぜか村田さん、ハマさん、MABOさん、鈴木さんらの香港・深セン釣り人チームに香港オイカワ生息地を探す「オイカワクエスト」が空前の盛り上がりを見せ、香港の河川を片っ端からチェックして、早々に1種それらしいのをゲット、その後もう一種明らかに日本のオイカワに似た「ホンコンオイカワ」がいるらしいことを香港の研究機関のサイト情報等から突き止め、ハマさんなど寝られないぐらいに夢中になった、まさに「クエスト(探求)」状態だったようである。

 その後無事ホンコンオイカワの生息地も確認できて一件落着。とはならず、香港の河川を楽しむ、他の魚種もタナゴ仕掛けで釣っちゃう、そしてタナゴも探しちゃうという、オイカワクエストの過程で派生的に生じてきた楽しみを、それぞれ海のルアーフライやらエギングやらクララやターポンやらという「本職」的な釣りと並行して、香港の内水面の小物釣りも引き続き楽しんでいて、それはますます熱をおびてきているような雰囲気なのである。

 そのあたりの経緯は村田さん、ハマさんのブログを見てもらうと、動画も作ってたりしてなかなか楽しい様子が見て取れる。村田さん制作の動画には私がクエストを指令する黒幕として登場したりして笑わせてもらった。

  国境際の釣り師達 村田さんのブログ 

 Lefty Hama's in action  ハマさんのブログ

 今回の釣行では、そのあたりの楽しみっプリを直に聞いて、見て、体験して、あらためてそういう釣りの楽しみ方をもっと広く紹介したいと思っていた。

 小物でも、釣りの対象に深く突っ込んで、加えて周りの自然や仲間との楽しみを共有してという釣りが、極めて面白いということを証明する、自称「江戸前小物釣り師」の海外武者修行であると気合いを入れて香港に乗り込んだ。

 

 と書くと、気力充実、体調万全、準備おさおさ怠りなくという感じに読めるかもだが、実際には、気合いは入っていたけど、結構ヨレヨレの状態だった。

 年明けてからこちら、体調がイマイチ安定せず、ちょくちょく寝込んだりしていて、今年は東京湾シーバスが不作の年で大苦戦していたこともあり、香港オイカワクエストについては「オレのおらんところでオモロイことしやがって!」的な悔しいやらうらやましいやらという思いをチョビッと感じていた。

 それでも、4月に入って、パッとはしないけどシーバスも釣れ始めて、遠征も近づくと、アドレナリンのなせるわざか、体調も回復、調子悪いときは仕事でも日常でも、頭の回転がグダグダで、典型的なのは固有名詞が出てこなくて「ほら、アレよアレ、アレをナニしとかんといかんのよ!」という感じで、全くナニをどうすればいいのか分からん状態。若い頃、親とかが同様の代名詞多発話法で話しているのを聞いて「アレとかソレで分かったら苦労せんワ!」と怒っていたモノだが、歳をくっていざ自分がそうなってみると、このもどかしさ、切ないモノであると同志オッサン連中ならわかっていただけるだろう。若い人もそのうちなります、順番です。

 という不調時の腐れ頭が、調子の悪いときのフリーズしがちなパソコンのような状態なら、好調時のキレキレの頭脳は、何というかイン○ル入ってるンじゃないかというような回転の良さで、記憶のハードディスクから固有名詞はじめ欲しい情報はすぐ出てくるし、脳内検索エンジンも快調なのか、一つのことに対していくつも関連した事項がヒットして一生役に立たないような眠っていた知識が湧いてきたりするし、目にした情報などを持っている情報と上手く関連づけられたりする。そういうオツムの好回転時にはいわゆる「意味のある偶然の一致」が結構生じてくるのがなんとなくお約束パターンのように感じる。

 特に釣りのことを四六時中考えている、遠征前とかは、その遠征に関する情報を関連づけてとらえやすくなっていて、今回も絶賛放映中の深夜アニメ「ジョジョの奇妙な冒険−スターダストクルセイダーズ−」で主人公達一行が飛行機墜落して香港に上陸するというシーンが出てきて「オレも小物釣り十字軍で香港上陸じゃ!」と気合いを入れたところである。意味のある偶然の一致はオカルト的な現象ではなく、頭の調子がいい時の情報の連鎖関連づけ的な現象だと思うのである。

 という感じで、気持ちはアゲアゲでいたのだが、悲しいかな体が直前にまたダウン。とりあえず行ってから体調整えつつやれるだけやるぜと、仕事も最低限の処理だけして、とにかく機上の人となってしまった。

 

(1日目)

 機上でとりあえずANAの機内誌「翼の王国」を読んでいたら、オイカワのエッセイがあって、映画を「007スカイフォール」をチョイスしたら、敵はMの香港時代の元部下で、いよいよ「ホンコンオイカワ」との意味のある偶然の一致が連発し始めたゾと、良い調子になってきたゾと、自分に暗示をかけていく。

オイカワイラスト 

 この、イラストのオイカワは日本のオイカワの典型的なカラーパターンを表していると思うんだけど、体側は青い模様がメインになっていることを心に留めておいて欲しい。

 ちなみに、スパイ映画は今回題名パロディーに使ったミッションインポッシブルより断然007シリーズが好みである。ロジャー・ムーアの爺臭いボンドが好きだけど、今のマッチョな雰囲気のダニエル・クレイグも格好いい。

 

 無事、香港着。ホテルは前回同様、ちょっと小汚い釣り人にはもったいないグレードのホテル。午後到着のフライトということで、日中の釣りであるホンコンオイカワ釣りにはちと時間が足りないので、初日は夕まずめアフリカンクララを狙いに行く予定としている。いい天気で早く釣りに行きたいが、熱さの中あまり早く行ってもチャンスの夕まずめまでに消耗しては仕方ないので、部屋で少し休んで体調回復させた後、電車とタクシー乗り継いで、自然歩道てくてく歩いて4時頃ポイントに到着。

 休日土曜とあってか、釣り人は結構いる。村田さんと現地集合なので適当にタックルセットして前回実績のスプーン「バイト」を投げつつ上流へ歩いて行く。

 今回ロッドはシーバス不調で今年あまり曲がっていないジャクソン・ブリストール8F、パックロッドなので旅のお供には好適。リールは前回同様4400SS。

 バイトにはたまにコンッという感じであたるが、フッキングには至らず。そうこうしているうちにいい感じに夕まずめ好時合いに突入。上流から村田さん登場。再会を喜びあう。

 やや上流に移動して、バイトとシュガペンをローテーションさせつつ、水面のヒレや呼吸を探して、その周辺を探っていく。バイトに明らかにコンッという手元に来るあたりと、アワと水面を揺らす動きが目につくがフッキングにいたらず。

 対岸のフロッグ投げてる兄ちゃんは、魚が見えているのか、フロッグが今日はビンゴなのか、投げる回数の割に食ってくる回数は多いようで思いっ切りあわせているのが見えるがフッキングしにくいようで苦戦していた。

 そうこうしているうちに、村田さんのシュガペンにも反応が出はじめ、当方もシュガペン9.5センチを投げる。結構うしろでボワンと食い損なうような反応がある。

 村田さんに待望のヒット。無事キャッチ。さすがという感じ。

村田さん 

 その後は、村田さんはほぼ反応良いポイントのリサーチに専従してくれて、当方は一番良いポイントでシュガペン投げ続ける。

 

 待望のヒット、そんなに大きくないなと思っていたら、今回もファーストヒットはハロワン(プラーチョン)だった。割と相性の良い魚なのかもしれない。

ハロワン

 暗くなって、水面の魚っけはいい感じなので引き続きシュガペン投げていると、バコン!っという感じで良い音立ててバイト。フッキングも決まってファイト。

ファイト

 割と柔らかめのシーバスロッドを曲げて、バシャバシャ首振ったりして暴れてくれる。寄せてきてもグネングネンと暴れる。バレてくれるなと祈りつつ、村田さんにハシゴを下りてもらってランディングしてもらう。めでたくキャッチである。

クララ85 

 85センチ。太め。さい先いい感じである。

 釣り場に鈴木さん登場。別の場所で小物釣り場開拓していたそうである。

 

 しばらく投げて、反応無いので帰りつつ適当に投げていると、遠目でまたヒット。底の障害物にからまれるが、何とか剥がしてファイト再会するが、途中であまり引かなくなる。

 あげてみると、エアコン室外機の網のようなモノに化けていた。「クララ釣りあるあるネタ」だそうである。リアフックがエイト管がもげて折れて無くなっていた。室外機の網にフロントフックがかかった状態でクララが暴れまわったので折れたようである。クララのような重量ある魚はシーバスルアー程度だとまず元からついているフックでは曲げられる。そのためにシングルフックに換えていたのだが、今度はエイト管がもたなかったようだ。

 

 まあ、とりあえず初日は村田さんの的確なサポートのおかげでいい感じのスタートが切れたこともあり、3人で夕食に。

 お腹の調子がイマイチだったので、私はお粥を頼む事にする。カエルのお粥というのがあったので迷わず所望。日本で食う冷凍物は今一だが、中国で食べる活けもののカエルはシャキシャキした弾力があって実にオツな味わい。

 3人で釣りの話やら、魚の話やらしながらの楽しい夕餉。

 鈴木さん今日リサーチかけたポイントではナナツボシなどゲットして、小さいライギョも確認できたとのこと。小さいライギョってひょっとして我が家にもいるコウタイとかが生息してるって事か?アジアの小型ライギョであるコウタイやドワーフスネークヘッドは渓流のような小河川にも住んでいて、いつかこいつらをフライで狙えないと漠然と考えていたけど、案外香港でやれるのかもしれない。

 この店は、生け簀に魚が泳いでいるんだけど、生きたアイゴを注文があるとオッサンが素手で無造作につかんで料理しているのにびびらされる。刺されたら超痛いのにと皆心配するが、オッサン平気な顔している。

 前回、アイゴ食べたけど中華風に蒸して熱した油をかけ回しているんだと思うけど、なかなかに美味しい。ハマさんもこの店のアイゴ料理のファンで夏にターポン釣った後はアイゴを肴に至福のビールを飲んでいるそうだ。

 楽しい夜は、いつまでも続きそうだが、明日は今回のメインターゲットホンコンオイカワ求めて、川を結構歩く予定である。適当なところで撤収。

 後で知ったことだが、村田さんはこの日、朝から香港入りして根魚ポイントチェックして、昼過ぎにはクララポイントで情報収集し、夕食後はまた根魚ポイントチェックしにいってカサゴゲットしたそうである。旺盛な「釣欲」に感服である。

 

 ホテルの部屋はオーシャンサイド。低い階層なので目の前木が邪魔だったりするが、香港の100万ドルの夜景の端っこのほうが堪能できた。

100万ドルの何分の一かの夜景

 明日はいよいよホンコンオイカワ挑戦である。興奮しつつも、初日から釣れてるし、いい塩梅に疲れてもいたので割とあっさり眠りについた。

1日目活躍タックル達

 

(2日目)

 2日目はいよいよ、今回の釣行の主目的である香港オイカワ狙いのために、ハマさんとMABOさんの案内で、香港の渓流、清流に分けいった。

 今回、航空券、ホテルの手配はケン一にお願いしたのだが、繁忙期で値下げ交渉は不調に終わったとのことだったが、朝食バイキングのオプションをゲットしてくれていた。結構歩く予定だったので、朝からガッチリ食って燃料補給したが、席に案内されて給仕が「ティーオアカーフィー(コーヒーか紅茶かいずれかを選択されよ)」とか聞いてくる割と高級な感じでちょっと緊張したが、なかなか美味しい点心だの粥だのイングリッシュブレックファーストなパンとベーコン目玉焼きだのをたらふく堪能した。

 

 香港のオイカワ系の魚は、どうも3種類いるようで1種はまさに日本のオイカワと学名一緒で同一種の扱いのZacco platypus だが、村田さん、ハマさんのブログの写真で見ても明らかに日本のオイカワとは顔が違うし、婚姻色のパターンも微妙に違う。同じ種でも地域によって個体差があって、それら違うタイプを繋ぐ中間型が存在する場合は、結局間に線が引けないので同一種とみなすというのが分類の基本ルールで、例えば犬というのはセントバーナードとチワワも含んだ種Canis familiaris(最近はタイリクオオカミの亜種説もあるが)で、種を分ける時の基準「生殖隔離」という概念、自然状態で交配して子孫を残していけなければ別種という考え方からすると、セントバーナードとチワワでは交配できないのでこの2品種だけみると、「生殖隔離」が起こっていて別種と整理できそうだが、この2品種の間に他のいろんな品種がいて、それらとは交配できる生殖隔離が起こっていない組み合わせがあって、その組み合わせを繋げていくとセントバーナードとチワワも結局繋がっていて、そういう場合は同一種とみなすという整理。そういういろんな変異、個体差、地域差なんかを含んだ種で、人工的な違いの場合は「品種」、地域差や個体差など自然環境での違いは「タイプ」という言葉をよく使っている。ので、とりあえず香港のZacco platypus についてはホンコンタイプということだけど、わかりやすく「ホンコンオイカワ」と呼ぶこととしたい。

 次にもう1種はParazacco spilurus で、日本のカワムツCandidia temminckiiに雰囲気と生態的地位(ニッチ)が似ている。日本でのオイカワとカワムツの関係は、浅くて石につく珪藻類等餌が豊富な清流域の瀬はオイカワが優先し、カワムツは淵や上流にやや追いやられているというか、そういう「棲み分け」をしていると考えられている。ホンコンオイカワとこの種の関係においてもどうも同様の棲み分け関係がみられるようで、現地で釣ってそう感じたし、最初この種が釣れてホンコンオイカワの生息地の発見にはちょっと時間がかかっており、ホンコンオイカワの生息する川も限られているのは、香港が半島と島でできていて瀬の連続するような流程の長い河川が少ないことに起因しているのではないかと推理している。香港の川は山から渓流のような感じのままズドンと海に落ちるか、少ない平地で建物が密集している中を護岸されて流れており瀬とかは無い状態なのでホンコンオイカワの生息適地が限られているのではないだろうか。

 この2種目は英名がPredaceous Chubで肉食チャブてな呼ばれかたで、確かに口が大きいが日本のハスのこれぞ魚食魚というデカ口を見ている人間としては、肉食ってほどではないと思ったりする。まあでも、英語ではコイ科のこのぐらいのオイカワ・カワムツサイズの魚をチャブと呼ぶんだと思う。ルアーメーカーのクリークチャブのチャブである。なので、香港の釣り人達も最初「香港チャブ」と呼んでいたが、あまり名が体を表さないというかイメージがはまらなかったようで、ハマさん提唱の和名「ニジカワムツ」を使っている。「標準和名」なんていうのは、最近では論文で報告した者が提唱したものがそうであるという暗黙のルールになっているが、そもそも「標準」の概念はまあ簡単に言えば「普通」ということでだいたい合ってるはずだと思う。普通に使われているのが「標準和名」であるべきで、日本では馴染みのないこの種の標準和名は香港で釣りをする日本人が「普通」に使っているものがそうなるべきだと思う。今後この「ニジカワムツ」という、個体差に富む玄妙な色彩を持つこの種の特徴をイメージしやすく美しい響きのある名前を使うこととしたい。

 3種目は「馬口」と中国では表記されるOpsariichthys pachycephalusでオイカワのような体色でやや口が大きい種だが、これはまだ生息地を発見できていないそうである。ただ既に香港釣り人チームはいろんな場所の河川を釣り歩いて調べており、まとまった生息地とかが無く割と個体数少ない種なのかもしれない。とりあえず今回の旅のターゲットには入れていない。

 

 作戦としては、朝にニジカワムツの追い星の出た雄の大型個体が狙える渓流を釣って、午後からホンコンオイカワを狙えるとある河川中流域のポイントを釣り歩く予定で、朝から電車バスを乗り継ぎつつMABOさん、ハマさんと合流してポイント目指す。香港は網の目のようにバス網が張り巡らされていて、一人ではどうにもならんところであった。心強い限りである。

 海辺の道路をバスで行き、たどり着いたバス停からテクテクと坂道を上り、貯水池脇の遊歩道を進み、崖をおりてポイントの渓流に到着。この川は途中貯水池があるものの割と海までズドンな川でほぼニジカワムツしかいないとのこと。道中鳥の声など聞こえるなか皆で「鳥とか木とかも名前がわかれば、もっと楽しいだろうね」とか話ながら行く。道路をセキレイの仲間が歩いていて、河原をよく歩いている鳥なので馴染みがあるのだがセキレイまでは分かったけど何セキレイまでかは分からなかった。今ググったらホオジロハクセキレイが白黒のツートンのイメージからビンゴっぽい。香港結構鳥も多い気がする、いつも釣り場では鳥の鳴き声がしているが、どんな鳥が鳴いているのかいまだつかめていない。

山登り

 崖を降りてすぐの淵を私が狙って、下流のポイントでMABOさんが釣る。ハマさんは竿出さずに完全にサポート体制で私に釣らせようとアドバイスをくれる。遠来の客に何とか釣ってもらおうという心遣い、いたみいります。

最初のポイント

 木の間から垂らす感じで、ビーズヘッドでスーッと沈んでいく小さなラバージグのようなニンフフライで釣る。けっこう着水音に反応してフライをつつきに来るのだが、小さくてフッキングしない。アクションさせるよりフォール中のバイトや底転がっているときのバイトが多いということでフォール&底ドリフト。しばらくフッキングしない小物のアタックに苦戦して、「楽勝かと思っていたが、これはここに来て思わぬ苦戦をしてしまうのか?」と不安になり始めた頃に底を転がしていたフライにヒット。

 小さいが、あげてみると予想に反して細長くなく、平べったいフナのような体型。ナナツボシ(Puntius semifasciolatus)とのこと。熱帯魚屋で売っているゴールデンバルブの原種だそうである。ゴールデンバルブとかのバルブ類は観賞魚としては馴染みがあるが、原産地で原種を釣ってしまうというのはなかなかに感慨深い。

ナナツボシ

 実は、これが私の人生で釣った200魚種目にあたり、さらに感慨深さも増すのであった。なにげにこの種がフライで釣れたのは初めてだそうで、フライで初ゲットの栄誉もいただいてしまったようだ。

 その後は同じポイントでは反応無くなり、下流のMABOさんは釣れているとのことだったので、下流に移動。

 しかし、ここでも芳しくなく、雨が降り始める中苦戦が続く。たやすいおいしい釣りが待っていると思っていたのだが、ちょっと暗雲がたちこめてきた。

 MABOさん釣っているあたりでスッポンが死んでいて蛆が湧いており、ワカサギ釣りでベニサシ常用している私はあまりためらいなく、のべ竿仕掛けを出してきてさし餌で釣り始める。

 ニジカワムツの幼魚ゲットで201種目である。

ニジカワムツ幼魚水槽で

 何匹か釣れたが幼児虐待みたいなことをしていても埒があかないので、上流の本命ポイントに向かう。3カ所ぐらい大型雄の期待できる「追い星保証」的なポイントがあるそうだ。

 1カ所目は川岸の土手上から浅めのダラッとした淵を狙う。

崖上から

 砂底で魚の動きが見える。結構、淵の中をグルグルと泳ぎ回っている。その進行方向に上手くフライをロールキャストとかで落とせると、活性高い個体が食ってくる。まずはメス。カワムツよりも全体的に淡い紫の色調だけど雰囲気は似ている。

ニジメス

 もういっちょメス追加した後、泳いでる中で一番デカイのがビーズヘッドニンフのフォール中突進してきてスパンと食った。結構3番のフライロッドを曲げて走り回る元気な魚。待望のオスの追い星でた個体ゲット。

1発

 大喜びで撮影タイムに入る。尾びれが黄色、他のヒレがピンク、魚体は紫ベースに紺の模様が入って綺麗。ニジカワムツという名前はぴったりな感じがする。

1匹目ヒレの色

 

 次の滝のポイントでは、渕尻のあたりから攻め始めて数投でヒット。これも元気よく左右に走ってくれた。

滝ポイント

 でたぶん今回の旅のニジカワムツ最大個体で16センチか17センチぐらい。最初の個体に比べると、体側の紺色の模様が少なくヒレのピンクが強く、尾びれが黄色くない。

滝壺にて

ピンクの個体

 ヒレエッジが白くてちょっとイワナを彷彿とさせるとハマさんが言っていたけど、釣れてくるのが渓流でもあり確かにそんな気がする。

ヒレ白

釣れました

 

 最後のポイントでもういっちょ追い星でたオス追加。

3匹目

 

 いつも良い場所は最初にやらせてもらっていたが、MABOさんも要所要所で釣っていた。デカイのがアグレッシブに最初に食ってくるパターンが多かった。イワナに比べると流れ込みについているパターンは少なくて、渕尻近くにフライを落としても目ざとく見つけてUターンして突進してきているようだ。

 ポイント

 最初、やや不安な出だしだったが、終わってみればハマさんの狙いどおりのポイントでキッチリ釣れて、満足のいく結果となった。

 ニジカワムツ、フライへのアグレッシブな反応も、かかると走り回る元気さも、そしてもちろん美しい見た目も、非常に魅力的な魚であった。

 

 とりあえず、ニジカワムツポイントからは撤収、山をおりて次はオイカワポイントに向けて、バス、電車、バスと乗り継いで、山越えて行くのであった。

 

(2日目午後の部)

 山を越えて行くバスは二階建てバスで、英国の残り香を感じるが、山自体は熱帯っぽいジャングルの様相を呈している。

世界の車窓から 

 香港は緯度的には沖縄本島より南、台湾南部と同じくらいの緯度だけど、台湾南部のような熱帯気候ではなく、大陸のサバナ気候と温暖湿潤気候(日本はだいたいこれ)の間にある温帯夏雨気候というやつらしく、冬は大陸からの北風で結構寒いと聞くし「熱帯」というイメージはないのだが、それでもいわゆる「熱帯魚」の類が帰化しているし、植物は普通にバナナが生えてたりして自然環境は熱帯っぽい印象の部分がある。

 バスをローカルな観光地で降りて、とりあえず昼ご飯を食べながら、これからの釣りの打合せやら、魚の話やら。

図鑑

 MABOさんが香港の魚図鑑を持ってきていて、魚話は釣り人が集まれば当然のことながら盛り上がる。

 

 観光地の脇をとおり、地元住居の路地を抜け川縁に出る。

 確かにオイカワっぽい瀬の結構ある「渓流域」ではなく「清流域」の川が目の前に現れた。

 浅瀬にはテラピアが泳ぎ、淵の水面ではポツポツとライズも見える。

 早速フライタックルをセットして、お立ち台のように淵の真ん中にはりだした岩に乗っかって釣り始める。

お立ち台

 午前ニジカワムツを狙ったのと同じ14番のショートシャンクのフックに巻いたビースヘッドのニンフを沈めたり、チョイチョイと引いたりすると、後ろから小型の個体がワラワラとやってくるのが見える。ニジカワムツはあまり動かさないで落とし込みとかで食わせる方が確率高いが、ホンコンオイカワは引っ張ってアクションさせた方が良いことが多いらしい。

 日本でもカワムツがルアーで釣れることは珍しくないが、オイカワはルアーをふつう追わない。でも、ホンコンオイカワはルアーも追うらしく、小型のスピナーで村田さんは釣った実績がある。

 しかしながら、小さいのばかりで追いはあるけどヒットしないので、やや上流のコンクリの護岸のところに移動して、フライも20番ぐらいのエルクヘアカディスの水面直下曳きに換えたところ、程なくゲット。

 1匹目は写真撮ろうとしていたら落として逃げられて、2匹目が写真の個体である。

2匹目

 見た目も幅が広くてちょっと日本の見慣れたオイカワと違うが、顔というか目もちょっとバランス的に大きいように思う。横たえて写真撮ろうとしても、イワナのように「立ち上がる」ので写真が撮りにくい。幅も広いが太さも太いように感じた、日本のオイカワに比べると若干寸詰まりな印象。

立ち上がる

 何で、こんなに立ち上がってグネグネと浅く張った水の中でも泳ごうとするのか、帰ってからもつらつら考えていたが、ホンコンでは川の流程が短いこともあって、オイカワの生息する瀬が連続する「清流域」が短く、増水時に下流に流されたりすると海に流される前に早急に元いた場所に戻るために、冠水した河原の浅い水の中を、イワナがそうするように、グネグネと這うようにして遡上するためじゃないだろうかと想像している。まあそんな単純な話じゃないのかもしれないが、なにか理由があるのだろう。

 ちょっと上流も含め、ポイント換えながら釣るが、なかなかサイズは大きくならずあまり模様の比較できるようなサイズが釣れてこなかったが、やっと婚姻色のでている個体が釣れたので、写真におさめる。

婚姻色

 ANAの機内誌のイラストで、日本のオイカワの婚姻色は体側は青がベースと書き留めたが、ごらんのようにホンコンオイカワのこの個体は青と赤っぽい黄色が交互に同程度ある。

カラーパターン

 このようなカラーパターンの個体は結構多くて、青がベースの個体は逆に見ていない。

 村田さんや、ハマさんのブログの写真を見ても、なんか模様が違うなと思っていたが、現物見てもやっぱり模様もちょっと違うのではないかと感じた。

 

 ホンコンオイカワがどの程度日本のオイカワと違って、中国本土とかにはにはその中間型がいるのか、それとも中間型いなくて種か亜種を分けた方が良い関係なのか、そもそも日本のオイカワも全地域を見たわけでなく、また、日本のオイカワは琵琶湖産アユの放流に伴って関西型がどこでも主流となっているので、私ごときが断定的に断ずることはできないが、でも、図鑑でもネット情報でもZacco platypusとして同種とされている、日本のオイカワとホンコンオイカワが実はちょっと違いがあるというのを実際に見て知っているというのは、自分の中ではナニカ大事なものだと信じるに値するぐらいの、喜ばしい知識である。  

 

 まあ、サイズはあまり大きいのはいなかったが、数は充分釣ったし何とか写真撮るサイズもゲットしたので、お次は延べ竿タナゴタックルで小物釣りである。

 ホンコン界隈の日本人釣り師の間では何故か熱いブームが来ているらしい小物釣り。

 熱くなっている面々に、いろいろ話をうかがってみると、まずは単純に、小さな魚でも釣れれば面白いというのがあるようだった。すごくよく分かる。

 最初は、私がホンコンオイカワ釣りたいという話をしていたので、まあどこかで釣ってみるかぐらいのトーンできっかけは様々だけど、「ちっせー魚チマチマ釣って、面白いんだろうか?大物こそ釣り人のロマンだろ?」とか懐疑的な気持ちででも、いざ取りかかってみると、ちっちゃい魚を繊細な道具立てで釣ると、ちゃんととてもまったく面白いということが、「ノーリーズン」、「考えるな感じろ」的な感じで釣り人なら分かるはずである。私だけが特殊なマニアックな釣り人だから分かる訳じゃないということは、ホンコンのルアーマン、フライマンもはまったことからご理解いただけるのではないだろうか。

 魚ってだいたい釣れれば小さかろうが大きかろうが面白い。

 でも、やってみようと思うきっかけや、釣りたい魚や嗜好は個々それぞれで、ハマさんはフィリップ君というフライマンのアップしたホンコンオイカワの釣りの動画の映像を見て、美しい婚姻色に惹かれてスイッチが入ったらしい。

 たまたま、フィリップ君釣り場に現れて「ナイスチューミーチュー」な感じでシェイクハンドしたった。ホンコンオイカワという魚でなぜかリアルとウェブとで繋がった奇縁も旅ならではの味わい深い思い出。

 魚種の好みも、中国原産の在来の種が好きとか、ツルギメダカ(熱帯魚のソードテール)とか野生化した観賞用の美麗種にも惹かれるとか、釣り人それぞれ個性があってそれぞれの楽しみを追求しているようにお見受けした。まったく正しい楽しみ方だと思う。オレは嬉しい。

 加えて、そういう単純な「釣れたら楽しいさ、釣りだもん!」という喜びのほかに、繋がって芋づる式にグチャグチャと絡みつつ加速していく面白さが、小物釣りに限らずだが、小物釣りにもぎっちりとある。めいっぱいある。

 ホンコンオイカワを釣る過程では、ニジカワムツも釣れたし、在来種、外来種いろんなのが釣れたし、今はホンコンでタナゴを探すというクエストも派生して生じているようだ。村田さんの動画に「僕たちがあたえられたのは、指令でなく自然だった」とあるように、普段の釣り場と違うフィールドに目を向けて、香港の自然環境やそれを取り巻く行政や歴史的なものにも、自ずと「検索」をかけていき、そしていろんなことが分かって、更に知りたいことが増えていく、楽しみが増えていくという、そういう森羅万象に興味が向いて複雑に絡まり合う要素それぞれを「知りたい」という想いを抱くことの純粋な楽しさを、そのきっかけと私がなれたのかもしれないと思うと、光栄でありこのうえない喜びであり、もっとそういう楽しさを伝えていきたいと強く思うのである。

 1匹の魚を釣る。そのためにその魚を知る。その魚の棲む環境を知る。その魚の棲む環境に棲む他の生き物を知る。その魚の棲む環境が生じている歴史的・地学的背景を知る。その魚を釣るための技術を調べる・工夫する。その魚を釣るための道具を調べる・工夫する。みんなと楽しむ。子供と楽しむ。一人で楽しむ。旅人も楽しむ。ネットでもリアルでも楽しむ。ありとあらゆるその魚に関わる事項が、興味の対象となり、楽しみとなり、それらはお互いに複雑に関連し合うと同時に、さらにまさにウェブ状にいろんな方向へ他の魚や釣りへの興味・知識にもいざなうだろう。一度この楽しみのウェブに絡み取られたら、後はこの楽しみから逃れることはできない。

 逃れることはできないので私も大いに楽しむことにして、いつもの小物竿、やっすいグラスの、とりあえずそのうち良い竿買うつもりで買ったら、適度に粘っこいグラスの感じは小物釣りには実に良い感じで、一番気に入っている小物竿となった名竿「白滝」(なんと800円お得)を出して、マルキューの練り餌「グルテンワン」を堅めにつくって、タナゴばりの浮き仕掛けで釣り始める。

 コンクリのプラットフォーム上になった足下の護岸際というか下のえぐれに、シマシマの魚が出たり入ったり、シュロのような土嚢かなんかの残骸のまわりに黄色い背びれの観賞魚っぽいのがウロウロしていたり。

ポイント

 

 とりあえず、良い場所をゆずってもらって、北江光唇魚Acrossocheilus beijiangensis 略して「キタエ」と呼ばれていたシマシマのを狙ってみる。この魚は、中国本土では希少種となっている魚らしいのだが、香港では結構多くて在来のコイ科魚ではオイカワ系の次に良く釣れる魚のようなので、まあ釣れるでしょう、というような雰囲気だったのだが、これがなぜか大苦戦。シマシマのがオモリを着低させると周りに寄ってきていかにも食いそうなのだが、これが食わない。そのうち反応しなくなって餌はガン無視で縄張り争いなのかケンカしてたりする。

 ナナツホシはまたつれたし、ホンコンオイカワは正直タナゴ仕掛けで小物釣っている時には邪魔なぐらい釣れてくるが、キタエちゃんにはすげなく袖にされつづけた。

七星魚

 結局釣りきれなかったので、MABOさんの釣った魚だが紹介しておきたい。上から見ると白黒の縞々でパンダっぽいいかにも中国な魚なのだが残念。

 キタエちゃん

 

 北江が食う気なさそうな動きになってきたので、ハマさんが粘っている隣に行って、ハマさんお気に入りのツルギメダカを狙う。

 熱帯魚屋で売ってる真っ赤な改良品種とかが観賞魚好きにはなじみ深い「ソードテール」である。

 これは、割と簡単に大きめの妊娠中のメスが釣れた。赤いラインが入るので、一番一般的なXiphophorus helleriではなく、日本で買うとペア3千円とか割と良い値段しているXiphophorus clemenciaeかなと思っていたけど、ネットで調べると前者でも赤いラインが入る個体はいるようだし、そもそも、純血種かどうかなんて見た目では調べようがないので、とりあえずツルギメダカの一種Xiphophorus sp.としておく。

ツルギメダカ メス

 ツルギメダカは中米メキシコあたりの原産だが、あのあたりにはいろんな卵胎生メダカがいて、一緒に飼うと見た目結構違っていても交雑したりして、形が違うほどには血は遠くない仲間なんだということが理解できる。泳いでいるのも明らかに背びれが伸びて派手なバリアタスっぽいのや、グッピーっぽいヤツもいて、グチャグチャと交雑していそうな気配もある。

 次に釣れたこいつが、何者なのか私にはまったく分からない。ツルギメダカのメスとサイズと体系は同じような感じだが、色はちょっと違って、尾鰭の黒い点が2つあるのはプラティのミッキーマ○スカラーの名残のような気もする。こいつの同定は諦めて不明種とするしか無いというのが正直なところである。

ミッキーの耳

 見ていると、剣とかソードとかの名前の由来である尾鰭下端が伸びたオスのツルギメダカも泳いでいるが、なかなか餌を食わず、食っても端をちょっとつまむだけで、妊娠中のお母ちゃんのように子供の分までモリモリ食うような食いかたしてくれずに、これまた釣れなかったので、またも人のふんどしで面目ないが、ハマさんの写真を拝借して紹介しておく。なかなかの美麗種である。デザインもなんでこんなシッポにしたかな?という感じだが、とんがった感じがいかにもオスっぽくて良い。

ツルギメダカ 

 ハマさんは、途中で帰宅。夕方近くまでMABOさんと釣って、キタエちゃんは釣れなかったけど、本命のホンコンオイカワは飽きるほど釣ったし、そろそろ満足したしで、撤収に入る。

バナナヶ淵 

 最後、両岸護岸でない上流のエリアを釣って、あがろうということになって、良いポイントをやらせてもらう。バナナの生える淵の流れ込みが、渓流なら狙いどこだよなと、エルクヘアカディスの12番くらいのをボカッと浮かせたら、良い感じにバシャッと出てくれた。引き味楽しんでニジカワムツゲット。これで終了とする。今日も楽しい釣りだった。

良い出方 ニジカワムツ 

 

 バスで駅まで帰る。この駅の近くには大きな市場があって、魚とかいっぱい並んでて面白いですよというMABOさん情報にバイトして、ふらふらと夕暮れ時のホンコンの街をブラブラする。

 大きな市場の外の問屋街みたいなエリアの店先の、ドリアン山積みやら、ナマコ、フカヒレ、干物各種なども楽しめたが、魚市場の面白さはもう魚好きにはこれまた至福、眼福の楽しみであった。

 活けの、タイワンドジョウやアイゴ、いかにも中国な迫力あるソウギョ(かアオウオ)の切り売り、ちょっと熱帯ぽいカラフルなイトヨリダイやノコギリガザミの類、コウタイもいるじゃないか!タウナギが頭をもたげている横にカエルの篭を置いたマニアックな店などなど、写真パシャパシャしながら堪能した。ああっ、この異国情緒。香港の人達はこういう魚たちを食ってるんだな。

タイワンドジョウアイゴソウギョ?イトヨリダイ キビレノコギリガザミコウタイ ギギタウナギトラフガエル?

 −君の名は その4−香港魚市場逍遙編  ←番外編はこちらからクリック、クリック

 

 2日目もいろいろ充実していて、ちょっと疲れたかなという感じもあったけど、明日はもう釣れても良いし、釣れなくても、ホテルで寝てても良いしという余裕の心持ちで、床についたら良い眠りが来てくれた。

フライタックル 

 おやすみなさい。

 

(3日目)

 朝方、雷鳴で目が覚める。夢とうつつの狭間で結構ザンザカ降ってるなと思ったような気がする。

 そのまま夢の方に戻って8時頃まで寝倒してベットでうだうだした後、割と疲れもとれて体調も良い感じなので、今日も朝飯をがっちり食ってから、単身昨日のホンコンオイカワポイントに行こうと決める。

 電車、バスと乗り継いでポイントに向かっていると、鈴木さんとハマさんから、昨夜の雨で増水しているかもしれないので気をつけてネというメールが。

 釣り場に行って、確認してダメなら帰ってくると返信。バスは街中の川沿いを進む。確かに濁っていて昨日の雨の影響が見て取れる。しかし、街中の川もシーバス狙えそうでそそられる。

街中の川

 バス停からポイントまで、テクテクと歩きながら、生け垣の花など写真に収める余裕の逍遙。

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 この花は地面に落ちた花からもにおいが立ち上がっているのだと思うが、キンモクセイとかクチナシとかに近い良い香りを、雨上がりの空気に漂わせている。昨日も良い香りだと思ったが、今日は一層むせかえるような香りを放っている。なんていう花なんだろう?

道上の花君の名は

 ポイント上流の橋から流れを見下ろすと、そんなに増水してないし濁りも麦茶ぐらいに薄く着色している程度でたいしたことない。まったく大丈夫っぽい。

橋の上から 

 増水していて事故の危険があるようなときは論外だけど、そこまでじゃないときにどのくらい濁っていれば釣りをあきらめるかという基準は一応自分の中にはあって、魚種や川か海かなんかでも当然違うんだけど、川では膝下まで立ち込んでつま先が見えるぐらいの濁りまでなら釣ることにしている。これは、アユの専門家の鮎迷人に教えてもらった基準で、だいたいそれより濁るとアユだとその濁った水に対して忌避行動を取って、流されないようにどっかに逃げるという研究報告があるそうだ。イワナなんかだとそのぐらいの濁りがあった方が良くルアーを追ったりするので多少差があるのかもしれないけど、だいたいそのぐらいを基準にしている。本流がつま先見えない濁りでも、支流や上流に行くとつま先見える良い塩梅の濁り具合だったりすることもある。

 今回、香港はもう長靴だと暑くてムレる気候だということだったので、夏のカヤックの時に履いているメッシュのマリンシューズ履いて長ズボンはいたままジャブジャブ川に入っている。

 とりあえず昨日釣りきれなかった、キタエちゃんとツルギメダカオスが釣りたいなと、まずは餌釣り仕掛けで、昨日と同様コンクリの足下の際を狙う。多少の濁りが好影響を与えているのか、キタエの活性は高い感じで、流れに負けないようにガン玉2個で仕掛けを底に落とすと、何匹かがその周りに寄ってきていかにも食いそうな雰囲気なのだが、でも昨日に引き続き食わない。

 キタエが食わないうえに、ホンコンオイカワの活性が高く、小型のホンコンオイカワが佃煮でも作れとでもいうのか、というぐらいに釣れてくる。

ホンコンオイカワ 

 どうも、マルキュー「グルテンワン」のちょっと焼いたら美味しいお菓子になりそうなぐらいの、甘い香りとニンニク臭の入り交じったフレーバーは集魚効果高すぎてホンコンオイカワ寄りすぎのような気がする。ホンコンの皆はオーソドックスな卵の黄身で小麦粉を練った「黄身練り」で釣っているが、やはりオーソドックスな餌が汎用性高いということか。

 しかし、私も昨日の今日で無策でのぞんだわけではない。河原におりる前に草むらを探して、小さなバッタを仕入れてございます。

バッタ 

 実は、昨日も虫餌はどうだろうかとトビケラの幼虫でも使おうと、あちこち川の石をひっくり返したけど、これが川虫がいないのである。写真のようにカワゲラの抜け殻も確認できたので川虫いないわけじゃないんだろうけど、時期が悪いのか個体数少ないのか日本の川の今時期のように石ひっくり返せばニッポンヒゲナガカワトビケラの幼虫のクロカワ虫やカゲロウの類の幼虫であるピンチョロとかがいる状況ではなかった。ホンコンオイカワはライズしていたので羽化してる水生昆虫がいるはずだが、飛んでいるのが目に付かなかったということは、小さいユスリカなどのいわゆるミッジかなんかだったんだろう。

ストーンフライ シャック

 そこで、日本でも夏の水生昆虫の少ない時期には重要視する陸生昆虫の出番ですよ。いわゆるテレストリアルですよ。ということでバッタ君に登場願った。

 しかしながらバッタ君の健闘もむなしく、やっぱりホンコンオイカワが釣れてくるだけでキタエちゃんにはまたもお気に召していただけなかったのである。

 オモリが着底してもキタエちゃん反応しなくなったので、やや上流の流れが緩い場所のツルギメダカを狙いに行くが、今日は緩い流れを求めてかテラピアとホンコンオイカワがワシャワシャとしていて、メダカ系は目視できなかった。

 

 結構粘ったが、釣れないものは仕方ない。釣れるものを釣ろうということでフライタックル出してきてホンコンオイカワ狙いに切り替える。

 フィリップ君情報では下流の方でサイズの良いのが釣れるとのことだったので、下流へつり下がっていく。インチキの冠が付くとはいえ一応フライマンなので、増水時流された陸生昆虫をイメージしつつキラキラ光って目立つフライをとかなんとかゴチャゴチャ考えてクジャクの羽のボディのコーチマンパラシュートをチョイス。まあ、何でも食うんだろうけどそれっぽい気分を楽しみたいジャンというところ。

 下流域は広くて浅めの瀬が連続していて、瀬の中からホンコンオイカワ順調に釣れてくる。サイズはそれほどではないがドライフライにバシッと出てくれるので結構楽しい。

瀬

 小さな支流の合流点、葦に囲まれた小さな淵になっていてニジカワムツっぽいポイント。ドライにはかからないような小さいのしか反応しないので、ビーズヘッドニンフに換えて適当に淵に放り込んで落とし込んでいると2匹目にサイズは小さめだけど追い星出たニジカワムツゲット。

ニジカワムツ 小オス

 写真撮ったりしてなにげに足下見ると、淵の底の石周りにツルギメダカが特徴的なオスの尾鰭をヒョロヒョロさせて結構泳いでいる。

ツルギメダカ生息地 

 ニジカワムツ釣ってちょっと騒がしくしたので、一旦落ち着かせて再度釣りにくることにして、また釣り下がっていく。

 

 そこから下は三面護岸というホンコンオイカワポイントの最下流の淵、ビーズヘッドニンフで底を探ってキタエちゃん釣れないかなとか探っていたら、テラピアっぽいのが追ってきた。ちょいとスピードダウンしてやるとパクッといったので合わせる。

 結構モグモグと暴れるのをなだめて浅瀬にずりあげる。

ジル?

 このポイントにいるテラピアはサイズが全体的に小さくて、こいつも15センチぐらいだが、たぶん今まで釣ったことあるナイルテラピアやモザンビカテラピアじゃない種類、たぶん日本にも帰化している第三のテラピア、ジルテラピアTilapia zillii だと思っていたのだが、帰ってきて調べると、見分けるポイントの臀鰭の棘を除いた軟条数7〜9本に対して拡大して数えると8本か9本に見えるので合致する(モザンビカテラピアは9〜12本、ナイルテラピアは10〜11本)けど、もう一つの特徴である背びれの黒点が無いので、たぶんジルテラピアだと思うんだけどちょっと自信がない。他の種類かも。

 

 適当に時間もつぶれたので、支流の流れ込みの淵に戻ってツルギメダカ狙い。割といっぱいいるが最初ちょっと寄ってついばむような動きは見えるがハリまで吸い込まない。ここでは小型のニジカワムツが釣っても釣ってもな感じで釣れてきて、ちょっと寄ったツルギメダカが食うタイミングを奪っていく。

 ツルギメダカはオスもメスも基本石に付いたコケ食っており、コケにされた気分である。

 昨日釣れたメスに比べると、泳いでいるオスはそもそも小さいように見える。メダカ釣りのハリはタナゴ針を更に研いで針先を短く小さく加工して作るらしいと聞いているが、ついばむようなバイトもかけるためにはそういうハリが必要か?深みには多少大きめのオスとメスもいるが、これもちょっと興味示すだけでハリがかりするほどは食ってはこない。

 粘ったが霧雨も降り始めて、立ったままなかなか食わない魚を狙い続けるのもしんどくなってきたので諦めて、オイカワねらいで18番エルクヘアカディスで瀬を釣り上がる、やっぱりオイカワは瀬の魚という印象で瀬で良く出る。

チビ 

 チビはフッキングと共にこちらにフッ飛んでくることも多いが、かかってすぐに瀬の中右に左に走り回るのが来た。「ニジカワムツか?」と思いながら寄せてくると、「オイカワや!」。追い星もでて婚姻色もバリバリでたオスの個体。日本のオイカワもオスの婚姻色は華麗だが、ホンコンオイカワの婚姻色もやっぱり美しい。

ホンコンオイカワ婚姻色オス 

 10センチチョイあると思うが、このサイズでも「立つ」。この個体を見ても、日本のオイカワとは顔も違うし幅広で寸詰まりだし、模様はやっぱり青メインじゃなくて日本のオイカワよく知っているとちょっとヘンな感じがする。

立ちます婚姻色

 そろそろ撤収も考えつつ釣り上がっていく。小さいがコンスタントに釣れる。

 

 再度、私もしつこい目の性格なのでキタエを狙う。水量はすっかり落ち着いて昨日のレベルに戻っている。

 キタエはいて、やっぱりオモリが着底するのに反応しているので、餌のハリの他に小さいフライも追加して2本バリ仕掛けで狙うが、予想できたとはいえホンコンオイカワ一荷とかで、またもキタエちゃんにはフられてしまった。まあ、今回は縁がなかったということにしておこう。

 最後、フライでいくつかオイカワ追加して撤収。

 婚姻色が綺麗なホンコンオイカワのオスも釣れて、今日も1日楽しめた。3日間の釣りの予定は終了である。3日とも充分以上に楽しんだ気がする。満足である。

 

 夕飯食って、ホテルに帰って、お片づけなどしつつ顛末記ネタを仕込む。

 

 土産を何にしようかと、今日も市場街をうろついたんだけど、量り売りの乾燥イチジクとかのドライフルーツが美味しそうだったけど、店の人と筆談交渉とかやれる自信がなく断念。結局普通のスーパー的な店で買った。

お土産 

 上の方は、タラスティックみたいな安ぱっちいおつまみ系。

 もう一丁は、「フライドデース」と書かれている缶詰。チャブがオイカワ・カワムツサイズのコイ科魚ならデースはウグイとかのサイズのコイ科魚の英名だったと思う。フライパターンのブラックノーズデース(黒鼻のウグイ)のデース。缶に描かれたイラストではウグイというよりはワタカのような体高のある魚体が描かれている。謎の缶詰。

 職場の飲み会の時に開けて食べる予定である。完全なウケ狙いだが、この面白さが分かる人種が我が職場には結構いるはずである。

 

 延べ竿小物タックルの脇に写っているキンチョウの虫除け「プレシャワー」。今回ホンコンオイカワポイントはヌカカが多いと聞いていたので、ヌカカ対策に持ち込んだがとても良く効いた。2日目左手をニジカワムツの撮影のために水に浸けることが多かったのだが、その時に虫除けが流れてしまったのか、見事に午後のホンコンオイカワポイントで左手だけヌカカに刺されまくった。私は東北で耐性できるぐらい刺されているのでポチッと赤い点になるぐらいでたいした被害はなく大丈夫だったが、ヌカカは刺され慣れていないと刺された箇所がボコッと腫れていつまでもかゆかったりするので、ヌカカ発生地に行くときにはこの虫除けをお奨めする。ガス式のスプレーではないので空の旅にも対応可。マリンの香りというのは何のにおいなのか、普通に虫除けのにおいだったがこれまた謎である。

虫除け

 今回も良い釣りできて、余裕こいてお約束のガウンでグラスをくゆらせシーンでも撮ったろかと、バスルーム内を探すが、なんと経費削減か繁忙期で省略なのか白いガウンが無かった。このホテルは2回目だが、値段ちょっと高めだけどその分非常に快適なのだが、ガウンが無いなんて評価を下げねばなるまい。

 ご期待いただいた皆様に申し訳ないので、恥ずかしながらセミヌードを披露させていただく。最近、そんなに飯食わなくても体重が減らなくなってちょっと腹が太くなっている。まあ元々がガリガリなのでちょうど良いくらいである。秋のクリスマス島遠征に向けて筋トレは続けているので、秋のセミヌードにもこうご期待である。

43才のセミヌード

 アホなことをやりつつ、楽しい釣りの思い出を写真見返したりして堪能してから寝た。

 

(4日目)

 適当に起きて、毎日楽しみにしていたホテルの朝食バイキングもこれで最後。粥にザーサイだの放り込んだのを食い、生ハムとメロンが置いてあって「これは生ハムメロンというヤツを楽しめということか?」と思ったけど、自分は食に関してはチャレンジャーな人間だと思っているが、生ハムメロンはなんか小ジャレた奴らに騙されている気がして気が進まず、生ハムはフランスパンに挟んで食ったった。

 ホテルをチェックアウトして、主要な駅を経由してちょっと遠回りして空港に行くシャトルバスに乗り込んで、この旅を通じてのテーマやらを考えたり、旅の終わりの寂しさを感じたり、香港の一般的なイメージだと思うけど私にとっては逆に新鮮な、ファッションやグルメや金融のアジアの先っちょのほうの街というのが見て取れる、高級ブティックとデカイホテルと猥雑な飲食店街とが混在しゴチャゴチャと銀座と丸の内と新橋が一緒くたになったような街並みを楽しんでいたが、楽しんでいられないのっぴきならない状況が襲いかかってきた。おしっこ漏れそう。

 旅の終わりを漏らしてしめるのもいかがなものかと思うので、まだ空港までは時間がかかりそうなのでデカイ駅ビルの地下で降りた。

 切羽詰まった感じでトイレを探すが、トイレマークがなかなか見つからない。やっとマークを見つけた時には怒りを覚えた。そのトイレマークのデザイナーにだ。アイボリーの壁に金文字で書いてあるのだが、シンプルな赤と黒の男女マークのようには目立たない、ビルの高級感を損なわないように便所が目立たないようにデザインしてるんだろうが、目立たなきゃ切羽詰まった人間には意味ネンだってばよ。と怒りをぶちまけつつ放尿。間に合って良かった。

 地上に出るのも迷路のような巨大ビルで手こずったが、出たらすぐにタクシーが目の前で客を降ろしていて、良いタイミングで後は空港へ。

 

 帰りの飛行機の映画は、全世界でメガヒット上映中の話題作ディズニーの「アナと雪の女王」をチョイス。世界を相手に勝負する映画だけあって、氷とか雪のCG映像の品質だけ見ても金も技術もかけてるなという感じ。内容も面白かった。ファミリーでも私のようなサブカル好きなオッサンでも楽しめる。たぶん点数つけたら多くの人が10点満点つけるだろうというできの良さ。

 でも、なんというか計算し尽くされてできが良い分、冒険してないというか尖ってないという気がする。良くできてて面白いのに、それでもなんかつまんないという矛盾。

 日本の深夜アニメは、過酷な労働条件で働く人々が汗と涙と情熱で作っているようだが、金はディズニーほどはかけてないかもしれないけど、どこかの誰かだけが10点満点で1000点付けちゃうようなキンキンに尖った作品が結構あるように感じている。

 飯食って寝てもまだ羽田に着かないので、青山潤先生の「うなドン」を読む。ウナギ探索調査のドサ周り的日常を描いて爆笑必死の面白さだった前作「アフリカにょろり旅」の「にょろり旅シリーズ」のスタート地点のあたりのエピソードで、タヒチでのウナギ採集の旅の記録なんだが、目的の種以外のウナギ(オオウナギ)ばかり釣れまくって苦戦する様は、釣っても釣ってもホンコンオイカワ状態を思い出さずにいられなかった。青山先生オオウナギだとおとなしくさせるために容赦なく叩きつけたりしていてちょっと魚好きとしては残酷表現にひくぐらいだが、研究者として世間の主流は研究室で便利なツールを使ってスマートに解析する時代に、「知りたい」という気持ちを燃料に、昔の博物学者のように現地に分け入って自分の目ですべてのことを見たいというスタイルには熱く共感を覚えた。

 釣りも、最近は専門化、先鋭化して私のような「何でも釣る人」は少なくなったような気がするけど、それでも私も博物学者のように世の中の森羅万象すべてを対象に楽しみながら釣りをしたいと思う。

 

(旅の終わりに)

 旅は終わった。翌日から普通に仕事なので帰ってきて眠いながらも、無事帰宅のメールを打ったりブログ書いたりしつつ、洗濯機も回すし風呂にも入る。

 日常があるから非日常が楽しいと思って日々日常を生きねばなるまい。

 

 冒頭、自分と世界の森羅万象との有り様を、こうやってネットに繋がっているパソコンとWWW(ワールドワイドウェブ)との関係に相似していると書いたが、誰でもそうだと思うが、私はいろんな人との関係や知識や歴史やなんやかんやと重なって繋がってできた存在だとやはり感じる。

 人とのつながりという面でも、ホンコンオイカワのネタをくれたS先輩から、旅の手配をお願いしたケン一、道中お世話になった香港・深センの釣り人達などなど、いろんな人の世話になって生きている。

 香港に行けばイギリスと中国の歴史を感じずにいられないし、市場や繁華街の商業施設を見れば経済のあたりにも思いが至る。

 ホンコンオイカワを目の前にして、自分の釣った日本のオイカワとの比較ができる経験と知識が頭の中にあり、フライを振って魚を釣る技術はたとえインチキ臭くとも自分の体に染みついている。

 

 今回の旅に限らず、ここ最近10年単位で無作為に重ねてきた、知識やら経験やらの複雑に絡み合った「ウェブ」が、後に役に立つとかそういう意識は全然無くて重ねてきたのに、すごく意味を持って機能し始めたように感じている。

 同居人によく「オマエの頭の中にはそんな一生使わないような知識がどんだけ入ってるの?」とあきれられたような、魚を初めとした生物の知識やらが、なにか疑問が生じたときとか新しい情報が入ってきたときに、パソコンの世界で「検索」が上手くヒットしたときのように、「脳内検索」がピコーン!とうまく機能して様々なバックデータと関連づけて情報を処理することができて、思いもよらず「役に立つ」ことが結構増えてきた。

 事例を一つあげると、香港・深セン釣り人チームの今の課題である香港でタナゴを探すタナゴクエストに関連して、タナゴは卵を二枚貝に産み付けるし、二枚貝は幼生をハゼの仲間などに寄生させるので、タナゴが卵を産む二枚貝を探したいという話があったときに、当方は「ドブガイとかのタナゴが卵を産み付ける二枚貝は結構大きくて、生きているときも先の方が水底から出ているのである程度水中でも見つけられるけど、簡単に探せるのは減水した時で、水の中に逃げようと泥を掘りながら進んだ跡が残るので、その跡をたどっていけば本体が簡単に見つかる。あと、死んで沈んでいる貝殻もデカイので見つけやすい。」という学生時代に自分が見た知識を提供できた。役に立つかどうかは別にして、魚話で盛り上がって楽しかったのは間違いないと思う。

 そういう、役に立ちそうもないような知識も、ある一定の量を超えて絡み合って蜘蛛の巣状に張り巡らされると、どうもいろんな情報をあらたに絡め取ってきてくれるようなのである。

 効率的にとか、役に立つからとか、そんな事は一切かまわず「知りたいから」という欲望のままに手に入れてきたガラクタのような知識の山が、まあお金になるとか直接的に釣果に結びつくとかはあまりないにしても、知識自体の楽しみやソレを共有してバカ話するということが、それだけで充分な価値があるように感じている。

 中島らも先生が、「教養とは一人で暇がつぶせる技術である」とかなんとか書いてたような気がするが、その定義でいいなら私は充分教養のある人間だと自負する。

 金持ってようが、地位や名誉があろうが、それがどれほどの価値があるのか、あまり興味がないのでどうでも良いように思うが、「教養」があって暇がつぶせて退屈しない人生というのは実に素晴らしいと思うのである。

 

 帰ってきてから、「ホンコンオイカワ釣ってきな」と言ってくれたS先輩は「学生時代に見たホンコンオイカワもこちらのものとほとんど同じようだけど一見して「???」っという感じだった印象が記憶に残っていて、今回のナマジの写真でも同じ感想です。」とのことで、師匠であるJOSさんも「なんか日本のとは違うよね」と言っていて、普通に周りに違いの分かる男達がいる人間関係というのも実に素晴らしい。

 今回の旅でお世話になった、香港・深センの釣り人始めお世話になっている皆様にはあらためて厚くお礼申し上げたい。

 

 世界の森羅万象と私の関係は、私が蜘蛛で蜘蛛の巣(ウェブ)を張って獲物を捕らえているのか、私が獲物で蜘蛛の巣にひっかかっているのかよく分からないけど、それでも世界は素晴らしいと感じざるを得ない。

ウェブ

 森羅万象に目を向けて楽しい釣りをこれからも続けていきたい。

 

 また、どこかの水辺でお会いしましょう。

 

 −終劇−

 

 

 

(おまけ)

○日本のオイカワ

 婚姻色あまり出ていないけど、体側は青が基本のカラーパターンということは分かると思う。あと、比較すればホンコンオイカワが寸詰まりというのも分かるかと。

日本のオイカワ2010

 

○日本のカワムツ

 日本のカワムツは紺とグリーンベースにヒレに黄色がちょっと乗るシックな装い。20センチUPの大型。

カワムツ20UP 

 

 2014年 前半

 

 HP